たそがれシネマ

最近見た映画など。

最近見た映画 (2016/04/08版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

リップヴァンウィンクルの花嫁
かりそめの関係しか存在しないような世界にも真心や真実はちゃんと存在していて、だから人間は生きていける。【リリイ・シュシュのすべて】と本作を撮ったので、岩井俊二監督はもう巨匠ってことでいいと思う。

 

バンクシー・ダズ・ニューヨーク
謎のストリートアーティストにしてアート界のリーサル・ウェポンバンクシーがニューヨークに1ヵ月滞在して作品を発表した時のドキュメンタリー。アートに少しでも興味のある人は、批判するにせよ賛美するにせよ目撃しておかざるを得ないだろう。

 

リリーのすべて
世界で初めて性別適合手術を受けたリリー・エルベの実話の映画化。リリー役のエディ・レッドメインさんも、その妻役のアリシア・ヴィキャンデルさんも上手すぎ!「やっと身も心も女性になれた」と微笑むリリーさんに魂を根こそぎ持って行かれた。

 

母よ、
母親の死を看取る女性映画監督の姿にはナンニ・モレッティ監督自身がある程度投影されているらしい。忙しい日常生活の中にも親の死という問題が避けて通れない皆様にしみじみ見て戴きたい中高年あるある映画。

 

家族はつらいよ
東京家族】と同キャストだけど全く別のお話。ふんぞり返って威張りちらす独りよがりな爺さん(橋爪功さんが上手すぎる)がひたすら鬱陶しいんだけど、この人の未熟さや稚拙さが最後にはほんのり可愛く見えてくるところが山田洋次マジックなんだわね~。

 

無伴奏
学生運動の時代。背伸びして恋愛していた彼女は、この先、この傷を抱えながらも前を向いて生きていくのだろう。成海璃子さん、池松壮亮さん、斎藤工さんの役者としての覚悟も、それを余すところなく掬い取った矢崎仁司監督も素晴らしい。

 

マジカル・ガール
劇中歌はアイドル時代の長山洋子さんのデビュー曲で、エンディングテーマは『黒蜥蜴』。陰鬱さが特徴的なスパニッシュ・サスペンスに、日本文化のエッセンスをマッチさせたカルロス・ベルムト監督のセンスが興味深い。こういうのも一種のグローバル化、なのかな?

 

父を探して
ブラジルの新鋭監督によるアニメーションで、経済発展により激変しつつあるブラジルの現状が男の子の目線で描かれる。色彩感覚が特に素晴らしいんだけど、この終わり方は私にはちょっぴり悲しく感じられた。

 

光りの墓
タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の最新作。夢とうつつを行ったり来たりするような作風は相変わらずだけど、本作には特に不思議な明るさと力強さがあるような気がする。

 

人魚に会える日。
13歳で撮った初長編【やぎの冒険】が話題になった仲村颯悟監督が5年ぶりに撮った最新作。ストーリー自体には若さゆえの荒さを少し感じるけれど、沖縄の現状への思いは痛いくらいに伝わってきた。

 

 

今回は他に、先年公開されて未見だった以下の映画を見ることができました。

孤高の遠吠】(小林勇貴監督)には富士宮市の本物の不良の皆さんが大挙ご出演なさっているそうで、こんな不良活動を行うエネルギーをもっと有効に使ったらいいのにと思いました(だからこそ映画でも作ってみようと思ったのかな?)が、日本全国のあちこちに転がっているのであろうこんな風景の中に蠢いている皆さんの姿を切り取ってみせているのは凄いと思いました。

Playback】(三宅唱監督)では、村上淳さんや渋川清彦さんや三浦誠己さんに学生服はあまりにも似合わねーと思いましたが、そんなちょっと無理めなストーリーも俳優さんの存在感があまりにも素晴らしいので成立していました。俳優さんの魅力を最大限に引き出す監督さんのこの手腕にはこれからも期待できるかもしれません。

 

 

