たそがれシネマ

最近見た映画など。

最近見た映画 (2016/12/31版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

ニーゼと光のアトリエ
ブラジルの実在の女性精神科医ニーゼ・ダ・シルヴェイラをモデルにした物語。芸術療法や動物療法も今でこそ当たり前だけど、女性の地位が今より全然低く、患者の扱いもひどかった半世紀以上も前に行うのはさぞや苦難の連続だっただろう。

 

14の夜
ある14歳男子のいろいろなことがありすぎた一夜。煩悩と怒りと訳の分からない衝動で鬱屈する男子中学生って、こればかりは女性作家には逆立ちしても描けない世界。主演の犬飼直紀くんのナイーブさが素晴らしい。

 

こころに剣士を
監督はフィンランド人、舞台はエストニアの合作映画で、スターリン政権下で秘密警察に追われながら子供達にフェンシングを教えた実在の指導者を描く。このフェンシングクラブは今でも続いているんだそうな。

 

幸せなひとりぼっち
偏屈で変わり者で一人で生きることに疲れたじいさんが、近所に越してきた一家との交流をきっかけに、自分の人生を照らしてきた妻との記憶を今一度思い起こす。スウェーデン映画には人間観察が緻密な秀作が多いと改めて思った。

 

アズミ・ハルコは行方不明
アラサーと二十歳と女子高生でもう“三世代”としてカウントするんだってさ、わーい。その細かい区分がババアにはもうよく分からない。でも人生楽しくなるのは三十からだぜ。みんな頑張ってね。

 

ヒッチコック/トリュフォー
ヒッチコックトリュフォーの『映画術』は大~昔に読んだのだが、このインタビューの音源が残っているとは知らなかった。そして、この本を読んで、自分は映画を作る方にはからっきし興味がないのだと悟ったことも思い出したな(笑)。

 

グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状
ウィーン美術史美術館の大規模改装を機に製作されたドキュメンタリー。ヨーロッパの大美術館のドキュメンタリーは取り立てて珍しくないほどたくさんあるけど、どこでも美術に身を捧げた人々が真摯に働いているのが心に残る。

 

風に濡れた女
主演のお二人によると、これは獣が交わる話なんだそうで……成程。ごめんなさい、私、今ちょっと他のことで頭がいっぱいで、男性の描くエロスなんて単純すぎてつまんないと思ってしまったかも。でも主演の永岡佑さんはカッコいいですね。

 

聖杯たちの騎士
薄っぺらい享楽的生活を送るハリウッドセレブの脚本家と6人の美しい女性達。LoveとLifeを20年間ほったらかしにしてきた某リビングレジェンドの女性遍歴もちょっとこんなだったかも、ということにしか興味が湧かなくてすいません……(もっとも、レジェンドはもっと本業一筋だったと思うけど)。

 

海賊とよばれた男
出光の創業者をモデルにした話なんだそうで、日本のエネルギー政策にさほど興味がない人にはそれほど面白くないかもしれない。ていうか、私、この原作者が大っ嫌いでして。山崎貴監督、いつまでこの人の原作で撮るおつもりなんですかね……。

 

 

えーと、今回はいつもにも増してアホな感想でごめんなさい……。年内の更新はこれで最後です。皆様、どうぞよいお年をお迎えください。

 

(前回の続き)アニメがいっぱいな話。

 

前回の記事に少しだけ書いた【この世界の片隅に】ですが、口コミでじわじわと観客動員数を伸ばしてきているそうですね。館数拡大・ロングランの様相を呈してきたようで、喜ばしい限りです。

 

