たそがれシネマ

最近見た映画など。

今年の大河は卒業しました。

 

大奥編とやらに突入してしまって以来、大河ドラマの『花燃ゆ』をとんと見る気がしなくなってしまいました。大奥と言っときゃ女の視聴者は喜ぶだろう的な噴飯ものの安易さは、もしかすると、歴代の大河ドラマでも最低レベルの発想なのではないでしょうか。仕方がないので、今年はそろそろ大河を見るのをやめようかと思っています。

 

思えば、今年は最初から脚本家が2人という変則的な体制でしたが、2人とも現代劇では優れた手腕があっても時代劇の経験は浅いようで、そもそもリサーチがちゃんとできていないようだし、リサーチした内容を咀嚼して独自のドラマを再構築するというレベルには全く到達していないように見受けられ、おまけにお互いの間の打ち合わせも不足している様子。それゆえ、長いストーリーを見越して伏線を張るという作業があまりできておらず、常時行き当たりばったりで、活躍するべき人がしかるべき場面で活躍しなかったり、逆にそれまで扱いがぞんざいだった人(あるいはそもそもいなかった人)がいきなり出てきたりで、誰と誰がどうして対立し何が起こるのか、という因果律こそが見どころの歴史ドラマの面白さが一向に立ち上がってきません。

それならいっそ人間ドラマに特化して描くという方法もありそうなものですが、キャラクターや人間関係の設定もいい加減で週によってコロコロ変わったりするので、これも無理。

私は期待していたヒロインの姉の描き方に一番失望しましたが、その夫で後にヒロインの夫になる超重要人物であるはずの小田村伊之助(楫取素彦)の描き方もかなりぞんざいだし、松下村塾の面々なども吉田松陰久坂玄瑞高杉晋作以外はほぼモブ扱いの飼い殺し状態。桂小五郎がストーリーに絡んでこないことの意味も分からない。彼等をうまく動かせばいくらでも魅力的な物語ができたんじゃないかと思ったのですが……。そもそもヒロインからして、兄や夫の教えや名誉を守るため激しく自己主張することも厭わないアグレッシブで才気煥発な側面と、あくまでも家庭を重んじて自分の思惑さえ押し殺そうとするコンサバで控えめな側面との比重が週によってブレブレで、遂に見るに耐えがたい状態にまで分裂しつつありました。

そうこうしているうちに3人目の脚本家がこっそり投入されており、2人ではいっぱいいっぱいで追い付かなくなってしまった状態があからさまに。今年の大河ドラマは、山口県が地盤の某総理大臣が「長州を舞台にしろ」と命令したなどというまことしやかな噂を聞いたのですが、もしかしてそれで慌てて脚本家を探して無理矢理書かせたのかと信じてしまいたくもなるようなお粗末な顛末で、こんなでは一生懸命演じている役者の皆さんが本当に気の毒でなりません。

 

一方。ひろし30歳と聞いてないわーと思っていた『ど根性ガエル』が案外面白いのが最近の驚きです。中年の入口にいる主人公達が大人になることの意味を見つめる姿を中心に据えた岡田恵和さんの脚本とか、ワールドミュージックっぽい旋律をうまく多用しているサキタハヂメさんの音楽とか(「ゴリラパンのうた」も最高!)綺羅星のごとくのキャストとかいろいろ素晴らしいのですが、何と言ってもピョン吉の造形の問題をクリアしたのが大きかったのではないでしょうか。実写とCGの合成は考えつくとしても、満島ひかりさんがあそこまで見事にピョン吉の声を演じるのは、関係者各位の予想をも上回っていたのではないかと思います。

 

本作を見ていて、映画やらドラマやらの制作は、背景にどんな大人の事情があろうとも、現場の人達の志(こころざし)が絶対に必要なんじゃないかとつくづく思いました。志がある作品は、例えその場で観客動員や視聴率に結びつかなくても、後から評価が高まっていくようなケースも往々にしてあります。勿論、志だけではどうにもならないようなケースも多々ありますが、それすらないような作品は本当に見るだけ時間の無駄でしかないと、改めて思いました。