ところで。行定勲監督の熊本県PR映画【うつくしいひと】が4月12日まで無料で配信されています。
これは行定監督を始めとする熊本ゆかりの人々や、熊本県内の市町村が協力して制作した映画なのだそうで、橋本愛さん、高良健吾さん、石田えりさんなどの出演者もみんな熊本出身の方々なのだそうです。重要な役どころで出演なさっている姜尚中先生(やはり熊本出身なのだそう)の存在感も悪くありません。くまモンも出てます!短編ですが行定監督の上手さが光るしっとりした良作で、一見の価値ありです。

 

(2016/04/18追記)
熊本の地震のニュースを見ていろいろ思うところがありましたが、まず何より、被災された方々にお見舞いを申し上げるとともに、ライフラインと安全な環境の一日も早い復旧をお祈り申し上げます。

 

最近見た映画 (2016/03/11版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

十字架
いじめ、ダメ。ゼッタイ。は当然ながら、周りの人々が当人の死により負った傷とどのように向き合っていくのか、と部分を丹念に追っているところが素晴らしい。永瀬正敏さんは日本映画界の至宝になりつつあると思う。

 

キャロル
1950年代のアメリカで愛を貫こうとした女性カップルの話。ケイト・ブランシェット様の美しさと優美さが筆舌に尽くしがたい!純真でひたむきな女に見事に化けているルーニー・マーラさんも初めていいなと思った。

 

オデッセイ
独りで置いてけぼりになった火星から帰還を果たそうと頑張るこの話に、この邦題は悪くない。手に汗握り拍手を送りたくなる王道的展開が白けることなく楽しめる、正しいハリウッド映画。

 

牡蠣工場
想田和弘監督作品を初めて見た。地方の肉体労働の現場を映し取ると、外国からの出稼ぎ労働者=グローバル化の話が漏れなく含まれる。おそらくこういうことが日本全国で起きているのだろう。

 

ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年
同じ阪本順治監督の【BOXER JOE】から約20年。ボクシングにはほとんど興味ないけど、「辞める理由が分からない」という辰吉さんにえも言われぬシンパシーを感じてしまう。最近は長く現役を続けるアスリートも増えていることだし、気が済むまでやってみたらいいのでは。自分の人生なんだから。

 

ディーパンの闘い
戦火を逃れるために赤の他人の女性と少女で家族を装ってフランスにやって来た元兵士の“心の戦い”。何故かしら古き良き時代の坂本龍一氏の『フロントライン』が頭の中でリフレインしていた。

 

断食芸人
“長期海外出張中”だった足立正生監督が、現在の日本をポップとかポピュラリティとかポピュリズムという切り口で解釈するとこうなるらしい。独特の表現は買うけれど、不用意に強姦シーンを入れたがるこの時代のおじ様特有のクセだけは直して戴けないものだろうか。

 

火の山のマリア
グアテマラの映画はおそらく本邦初公開。どいつもこいつも、ろくな男が出てきやしねぇ。彼等に運命を左右されてしまうグアテマラ女性の現状は暗い、という批判が込められているらしいのだが。

 

不屈の男 アンブロークン
元オリンピック選手が戦争に行ってどれだけ苦労したか、という話でしかなく、これを反日映画だと言って騒いでる方々の思考回路は理解に苦しむ。【戦メリ】の部分的パクリっつって揶揄するならまだ分かるけど。

 

シェル・コレクター
貝類というのはモチーフとして何だかエロティック。リリー・フランキーさんのよれよれ爺ぃっぷりがいいなぁと感じるのはちょっとマニアック?

 

 

他にはこんな映画なども見ました。

 

スティーブ・ジョブズ
バイオグラフィを懇切丁寧に描いたタイプの映画とは違うので、少なくとも、スティーブ・ウォズニアックジョブズと一緒にアップル社を立ち上げた元盟友で、ジョン・スカリージョブズがアップル社に引き抜いた元ペプシの幹部でジョブズをアップル社から追放した張本人だということくらいは知っていないと、ちんぷんかんぷんなのではなかろうか。

女が眠る時
古めかしいタイトルだなぁと思ったら、内容も古めかしい感じだった。今はもう21世紀で、観客の半分は女なんだから、観念としての女を描こうとすること自体の古くささにそろそろ気づいた方がいいと思うのだが。