既にご存じの方も多いかと思いますが、【この世界の片隅に】は、戦争が時代背景になってはいるけれど、あくまでも主人公のすずさんの日常の生活を淡々と描いている作品です。そうは言っても、実際は大変エグいことも次々起こっていて、後からよくよく考えるとじんわり刺さってくるのですが、例えば【火垂るの墓】みたいな脳天をかち割られるような激しい衝撃を受けることは少なく、観終わった後はほっこりと暖かく、拍子抜けするほどの穏やかな印象が残ります。これは、登場人物の人達が、その奥ゆかしく柔らかくも強靱な意志により、辛い時代の中でもあくまでも普通の暮らしを貫こうとしていた姿が描かれているからではないかと思いました。(ただ、【火垂るの墓】みたいな作品があればこそ、本作のような作品も成立しうるのかもしれないとも思いましたが。)
また別の側面として、本作は、知らない家にお嫁に来たある少女が、様々な経験を経て酸いも甘いも知った一人の女性に成長する中で、自分の居場所って何だろうと考え続け、“この世界の片隅に”居場所を見つける物語でもあるように思いました。
そんなすずさんの成長を声で演じている能年玲奈さん(本名)。本当に素晴らしい。やはり彼女の才能は、同年代の数々の女優さんの中でも頭ひとつ抜けているのではないかと思いました。

 

君の名は。】が興収で邦画の歴代2位まで上がってきたそうで、また【映画 聲の形】も未だに動員を伸ばしているそうですね。昨年には【バケモノの子】の大ヒットもありました。宮崎駿監督が新作に意欲を示していることが伝えられ、そうなったらそうなったで大変嬉しいことではあるのですが、もしそうならなかったとしても日本のアニメーション界はやっていけるのかもしれない、という確信がもたらされつつあるのが凄いと思います。

 

あ、そう言えば一つ思い出したことが。
たまに、【この世界の片隅に】を誉めようとしてうっかり【君の名は。】などをディスっている人を見かけるのですが、意味ないんじゃないでしょうかね。タイプの違う作品だし、どちらの作品も素晴らしいので、それでいいじゃないですか。
ただ、【君の名は。】がどうしてここまでヒットしているのかな~とつらつら考えていて、自分自身は、ボーイ・ミーツ・ガールとか運命的な恋とかいったモチーフにも、RADWIMPSの音楽にも、若い人達みたいには反応しきれていないかもしれないな~ということに思い至りました。つまり、皆様の周りにもし【君の名は。】への反応が鈍い人がいたとしたら、その人はきっと、私みたいに、人生にもう大して憧れやときめきが残っていないジジババなんですよ。だから、可哀想だと思って生温かい目で見てスルーしてやって下さいね。

 

しかし、これだけいろいろ書いといて本当になんなんですが、実は今、私の頭の中は『ユーリ!!! on ICE』でいっぱいだったりします……。ここまで来て、今年の大本命はこれだったか~ !! というね。もうね。ズブズブズブズブ……。ちなみに【この世界の片隅に】と同じMAPPAという会社の制作です。MAPPAすげ~~~。

 

『ユーリ!!! on ICE』についてはまた機会がありましたら。

 

(2016/12/08追記)
第10滑走をリアルタイムで見た!
今まで、BLに寄せすぎたら視聴者を限定してしまいすぎるんじゃないのかな~、とか心密かに思っていたこととかが全部いっぺんに馬鹿らしくなった。
Love conquers all. 他のことはくだらない。本当にもう全部くだらない。
世界中のあらゆる形の総ての愛を全力で祝福します!

 

最近見た映画 (2016/12/05版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

この世界の片隅に
今年ナンバーワンの呼び声も高い。特に異論は無い。

 

ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気
同性のパートナーに遺族年金を残そうとして戦ったカップルの実話の映画化。性的マイノリティの権利獲得という側面も無視できないけれど、死という別れを前にした二人が愛を完遂する物語でもあるところに、涙せざるを得なかった。

 

ぼくのおじさん
ぼんくらで屁理屈ばっかりで生産性ゼロの、自称哲学者のおじさん。それでも見ていて嫌にならずにほんわか楽しくなってしまうのは人徳なのかな。トボけた味の松田龍平さんとしっかりものの大西利空くんの組み合わせがナイス。

 

カレーライスを一から作る
グレートジャーニー・関野吉晴氏の大学の授業をドキュメンタリー化。命を育むのは大変だということ、私達はその命を戴いて生きていることを再認識。そうしたことを、時間を掛けて少しずつ体感していく学生達の姿自体も面白い。

 

