たそがれシネマ

最近見た映画など。

最近見た映画 (2018/04/23版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

ラブレス
ほぼほぼ悲劇にしかならないアンドレイ・ズビャギンツェフ監督作品だが、気がつけば圧倒的に的確な人間描写の大ファンと化していた。本作では離婚寸前の夫婦が自分を押し付け合っているのを聞いてしまった子供が謎の失踪を遂げる。こ……こんなに自分のことしか考えていない人達が幸せになれる訳がないじゃん!

 

ニッポン国VS泉南石綿村
原一男監督が大阪・泉南石綿集団訴訟に密着した8年間の記録。原告団一人一人の人となりが豊かに描き出されるから、被害者(被害者だって国民だよね)に寄り添うことのできない日本の行政や司法の不合理さや非情さが余計に浮かび上がってくる。

 

ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男
チャーチルを主人公にした映画って少ないように思うが、強烈なキャラの割に実態が掴めず、演じるのが難しいのではなかろうか。これに真正面から挑んだゲイリー・オールドマン先生はやはり超名優だと思い知らされ、その役作りに貢献した辻一弘氏を手前勝手ながら誇りに思った。

 

村田朋泰特集 夢の記憶装置
Mr.Childrenの『HERO』のMVなどで知られる人形アニメ作家・村田朋泰監督の作品集。人形アニメって1コマ1コマに愛を込めなければ成立しない気の遠くなりそうな世界。魂を吹き込まれた人形達が雄弁に語り出す異世界に没入するのは何たる贅沢。

 

リメンバー・ミー
これがメキシコとの国境にフェンスを作ると言っていた某政権に対するピクサー社の返答か。メキシコの「死者の日」って日本のお盆を極彩色にしたみたいな感じ?家族の物語という点に抵抗がある人は、大切な人に読み替えてみるのはいかがでしょう。

 

ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書
1970年代、ワシントン・ポスト紙が、他紙がスクープしたベトナム戦争についての機密文書を、様々な妨害に遭いながら全文掲載するまでの話。政治の暴走を監視するのがマスコミの役目だと明快に主張する。スピルバーグ監督もアメリカの政治の現状に対して思うところがあるのではないだろうか。

 

クソ野郎と美しき世界
おもちゃ箱みたいで楽しい!三人の個性を際立たせるためにも制作期間短縮のためにもオムニバスにしたのは多分正解。公開時期を短くして固定ファンに円盤を買ってもらおうという戦略もおそらく正しいだろう。飯島三智さんの手腕は本当に天才的なんじゃなかろうか。こんな人材を放逐してしまう会社に未来はあるのか。

 

BPM ビート・パー・ミニット
思えば1990年代初頭は欧米を中心にしたエイズ禍が最も猛威を振るった時代で、同性愛者の病気という誤解や偏見が強かった当時のことがいろいろ思い出された。こうした運動のおかげでHIV感染はある程度コントロール可能になったけど、不治の病であることに変わりはないし、エイズにまで進行した場合の致死率は未だに非常に高い。この病気との闘いはまだ全然終わっていないのだ。

 

ハッピーエンド
心通わぬ一族に連れて来られた少女が、冷え切った世界の底で思わぬソウルメイトと巡り合う物語……に見えた。だから、ミヒャエル・ハネケ監督作の割に絶望感が少ないような感じがしたんだよね。

 

聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア
自分の利益になることしか考えないエゴのぶつかり合いの世界に生じた「聖なる鹿」殺し。ギリシア悲劇がモチーフらしいけど、人間ドラマかと思って見ていたら、超常現象的な展開になってびっくりした。

 

ブラックパンサー
アフリカの隠れた超文明国という設定が面白く、オリジナリティ溢れる意匠や男女入り乱れる迫力満点のアクションシーンは問答無用にカッコいい!が、【アベンジャーズ】シリーズの1編という位置づけのせいかストーリーが中途半端だったような気がする。

 

ワンダーストラック
1970年代のアメリカでミネソタからニューヨークに父親を探しに来た男の子の物語。【エデンより彼方に】や【キャロル】など、女性の心情の機微を描くことに長けたトット・ヘインズ監督作としては確かに新機軸に思える。

 

馬を放つ
文字通り厩舎の扉を開け放ち馬を逃がしてしまう男の物語だが、自分の厩舎じゃなかったということが問題になる(そりゃそうだ)。元々騎馬民族だったというキルギスの人々の馬に対する思いが垣間見える一編。

 

港町
岡山県牛窓町での【牡蠣工場】の撮影中にいつの間にか素材が集まっていたという本作。登場する人物は圧倒的にご高齢者が多く、立派に見える街並みも空き家が多いという。黄昏に向かう世界。ソクーロフ監督の映画か何かにこんなのなかったかな。

 

素敵なダイナマイトスキャンダル
かつてはエロ雑誌、その後はパチンコ雑誌で一時代を築いた雑誌編集者の手記が原作。男性から見たらロマンがあるのかもしれないが、妻は愛想を尽かし、愛人は精神が崩壊してしまったのは、女性にとってはろくな男じゃなかったということなのでは……。

 

彼の見つめる先に
目の見えない男の子が、転校生の男の子との初恋を実らせる、可愛い少女マンガみたいなブラジル映画。しかし、主人公の男の子の絶対的理解者だった幼馴染みの女の子がちと可哀想な気がするのだが。

 

ニワトリ★スター
大麻のプッシャーの真似事のようなことをして中途半端に暮らす男性2人の行く末を描く。やりたいことを詰め込み過ぎてとっ散らかってしまった印象があるけれど、この熱量を美しい形になるように刈り込んでしまったら監督の個性が死んでしまうのかもしれない。

 

ダンガル きっと、つよくなる
息子をレスリングの金メダリストにしたかった父親が、息子が産まれなかったため、娘に宗旨替えしたという実話を基にしたインド映画。しかし、伊調選手の問題が表面化した今は、レスリング映画を公開するには最悪のタイミングだったかも……。

 

北の桜守
吉永小百合さんの映画は常に、映画女優吉永小百合をいかに魅力的に見せるかという目的に資するためだけに作られているような気がする。でもそこに一定の需要と供給のサイクルが存在しているのであれば、それはそれでいいのかもしれない。

 

 

高畑勲監督、ミロス・フォアマン監督、タヴィアーニ兄弟の兄のヴィットリオ・タヴィアーニ監督といった巨匠の訃報を立て続けに聞く今日この頃。自分がかつて見知っていた世界は常に変質していくのだと思い知らされます。監督達が遺して下さった美しい映画の数々に感謝を捧げます。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。