ヘイトフル・エイト
レザボア・ドッグス】と似ているという意見を聞くけれど、私は全然違うような気がする。かの映画からは洒落っ気と茶目っ気が失われ、ここにあるのは剥き出しの増悪だけ。ここ何作かのタランティーノ映画に個人的に心が躍らなくなった理由に少し思い当たった気がした。

 

 

かの【マトリックス】の監督のウォシャウスキー兄弟はウォシャウスキー姉弟になりましたが、この度、ウォシャウスキー姉妹になったということです。……詳しいことはよく分かりませんが、心のままに生きるということはいいことなんじゃないかと思います。

 

最近見た映画 (2016/02/11版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

サウルの息子
ナチスのガス室の話は読んだことはあるけれど、実写で再現してしまうとこんなにも恐ろしいものか(画面では大分ぼやかしてはいるけれど)。総ての人間性が徹底的に剥奪された世界で最後の尊厳を守り抜こうとした人達を、どこまでも踏みにじろうとしたナチス。彼等の存在もまた人類の一側面なのだという事実が恐い。

 

最愛の子
中国では、都会でさらわれた子供が、跡取りの働き手がいない農村の一家に売り飛ばされるという誘拐事件が多発して、マジで社会問題化しているらしい。(社会保障制度がなくて老後は子供に頼るしかないという事情もこの状況に拍車を掛けているらしい。)国や社会情勢は違っても、子供を愛し、狂おしいばかりに子供を探し求める親の気持ちに変わりはない。子供がいる人が見たら更に心を揺さぶられるんじゃないかな。

 

お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました
昔、ザ・スターリンというパンクバンドがあってだな……。遠藤ミチロウさんは、しばらく見ない間に、過激で訳の分からないおじさん(←自分に理解する能力がないだけ)から 、過激でカッコイイおじさんになっていた。故郷に対する複雑な思いを静かに吐露するミチロウさんの佇まいは神々しいくらい。

 

俳優 亀岡拓次
まるで酔っ払っている時間と時間の間に浮かんでいるような不思議な感覚。こんな映画は横浜聡子監督にしか撮れない。そして安田顕さんはやっぱり抜群に上手い。頑張れ、負けるな亀岡拓次!そしてお酒はほどほどにね。

 

の・ようなもの のようなもの
歴代の森田芳光監督作品のオールスターズ!中でも【の・ようなもの】から35年経った元落語家を演じる伊藤克信さんの存在感が白眉。森田芳光監督への愛が隅々にまで溢れていて、森田ファンとは言い難い私でも少し泣けてしまった。

 

猫なんかよんでもこない。
猫がとにかく可愛い!そして風間俊介さんって上手な俳優さんだな~ということがしみじみ分かる。お兄さん役のつるの剛士さんもよかった。俳優としてのつるのさんももっと見てみたいかもしれない。

 

クリムゾンピーク
ネタとしてはありがちだし、そんなに恐くはないけれど、 ギレルモ・デル・トロ印の重厚なゴシック・ホラー調の画面はそれだけで楽しめる。

 

ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります
古今東西、不動産の売買って大変!家の売り買いをする時にはそれまでの人生を見直してしまうのもあるある~。そんな人生の折々にこの映画のことをちょっぴり思い出す、ようなことがあるかもしれない。モーガン・フリーマンダイアン・キートンのカップルというのも斬新だった。

 

愛しき人生のつくりかた
ストーリーに派手さはないけれど、失踪したおばあちゃんを心配する孫息子がとてもいい子で癒やされる。パリの街並みやノルマンディーの美しい景色も麗しい。

 

 

2015年の個人的ベスト20映画

 

2015年の個人的ベスト映画です。

 

1.(該当なし)
2.【あん】
3.【バケモノの子】
4.【消えた声が、その名を呼ぶ】
5.【私たちのハァハァ】【ワンダフルワールドエンド】
6.【バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)】
7.【KANO 1931海の向こうの甲子園】
8.【味園ユニバース】
9.【フレンチアルプスで起きたこと】
10.【さいはてにて やさしい香りと待ちながら】
11.【イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密】
12.【龍三と七人の子分たち】
13.【裁かれるは善人のみ】
14.【真夜中のゆりかご】
15.【サンドラの週末】
16.【妻への家路】
17.【バクマン。
18.【シェフ 三ツ星フードトラック始めました】
19.【アゲイン 28年目の甲子園】
20.【きみはいい子】
20.【幕が上がる】
20.【さようなら】