聖の青春
持病のため29歳で早逝した村山聖棋士を描いたノンフィクションを映画化。一日でも長く指したいならもっと節制を…と思わないじゃなかったが、自分の寿命を分かっていればこそ自分を燃やし尽くしたかったのかもしれない、と思い直した。

 

エヴォリューション
女性達が美少年達を監禁して怪しい手術を施す島って、男女逆だったら発禁レベルでは……。好き嫌いははっきり分かれると思うが、この独創性は他に類を見ない。壮絶なまでに美しい海中の景色がまたおどろおどろしい。

 

ジュリエッタ
不幸な誤解や偶然が重なった結果、子供と行き違って失踪までされてしまうなんて、親から見たら完全にホラー映画かもしれない。あからさまな悪意で場をかき乱す、アルモドバル作品ではお馴染みのロッシ・デ・パルマ先生がコワい。

 

オケ老人!
間違ってご高齢者ばかりの激ヘタ楽団に入ってしまった主人公を杏さんが演じるコメディ。いくつかの伏線もきれいに回収されててとてもウェルメイドだったけど、途中でいきなり上手くなってしまうところだけちょっと気になったかな。

 

ブルゴーニュで会いましょう
ブルゴーニュの家族経営のワイナリーって、それだけで心ときめく舞台設定だわね~。お話は少々都合よく進み過ぎな気もするけれど、ブルゴーニュのワイン造りの雰囲気が味わえるのは素敵。隣家の名醸造家のマダムがかっこいい。

 

ミュージアム
小栗旬さんが仕事仕事で家庭が崩壊している旦那の役というのは新しいと思ったが、猟奇殺人もの自体には食傷気味かも。どの作品でもショックを与えることばかりが大事で、結局、殺人の動機を後付けするのに四苦八苦している印象がある。

 

溺れるナイフ
十代特有の十全感とそのほころび。きっとあとしばらくしたら取るに足らないことになるんだろうけれど。細かく見たらいろいろ欠点もあると思うけど、菅田将暉さんや小松菜奈さんの瑞々しさをこれだけ描けていればいいような気がする。

 

五日物語 3つの王国と3人の女
17世紀に書かれたイタリアの寓話を【ゴモラ】のマッテオ・ガローネ監督が映画化。人間の果て無き欲望とその対価、がテーマかな?ちょっと取っつきにくいけど、グロテスクでダークなイメージはちょっとテリー・ギリアム監督作品みたい。

 

ジムノペディに乱れる
会う女会う女、みんな股広げて寄ってくるとか、さすがはロマンポルノ、男の夢が満載だ!でも、板尾創路さんからうらぶれた男の色気をここまで引き出してみせた行定勲監督は、やっぱりちょっと凄いかもしれない。

 

雨にゆれる女
過去の悔恨に現在が侵食され引き摺られていく。下手すると煮ても焼いても食えない自己陶酔型ハードボイルドになりかねないところを、青木崇高さんが血肉化させていいバランスで成立させていたのでほっとした。

 

この世界の片隅に】の感想はまた後日アップさせて戴ければと思います。

 

今回は他にこのような映画も見ました。

誰のせいでもない】はヴィム・ヴェンダース監督の新作ですが、理由はどうでも、煮詰まる作家の話というのはちょっとお腹いっぱいかもしれません……。

湾生回家】は、戦前に台湾で生まれ育ち終戦時に引き揚げてきた「湾生」の人達を追ったドキュメンタリー。多くの人が今でも台湾に強い郷愁の念を抱いているということを知り、日本と台湾の独特な結びつきの礎はこのようなところにもあるのかと思いました。

疾風ロンド】はヒドいですね~。何万人も殺せるような炭疽菌が流出、なんて事態になったら、普通の感性を持ってる科学者なら、自分達だけでなんとかしようとせずに真っ先に警察に駆け込むとかするんじゃないすかね。阿部寛さんの出演作でここまでハズしたと感じたものは今まで無かったんですけどね……。

 

