たそがれシネマ

最近見た映画など。

『愛と誠』の思い出

 

今度映画化された【愛と誠】の予告編を見たら完全にお笑い仕立てになっていて、軽~くショックを受けてしまいました。

小学生の頃、実家の家業の関係で何故か週刊少年マガジンを定期購読しておりまして、『空手バカ一代』『うしろの百太郎』『野球狂の詩』『釣りキチ三平』『三つ目がとおる』なんて、今考えると日本漫画史に残るような綺羅星の如くの作品群をリアルタイムで読んでおりました。(完全にトシがばれますな。)調べてみると『おれは鉄兵』や『天才バカボン』『バイオレンスジャック』、ちょっとだけマイナーなところでは『狼の星座』『フットボール鷹』『紅の挑戦者(チャレンジャー)』『イヤハヤ南友』『デロリンマン』『その他くん』なんてのもありましたっけ。こうして見てみると、この頃の自分の小さな世界の知識のベースは、いかに多くをマンガに負っていたのかと驚いてしまいます。

そんな中で連載されていた『愛と誠』は、当時は特に好きだった訳でもなかったのですが、数々の印象的なシーンは自分で思っている以上に鮮烈に記憶に焼き付けられているみたいで、最近、あらすじを完全再現したあるサイトを読んでみると、特に後半はほとんどのシーンをはっきりと思い出せたので、我ながらびっくりしてしまいました。

特に印象に残っているのは、
岩清水くんの度重なる「君のためなら死ねる」のシーン。
自殺未遂をした女番長の高原由紀さん(美人)の顔がケロイド状になっていたシーン。
超お嬢様の愛さんが権太くんをかばって全校生徒の前であり得ないような罵詈雑言を口にするシーン。
権太くんが由紀さんと同じ顔になろうとして自分の顔に硫酸をぶっかけるシーン。
誠さんの恋人と誤解されたハーフのアリスちゃんが砂土谷峻のリンチを受け、親指だけで吊り下げられて服をひん剥かれるシーン。
誠さんがスナックから向かいの店で働く生き別れの母親をこっそり見ていたシーン。
ハワイの恋人岬のエピソードのシーン。
権太くんのお父様(右翼の黒幕)が割腹自殺をするシーン(血がブシューって !! )。
んでもって、砂土谷峻により致命傷を負った誠さんと愛さんのラストのキスシーン。

……う~ん濃ゆい。熱い。そして理解しがたい。
思えば、当時小学生女子だった私にとって、この漫画はこの世の不条理を形にして目の前に突きつけた最初の作品だったのかもしれません。

最近、某ケータイのCMですっかりギャグにされている星飛雄馬くんの例を持ち出すまでもなく、梶原一騎先生の描く世界は平成のこの世の中ではあんまりにも暑苦しすぎて、お笑いというライトな要素を持ち込まないことには成立し得ないのかもれしません。しかしそれならそれで、今この場で敢えて『愛と誠』なんて作品を持ってきて映画化なんかする必要がどこにあるのだろうと思うのですが……。三池(崇史)監督もなんでこんな仕事を引き受けるかな。しかし監督の辞書には「断る」という文字は多分ないからなぁ……。
特にこだわりのない人なら今回の映画版を見て単純に楽しめばいいのだろうし、売り出し中の女優ちゃんをますます売り出すよすがにでも何でもなればいいのだろうと思います。しかし私は自分の中の『愛と誠』をそのままの形で取っておきたいので、今回の映画版を見に行くことは永遠にないだろうと思います。

あぁでも、最初の映画版で誠役を演じていた西城秀樹さんの『激しい恋』をミュージカル仕立てにして妻夫木さんに歌わせるシーンだけは、予告編で見てちょっと面白いことをするなぁと思いました。ヒデキさんの名曲はい~っぱいあって、昭和歌謡史の中に埋もれさせるには全くもって惜しいので、これを機会にちょっとしたリバイバルブームでも起きれば、それはそれで楽しいかもしれませんね。