(次点の映画)
【神々のたそがれ】
【野火】
【フェデリコという不思議な存在】
海街diary
【恋人たち】
【ジヌよさらば かむろば村へ】
【岸辺の旅】
【セッション】
【アリスのままで】
【アメリカン・スナイパー】
【母と暮せば】
【FOUJITA】
【ジミー、野を駆ける伝説】
【サイの季節】
【愛を積むひと】

 

(ドキュメンタリー大賞)
フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように】

(ドキュメンタリー金賞)
【皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇】【セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター】【サム・ペキンパー 情熱と美学】【ルンタ】

(ドキュメンタリー銀賞)
【アドバンスト・スタイル そのファッションが、人生】【氷の花火 山口小夜子】【薩チャン正ちゃん 戦後民主的独立プロ奮戦記】

(ドキュメンタリー銅賞)
【徘徊 ママリン87歳の夏】【バベルの学校】【みんなの学校】【地球交響曲<ガイアシンフォニー> 第八番】

 

今年は何を1位にしよう?といくら考えても思い浮かびませんでした。
実は、昨年見た映画で最も印象に残ったのは、フリーダ・カーロの遺品の写真を撮った写真家のドキュメンタリー映画だったからです。
そして、フィクション映画で一番衝撃を受けたのは松居大悟監督の【私たちのハァハァ】と【ワンダフルワールドエンド】だったのですが、これを1位にするというのもどうもピンと来ませんでした。
そんなこんなでこのような変則的な順位になってしまいました。どうぞご了承下さい。

 

よろしければこちらの元ページもどうぞ。

 

今年の抱負

今年はブログのタイトルを変更した他に、上映中のお勧め映画の順位形式も廃止することに致しました。

一応今までも、映画の良し悪しを判定するということではなく、人から聞かれた時に自分としてはどの映画を勧めたいか、という観点から順位をつけたりしていたのですが、それだけの目的であれば特に順位にしなくても何となく上から下に並べるだけでいいだろう、と思い始めたのと、自分の生活ペースからすると、現在上映中の映画をアップトゥデイトでご紹介するのが難しいかもしれない、ということが分かってきたからです。
あと、今までは総ての映画を網羅したいという心意気が心の中のどこかに一応あったのですが、歳を取ると共にそんな気持ちも徐々に摩耗してしまい、去年はついにその気持ちがゼロになってしまったということもあります。

 

どうでもいい映画はもう沢山。これからは、自分が面白そうと思える映画だけを見るぞー !! と当たり前のことを今更宣言してみたりしてすみません。

 

ボウイさんの映画の思い出

 

デヴィッド・ボウイさんが亡くなった。

 

昔、大ファンだった時期があり、バイオグラフィを読み漁り、デビューから当時までのアルバムを全部買い、特に『Aladdin Sane』(1973年)『Diamond Dogs』(1974年)『Station to Station』(1976年)などのアルバムが大好きで聴きまくっていたけれど、影響を受ければ受けるほど、自分はロックのこともアートのことも映画のことも何も知らないという事実に行き当たって愕然とし、いろいろなことを必死になって“勉強”し始めたのも、今や遠い日の思い出だ。

 

ボウイさんの音楽については自分より詳しい人々がいろいろ書かれることだろうと思うから、ここでは映画のサイトらしく、ボウイさんが出演した映画を見た記憶について、個人的な備忘録としてつらつら書いてみようと思う。

 

(注:短編・ドキュメンタリー・テレビシリーズ・声のみの出演作などは除いています。また、楽曲の提供はあまりに多すぎるのでフォローしていません。製作年はIMDbに準拠しており、日本での公開年とは異なっている可能性がありますが、ご了承下さい。)

 

【地球に落ちて来た男】(【The Man Who Fell to Earth】、1976年)