最近見た映画 (2016/11/15版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

永い言い訳
自分の傷だけに延々と囚われ続けて、新たな毒を周りに撒き散らし続ける困ったちゃん。わーものすげぇ近親憎悪。人間のこんな部分を欠陥とあげつらわず“人間なんてこんなものっすよ”と描く西川美和監督は、少なくとも私よりは相当寛容な人間だと思う。

 

湯を沸かすほどの熱い愛
チチを撮りに】の中野量太監督の新作。自らを燃やし尽くして残された者に生きる力を託すお母さんの造形が素晴らしい。今のこの時代に、今までにない切り口の家族の物語を創造できる才能を、日本映画界は全力でバックアップすべきだろう。

 

バースデーカード
早くに亡くなった母親が残してくれていた20歳までのバースデーカード。ベタと言えばベタなお話のはずなのに、お涙頂戴にもならず、必要なことはすべて語りつつも饒舌すぎない、過不足のない語り口が心地よい。𠮷田康弘監督、覚えとこ。

 

金メダル男
挫折に挫折を重ねた男が経験を積んでようやく自分の道らしきものを見つける、なんて筋書きのペーソスに溢れたトラジコメディが、若い男の子にウケる訳がない。この映画本来のターゲットであろう中高年層をもっと大事にしたマーケティングが必要だったんじゃないだろうか。

 

何者
就職活動って、企業群が求める画一的な規格に自分を合わせるふりをしなきゃならないところは昔と変わってないけれど、SNSというアルターエゴと付き合わなければいけない分、今の子達の方が大変な部分も多いかもしれないと思った。

 

フランコフォニア ルーヴルの記憶
ルーヴル美術館の所蔵品をナチスから守ったジャック・ジョジャール館長を中心に描いたルーブルの歴史。美術品って民族の魂の記憶装置なのね。ソクーロフ御大と初めて興味のベクトルが合ったみたいで、監督の作品の中では個人的には一番面白かった。

 

ハート・オブ・ドッグ 犬が教えてくれた人生の練習
ドキュメンタリーというよりは、独特の語り口で過去の記憶を辿るシネマエッセイ。ローリー・アンダーソンさんってお名前を久々に聞いたけど、ルー・リードさんと結婚してたって全然知らんかった自分のウラシマぶりに愕然とした。

 

手紙は憶えている
アトム・エゴヤン監督の新作。主人公の認知症のおじいさんが手紙で操られているというのは想像ついたんだけど、後からよくよく考えてみると、この方法には予測できない要素が多過ぎて、あまりにもリスキーなんじゃないだろうか。

 

彷徨える河
コロンビアの俊英シーロ・ゲーラ監督が、実在した白人探検家の手記を元に描いた先住民族の記憶。でも詳しい筋書きとか全然覚えておらず、えずくようにぞわぞわするモノクロの異世界に連れて行かれた印象しか残っていない。

 

 

今回は他に【秋の理由】【あなたを待っています】などの映画も見ました。【ダゲレオタイプの女】は、黒沢清監督が初めてフランスで撮った映画ということでちょっと期待していたのですが、今一つピンと来なかったかな。思うに、日本人である黒沢監督にはフランスの幽霊は描けないし、本来その必要もないんじゃないでしょうかね……。

 

最近見た映画 (2016/10/18版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

怒り
“怒り”とは人を信じ切れなかったことへの慟哭であるように思えた。日本映画界の最良の部分を結集して創られた紛れもない傑作でしょう。

 

オーバー・フェンス
海炭市叙景】【そこのみにて光輝く】に続く佐藤泰志原作“函館3部作”の最終章。オダギリジョーさんと蒼井優さんががっつりラブ・ストーリーを演じれば、そりゃ名作になるだろう。脇を固める俳優陣の素晴らしさも特筆すべき。

 

ザ・ビートルズ Eight Days A Week The Touring Years
ツアーバンドとしてのビートルズに焦点を当て、デビュー前後から『サージェント・ペパーズ…』辺りまでの活動を紐解く。ビートルズというバンドの天才ぶりを改めて見せつけられて改めて驚愕したが、膨大すぎる資料映像からこの1本を削り出したロン・ハワード監督のオタクぶりも凄いと思った。

 

ある戦争
アフガニスタン多国籍軍に参加し、部下を守ろうとした行為で罪に問われた軍人の苦悩を描く。実際の戦場での戦い、何のために戦っているのか、自分は正しかったのかというという心の戦い、裁判での戦い。デンマーク映画のポテンシャルはやっぱり半端ない。

 

SCOOP!
芸能マスコミが社会に必要な職業かどうかは常々疑問に思うけど、彼ら自身の生態の方がよほど興味深いかもしれない。メリハリのある展開はさすがに大根仁監督印の面白さ。新たな役柄に挑戦し続ける福山雅治さんもエラいと思う。

 

お父さんと伊藤さん
初老で経歴不詳のアルバイターの彼氏・伊藤さんと暮らす中年手前の女性の元に、居場所がなくなったお父さんがやって来た。一家に一人伊藤さんが欲しい~。タナダユキ監督、ほんとの男らしさって何なのかよく分かってらっしゃる。

 

淵に立つ
人間、過ちを犯すのは仕方ないけれど、その過ちに向き合えず不誠実なのが気持ち悪く、その気持ち悪さの描写が容赦なかった。しかし、親の因果を子に報いさせてんじゃねーよ、子供の人生は子供のものだよバーカバーカ。

 

映画 聲の形
原作未見で申し訳ないが、いじめる側・いじめられる側のメンタリティをここまで繊細に描いた作品はかつて見たことがなかったかもしれない。日本のアニメ界、ジブリがなくても大丈夫そうな気がしてきた。女性のアニメ監督が出てきたのも嬉しい。

 

人間の値打ち
ある轢き逃げ事件を巡っていろいろな人々の思惑と本性が交錯する。イタリア映画ってこんなふうに人間の裏側をシビアにえぐり取るのが本当に得意だ。ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ様を久々に拝見できたのも嬉しかった。

 

レッドタートル ある島の物語
名作【岸辺のふたり】のマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督の長編デビュー作にジブリが助太刀。無人島に流れ着いた青年とウミガメとの不思議な異類婚姻譚。クラシックなお伽噺みたいな端正な美しさがあって嫌いじゃない。

 

とうもろこしの島】【みかんの丘
ジョージア(グルジア)からの独立を主張するアブハジア自治共和国が舞台の2本を、岩波ホールで併映中。テーマは戦争の中での人間性。世界が平和にも安定にもほど遠くても、私達は日々を粛々と生きるしかないのかもしれない。

 

ジャニス リトル・ガール・ブルー
ジャニス・ジョプリンの切迫感や孤独感は1974年作の【JANIS】の方が際立っていたような気がするが、彼女自身の肉声や手紙の文面などを使ってトレースされた彼女の人生はやはり瞠目に値する。若い人にこそ彼女のことを知って欲しいと思う。

 

過激派オペラ
毛皮族」主宰の江本純子監督が描く、とある劇団の勃興と衰退。女性だけの世界の特異なエネルギッシュさも見どころだけど、痴情のもつれから人間関係が崩壊し劇団が瓦解するっていうのは、よくある劇団あるあるなんじゃないのかな。

 

将軍様、あなたのために映画を撮ります
映画好きの金正日の命令で、韓国の申相玉監督とその元妻で女優の崔銀姫さんが1978年から8年間北朝鮮に拉致されていた、というのは有名な実話。北朝鮮がどういう国かということを、欧米の人々などに対してもっと喧伝すべきだ。

 

ハドソン川の奇跡
飛行機を墜落から救っておきながら事故調で判断ミスを追求された機長たちの実話、だけど、お前らコンピュータ信じすぎじゃね?と思ってたら何のひねりもないその通りのオチだったので、いろんな意味でがっくり来た。

 

グッドモーニングショー
さすが長年テレビ畑を歩いてきた君塚良一監督作だけあって、朝の情報バラエティの裏側が覗けたのは面白かった、けど、主人公の性格も言動も、犯人の動機も、ストーリーの展開も、どれもが何だか煮え切らなかったかも。

 