【赤い影】【美しき冒険旅行】などのカルトな作品で著明なイギリスのニコラス・ローグ監督作で、ボウイさんは文字通り地球に落ちて来た宇宙人を演じていた。これ以前にも短編などへの出演があるけれど、ボウイさんの映画デビュー作といえば大体この映画が挙げられるだろう。この世とは異質な存在である宇宙人の寄る辺のない孤独感や虚無感が印象的。既に代表作となっていた『Space Oddity』(1969年)や『Ziggy Stardust (The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars)』(1972年)での宇宙や宇宙人のイメージとリンクすることから、今もってこの映画が俳優としてのボウイさんの代表作だとする人も多いのではないかと思う。

 

【ジャスト・ア・ジゴロ】(【Schöner Gigolo, armer Gigolo】、1978年)

ボウイさんが西ベルリンに住んで『Low』(1977年)『Heroes』(1977年)『Lodger』(1979年)などを作って人生のリハビリをしていた時期(ベルリンの壁の崩壊よりずっと前)に主演したドイツ映画。第1次世界大戦後の疲弊したドイツには退廃的な享楽を求める風潮が蔓延していた時代があったというが(その後ナチスが台頭するのはその反動もあるらしい)、ボウイさんが演じるのはそんな時代に翻弄されたジゴロの役。映画としての出来はあまり芳しい評判を聞いたことがないが、若く美しくデカタンな女殺しという役どころは当時のボウイさんの雰囲気にあまりにもぴったりだったし、かのマレーネ・ディートリッヒの最後の出演作だったりもするので、今見ると一周回っていろいろと見どころが多い映画なのではないだろうか。

 

【クリスチーネ・F】(【Christiane F. - Wir Kinder vom Bahnhof Zoo】、1981年)

麻薬に溺れる西ベルリンのティーンエイジャーの少女を描いたドイツ映画だが、映画そのものよりボウイさんのサントラ作として名を馳せていたように思う。ボウイさんは少女が憧れるロック・スターとして本人役でちょっとだけ登場。私には、かの時代の西ベルリンの独特な空気感を少しだけ感じ取ることができた作品だったような印象が残っている。

 

【ハンガー】(【The Hunger】、1983年)

上記の3作は全部後追いでビデオで見たが、本作は上京して初めて映画館(今は無き新宿の「シネマスクエアとうきゅう」)で見た映画だったように記憶している。今と違って映像がそれほど簡単に手に入る時代ではなく、ましてや田舎者で映画なるものの存在自体の概念をほとんど持っていなかった自分は、あまりにも何もかも知らないことだらけだった。リドリー・スコット監督の弟で【トップガン】などのヒットで知られるトニー・スコット監督の作品で(監督も先年亡くなられてしまいましたね。合掌。)、ボウイさんは現代に生きる吸血鬼という役どころ。本作も映画としての評判はそれなりだったかもしれないが、カトリーヌ・ドヌーヴスーザン・サランドンといった配役は今考えると非常にゴージャスだし、当時はボウイさんの圧倒的な美しさを目の当たりにできただけで充分満足していたような気がする。

 

戦場のメリークリスマス(【Merry Christmas Mr. Lawrence】、1983年)

そして、上京して2番目に見たのが【戦メリ】だった。若い人はよく知らないかもしれないが、ボウイさんの最大のヒット・アルバムである『Let's Dance』(1983年)の時期と前後して、日本で一大ブームを巻き起こした映画だった。しかし、私が上京する頃にはもう封切りの時期は過ぎており、今は無き「テアトル吉祥寺」という2番館(レンタルビデオが普及する前は、封切りからしばらく経った映画を少し安い値段で見られる映画館が多くあった)でやっとこさ見たように記憶している。今の自分は何もかも【戦メリ】から始まっていると言っても過言ではないかもしれないと、今改めて考えてみてやっぱりそう思う。言いたいことがあまりにもありすぎるので割愛するが、世界的ミュージシャンとしての坂本龍一も、映画監督としての北野武も、この映画が無ければ存在していなかったかもしれず、俳優としてのデヴィッド・ボウイの白眉もやっぱりこの映画のジャック・セリアズ少佐だったんじゃないだろうか。

(以前、大島渚監督が亡くなった時に書いた記事の中でも少し書いていますので、よかったら見てみてください。)