神聖なる一族 24人の娘たち
ロシア西部にあるというマリ・エル共和国の24人の女性が繰り広げる牧歌的な物語。二昔くらい前まではこういうローカルなテイストのヨーロッパ映画がもっとたくさんあったような気がして、なんか懐かしい気持ちになった。

 

歌声にのった少年
アラブ版の『アメリカン・アイドル』みたいな番組に出て大スターになったパレスチナの青年の実話に基づく話。パレスチナの人々も未来に希望を持ちたいと願っている。現地でスカウトしたという子供たちのキャストが秀逸。

 

 

ポーランドの名匠アンジェイ・ワイダ監督がお亡くなりになりました。
私が監督の【大理石の男】という作品を最初に見たのは、まだベルリンの壁の崩壊前で、ポーランドを始めとする東欧諸国が社会主義体制の矛盾の中で苦しんでいる時代でした。その後、監督が映画を通じて訴えかけていた自由な政治体制が実現されましたが、その過程を目の当たりにして、映画にはもしかして社会を変革する助けになる力があるのかもしれないと感じたことが、私の人生の中で最も鮮烈な映画体験の1つだったかもしれません。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 

最近見た映画 (2016/09/16版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

後妻業の女
果てしなく暴走する大人の欲望は、ギラギラしててあまりにもグロテスクで、もはや笑うことしかできない。若い人こそこれを見て、トラウマを思い切り植え付けられて、大人のガサガサした世界への免疫でも作っとけばいいんじゃないかと思う。

 

グッバイ、サマー
ミシェル・ゴンドリー監督の体験に基づいた作品で、2人の少年のヘンテコだけど純粋なひと夏の友情を描く。この2人のナイーブさが素晴らしすぎ。大定番【スタンド・バイ・ミー】に迫る勢いで、名作の域に入ってしまうかも。

 

君の名は。
男女の入れ替わりなんて使い尽くされたテーマだと思っていたけど、そこから更に2ひねりくらいアイディアが練られていて唸った。ただ、“事件”が解決した後の展開は少し冗長では?2人が互いの名前を忘れてしまう仕組みがおばさんにはよく分からす、このタイトルを付けたいがためだけの無理な展開だと感じられたのだが。

 

チリの闘い
1973年の軍事クーデターの直後に完成したドキュメンタリー。ピノチェトの独裁も四半世紀以上前のことだから、本作にもさすがに同時代的な興奮はないけれど、本作が世界の政治史を語る上での貴重な証言であり続けることも、かの時代が今後も検証され続けなければならないことも変わらないだろう。

 

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた
意匠だけを見てると、ポニョ+ネコバス+湯婆婆感があまりにもぬぐい去れない。でも中身は純然たるケルト神話の石と妖精の世界。アイルランドに行きたくなったよーーー!

 

イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優
イングリッド・バーグマンってスウェーデン出身だっけ。この時代のハリウッド映画とか全然詳しくなくて、記憶も知識もいろいろあやふやなので、勉強になってよかった。

 

ティエリー・トグルドーの憂鬱
世の中が全員株屋や資本家ばかりになったら成立しないはずなのに、こつこつと地道に実業に携わる人間が報われず、あまつさえ馬鹿にされる世界なんて、やっぱりなんか間違ってると思う。

 

火 Hee
初老の娼婦(おそらく放火魔)の一人語り。これを小説から映像表現に起こすのは凄く難しかったのでは。桃井かおりさんの監督としての非凡な感性を感じたと共に、彼女の演技を久々にがっつり堪能できて嬉しかった。

 

チリの軍事独裁政権にまつわる映画に関しては、以前に【No】という映画をご紹介した時にちょっと書いたものがあるので、よろしければご覧になってみて下さい。なお、昨年には、【チリの闘い】と同じパトリシオ・グスマン監督の【光のノスタルジア】や【真珠のボタン】なども公開されていますので、興味のある方は併せてどうぞ。

 

 

今回は他にこのような作品もありました。

 

ディアスポリス DIRTY YELLOW BOYS】は先行するテレビドラマ版があったんですね!そっちを見ていないと、いきなり本作の設定に入るのは難しいかも。ただ、不法入国者の犯人2人の無軌道な青春ものと思って見たら切ない部分もあって、須賀健太くん大きくなったねーとしみじみしてしまいました。

エミアビのはじまりとはじまり】は、ストーリーは嫌いじゃなかった。けれど、既に【漫才ギャング】という作品がこの世に出ている以上、人気芸人のお笑いのシーンがこのレベルというのは厳しいでしょう。結構好きな俳優さん達が多く出演していたので、ちょっと残念です。

超高速!参勤交代 リターンズ】は、“続編に名作なし”を証明する出来になってしまいましたね。前作とは違う切り口で、というオーダーがあったのでしょうが、時代考証の無視が甚だしすぎてあまり楽しめません。時代劇的感性として、せめて「忠臣蔵」と矛盾しない程度のレベルは確保すべきなんじゃないでしょうか。

 

イギリスを見習いたい。

 

リオ五輪ロスに陥っている皆様、こんにちは。

 

映画に関係のない話題でごめんなさい。だけど、今回のリオ五輪の開会式の演出は【シティ・オブ・ゴッド】【ブラインドネス】のフェルナンド・メイレレス監督だったので、全くの無関係でもないのでは(こじつけ)。環境保護が重要なテーマの1つだったということですが、緑や植物を多用した美しい開会式を見ていると、そういえば、故郷に戻って熱帯雨林の復活プロジェクトに従事した写真家のセバスチャン・サルガドはブラジル人だったなぁと思い出したりしました。(詳しくは【セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター】をどうぞ!おぉやった!少しは映画に繋がったぞ!)

 

スポーツは全くやりませんが、見るのは嫌いではありません。私は自宅で仕事をしているので、期間中はほぼオリンピック番組をつけっぱなしにしていました。時には、テレビの横にiPadを並べ、テレビ番組とアプリでの配信画像を同時に眺めるなんてことも……。今回のオリンピックは日本人選手が活躍する場面が多く見られ、日本人にとっては特に見どころが多かったのではないでしょうか。でも、メジャーな競技もいいですが、馬術とかシンクロ飛び込みとかボートとか、テレビではあまり放送されない競技をネット配信で見たりするのも面白いですよね。私は、マツコさんの番組で紹介されていたカヌーの羽根田選手の決勝を、真夜中にライブ配信で見たのを周りにちょっと自慢しています。ホスト局が制作したという大会ハイライト画像(日本以外の選手の活躍もよく分かる)なんかも面白かったです。

 

リオ五輪が終わって思ったことは東京五輪のことです。好むと好まざるとに関わらず、やると決まったからには、多額の血税を投入し、多額の借金をこしらえてでも全力で実行されることでしょう。そこで差し当たり心配なことが2つ。

1つは開会式のことです。リオ五輪閉会式での東京五輪のティーザーを見て、ちょっとは期待が持てそうかも?と思いましたが、聞けば、閉会式での演出担当者がそのまま開会式を担当することはまずないという話で残念。それどころか、某ご高齢の演出家に依頼するとか、広告代理店主導でほぼ日本(最大限でもアジア)でしか人気がないようなアイドルや歌手などを投入するなんて恐ろしい話も出ているとかいないとか……。やるからには日本の末代までの恥さらしになるようなものだけにはしないで欲しいと、心から願うばかりです。演出家の知名度にこだわる必要はありませんが、国際的に通用する表現のレベルを理解した、若く瑞々しい感性を持った人(もしくはチーム)が担当するということが必須なのではないかと思います。

もう1つは、東京五輪が終わった後の話です。リオ五輪を受けて、東京五輪に向けて頑張ろう!みたいなスローガンがあちこちで聞かれるようになってきましたが、選手の皆様も、日本経済も、4年後はいいとしてもその後は息切れ状態になり、燃え尽き症候群に陥ってしまうのではないかと今から心配しています。

聞けば、今回のリオ五輪で、イギリスはロンドン五輪の時よりもメダルの数が多かったそうですね。日本のスポーツ界も、日本経済も、4年という期限にこだわらない長期的な視野に立った発展計画が必要なのではないかと思います。

 

ともあれ、今はリオのパラリンピックを楽しみにしています。