 

【チーチ&チョン イエローパイレーツ】(【Yellowbeard】、1983年)

ボウイさんがカメオ出演している劇場未公開作とのことだが、今回調べてみるまで全然知らなかった。チーチ&チョンは当時名を知られていたコメディ・チームだが、本作の実際の主役は元モンティ・パイソングレアム・チャップマン氏だったようである。まぁよくある手口だけど。

 

【眠れぬ夜のために】(【Into the Night】、1985年)

ブルース・ブラザース】【狼男アメリカン】【サボテン・ブラザーズ】(原題は【Three Amigos】で『踊る大捜査線』の3人の上司の元ネタ)などのコメディで有名なジョン・ランディス監督によるロマンティック・サスペンスで、80年代から90年代にかけて数々のヒット作に出演していたジェフ・ゴールドブラムミシェル・ファイファーが主演だった。たくさんの映画監督がカメオ出演している中で、ボウイさんはチョイ役の殺し屋として出演していたように記憶している。これも今は無き「三鷹オスカー」という名画座で3本立てのうちの1本として見たような気がする。

 

【ビギナーズ】(【Absolute Beginners】、1986年)

1950年代後半のロンドンには、ビートルズなどに代表される1960年代のスウィンギング・ロンドンという黄金時代の先駆けとなる若者文化が既に存在していた、というコンセプトで作られたイギリス映画。当時人気のあったエイス・ワンダーのパッツィ・ケンジットがヒロインで、ボウイさんは広告業界の胡散臭い大立者という役どころだったように記憶している。これも映画としての評価はパッとしなかったが、著明なジャズ・ピアニストのギル・エヴァンスが音楽監督をしているサントラには、3曲を提供したボウイさんの他にシャーデースタイル・カウンシルなども参加しており、今聴いても相当カッコいい。

 

【ラビリンス 魔王の迷宮】(【Labyrinth】、1986年)

セサミストリート』のマペットのクリエイターだったジム・ヘンソンが監督した映画。ヒロインのジェニファー・コネリー(後に【ビューティフル・マインド】でアカデミー賞の助演女優賞を受賞)と赤ちゃんと魔王役のボウイさん以外の登場人物はほぼマペットで、当時の映画としての評価はそこそこだったけれど、マペット達の活躍がなかなか楽しい作品だったと思う。私は同じ映画を繰り返して見ることを滅多にしないが、当時最もボウイさん狂いの時期だったので、この映画は個人的に映画館で最も多くの回数を見た映画だったりする(そう言えば当時はまだ居残りで複数回見るとか可能だったなぁ)。ボウイさん自ら5曲を書き下ろしたサントラも当時聴きまくっていたが、テーマ曲の『Underground』には当時流行り始めていたゴスペルが取り入れられており、シングルカットされて割とヒットしていたように思う。

 

【最後の誘惑】(【The Last Temptation of Christ】、1988年)

ウィレム・デフォーがキリストを演じたマーティン・スコセッシ監督作で、その内容が一部のキリスト教徒の不評を買い、本国のアメリカなどでは相当物議を醸していた。ボウイさんはキリストに死刑を言い渡したローマのピラト総督の役で、重要ではあるけれど出番はちょっぴりだった。

 

【ニューヨーク恋泥棒】(【The Linguini Incident】、1991年)

当時アメリカン・コメディの専門館として営業していた今は無き新宿の「シネマミラノ」で見た記憶がある。内容的には特にコメントするところのない映画と言わざるを得ないが、当時人気のあったロザンナ・アークエットや、【愛は静けさの中に】で聾唖者の俳優としては初のアカデミー賞(主演女優賞)を受賞していたマーリー・マトリンが出演していたことが印象に残っている。

 

ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間】(【Twin Peaks: Fire Walk with Me】、1992年)

デヴィッド・リンチ監督が製作総指揮を務め当時一世を風靡した不思議系テレビドラマ・シリーズ『ツイン・ピークス』の劇場版で、ドラマ版の中心的なプロットであったローラ・パーマー殺人事件の謎を追う内容。ボウイさんはカイル・マクラクランの演じた主人公のクーパー捜査官の前任者という役どころだった。ただ、こういった謎が謎を呼ぶタイプのミステリーって、種明かしをしてしまうのが必ずしも面白さに結びつくとは限らないんだよね~。テレビ版の失速もそもそもその辺りが原因だったように記憶しているのだが、また新作を作るとかいう最近のニュースの話、一体どうするつもりなんだろう。

 

【バスキア】(【Basquiat】、1996年)

落書きのような自由な作風でアンディ・ウォーホルに見出され、その後若くして亡くなったジャン=ミシェル・バスキアを描いた映画で、もともと画家であり、その後【夜になるまえに】【潜水服は蝶の夢を見る】なども監督したジュリアン・シュナーベルの初監督作品。バスキアはこの前後にちょっとしたブームになっていたように記憶しているが、最近でもユニクロのTシャツの柄になったりしていたような。ボウイさんは若い頃からアンディ・ウォーホルをリスペクトしていることが知られており、例えば『Heroes』という曲の「We can be Heroes, just for one day」というベルリンの壁を歌った歌詞はウォーホルの「未来には誰だって15分間は有名になれるだろう("In the future, everyone will be world-famous for 15 minutes.")」という発言にインスパイアされたものらしいが(その後のティン・マシーン時代の『I Can't Read』という曲には「Andy, where's my fifteen minutes?」という反語的な歌詞もあるが)、多分そうしたことを踏まえた上でアンディ・ウォーホルの役をオファーされたことは、ボウイさん本人にもひとしおの感慨があったに違いない。

 

ガンスリンガーの復讐】(【Il mio West】、1998年)

【エヴリバディ・ラブズ・サンシャイン】(【Everybody Loves Sunshine】、1999年)

【天使といた夏】(【Mr. Rice's Secret】、2000年)

【ズーランダー】(【Zoolander】、2001年)

その後はデヴィッド・ボウイさんへの個人的な興味を失ってしまい、熱心に作品を追い掛けることもなくなってしまったため、この時期以降の出演作は未見のものがほとんど。どうもすみません……。ただ、【メリーに首ったけ】【僕たちのアナ・バナナ】【ミート・ザ・ペアレンツ】【ザ・ロイヤル・テネンバウムズ】といった作品で丁度ベン・スティラーが大好きだった頃に(その後【ナイトミュージアム】などで日本でも有名になりましたね)、彼自身の監督作の【ズーランダー】というおバカ映画を笑い転げながら見ていたら、ボウイさんがいきなり本人役(?)で出てきて、その洒落っ気にまた笑い転げてしまったことが懐かしく思い出される。

 

プレステージ(【The Prestige】、2006年)

メメント】【バットマン ビギンズ】【インセプション】【インターステラー】といった数々の名作でもうすっかり巨匠と言っていい域に達しているクリストファー・ノーラン監督の出世作の1つで、ボウイさんは謎の発明家ニコラ・テスラという重要な役どころを演じていた。何故ノーラン監督はボウイさんに出演をオファーしたのか?そりゃぁイギリス出身のノーラン監督自身がボウイさんのファンだったからに違いない、と私は勝手に決めつけている。本作でのかなりフィクションが入った人物像とは違い、実際のニコラ・テスラは科学者として知る人ぞ知る存在であったらしいが(私は本作を見るまで知らなかったのだが)、本作より後になって一般的にも少し名の知れた人物になってきたような気がするのは偶然ではないように思う。本作はノーラン監督の作品の1つとして映画史に名前を残すに違いないと思われるので、後年の俳優としてのボウイさんの姿はこの映画によって覚えておくのがいいのかもしれない。

 

その後も【ライフ・ドア 黄昏のウォール街(【August】、2008年)や【Bandslam】(2009年)という出演作があったようだ。

 

 

こうやって一気に書き上げてみたところで、当たり前のことなのだが、思い出というのは所詮、全部過去の話にすぎないのだ、という事実に改めて思い至った。だから、常に未来を向いて生きていたボウイさんの昔語りをするのは今日で終わりにして、自分もこれからは未来に向いて生きていこうと思った。

ボウイさん、ありがとう。あなたのくれた総てのものに心から感謝します。