たそがれシネマ

最近見た映画など。

最近見た映画 (2018/10/01版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

カメラを止めるな!
ゾンビ映画かと思いきや、あっと驚きの二重構造。仕掛けの面白さもさることながら、映画への愛が溢れ出す語り口が存外胸に迫る。これを意図して創り上げるクレバーさがあるのなら、上田慎一郎監督は、今後フォーマットや予算規模が変わっても充分やっていけることだろう。

 

判決、ふたつの希望
小さな諍いから始まった裁判が、国を巻き込む大論争に発展し、レバノンの現代史を否応なく照射する。本作のジアド・ドゥエイリ監督は、ハリウッドでタランティーノ監督の助手などをした後、母国のレバノンに戻って映画を撮っているのだそう。ハリウッドが世界の映画史に貢献することもたまにはあるんですね。

 

寝ても覚めても
顔がそっくりとかいう設定は安易だと思うが、ずっと燻り続けていた想いのために衝動的に理不尽極まりない選択をしてしまうシーンは圧巻だった。そう言えば同じ濱口竜介監督の【ハッピーアワー】をまだ見ていない。そろそろ観念せねばなるまいか。

 

きみの鳥はうたえる
佐藤泰志さんの原作を【Playback】の三宅唱監督が映画化。まるで不誠実であることが反逆か自己主張でもあるかのようにふてくされている若くて傍若無人で複雑な主人公を演じる柄本佑さんがあまりに上手い。恋人としてこんなウザい男のどこがいいのかさっぱり分かんなかったけど。

 

SUNNY 強い気持ち・強い愛
オリジナルの韓国版で印象的だったボニーMの『SUNNY』すら使っていない潔い換骨奪胎。大根仁監督はやはりこういったアレンジの匙加減が抜群に上手い!オリジナルを見てたから大体のあらすじは分かっていた筈なのに、それでも思わずほろりと来てしまった。

 

泣き虫しょったんの奇跡
プロ棋士になるのに奨励会以外のルートができていたのを知らんかった。そのきっかけを作った棋士の自伝を、自身も奨励会出身の豊田利晃監督が映画化。見た時は地味な印象だったが、後になって、主人公を支える周りの人々の気持ちが次々と思い出されてじわじわ来た。

 

未来のミライ
細田守監督の新作アニメ。一緒に見に行ったうちの母(後期高齢者)がひたすら可愛い可愛いと連発していた。自分の身辺から題材を得る時期もあってもいいんじゃなかろうか。若いアニメファンにどれだけ受け入れられるかは分からんが。

 

【祈り】【希望の樹】【懺悔】
ジョージアグルジア)のテンギズ・アブラゼ監督の三部作を一挙公開。昔のヨーロッパ映画には独特の香気のようなものがあったなぁと遠い目をしてみる。しかし【希望の樹】を1991年の公開時に見ていたことをすっかり忘れていたのには我ながら驚いた。

 

ディヴァイン・ディーバ
ブラジルのレジェンド級の女装家の皆さんがそれぞれの半生を語るドキュメンタリー。女装家と一口に言ってもその経歴も人生観も様々だけど、懸命に生きてきた人たちの言葉には、一つ一つに味わいと重みがあるよなぁ。

 

検察側の罪人
裁判制度の在り方や正義とは何かについて問う原田眞人監督の新作。 何もかもが良く出来ていて傑作になる可能性が大だったのに、ただ1つのどうしても見過ごせない瑕疵がすべてを台無しにしている。別稿。

 

人間機械
インドのファブリック工場の劣悪な環境下でひたすら働かされる人々をひたすら映すドキュメンタリー。インドや中国の華々しい経済的躍進のニュースの影にはこのような人々が少なからず存在しているのでは、と思うと、人類の幸せは遙か遠いのではないかと思わされる。

 

あみこ
自分を特別な存在だと思う自意識は、きっと誰もが通る道。そんな姿を描いてみせた山中瑶子監督自身が当時まだ10代だったということに驚かされ、全く初めて手探りで撮った作品にはとても見えない完成度に打ちのめされた。

 

ペンギン・ハイウェイ
森見登美彦さんの原作によるアニメ。ペンギンとは宇宙のひずみを修正するために生まれ出た何か、ということ?自分は優秀だとか言ってしまう一見小生意気な小学生男子の主人公が、あまりにも一生懸命で、段々可愛く見えてくるところがよかった。

 

詩季織々
中国のアニメ制作会社と新海誠監督作品の制作会社のコラボ作品。リ・ハオリン総監督は、急速な経済発展の中で失われつつある中国の風景をアニメの中に残しておきたかったのだそう。確かに、かつての中国映画で見たことがあるような情景に、妙な懐かしさを覚えた。

 

スティルライフオブメモリーズ
女性の性器をアップで撮影した作品集が有名な写真家アンリ・マッケローニとその愛人の話に着想を得た物語。静物写真をそのまま映画にしたような端正な画面は素敵だったけど、いろいろこじらせている主人公達の気持ちは全然分からなかったよー!

 

ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間
ジブリから独立したスタジオポノックの短編オムニバス。質の高さは予想通りで、とにかく作品を発表し続けることは大切だと思う。本当は高畑勲監督の平家物語の短編が入っていたかもしれないという話を聞いて涙した。

 

インクレディブル・ファミリー
面白くなくはなかったけど、第1作目の完璧さと較べると少しとっちらかっていた印象。2作目を作らんがために無理矢理話をこしらえた感が拭えないかもしれない。

 

 

検察側の罪人】については長くなってしまいましたので別稿にまとめました。この下の記事をご覧下さい。

 

この他に観た映画では次のようなものがありました:フランソワ・オゾン監督の【2重螺旋の恋人】は、デヴィッド・クローネンバーグ監督の【戦慄の絆】に少し似た雰囲気を感じましたが、どなたかが指摘していた通り、ピノコちゃん並みの腫瘍があったとしたら検査に引っ掛からないのは不自然ではないでしょうか。【スターリンの葬送狂騒曲】は、スターリンが死んだ後の権力闘争という題材にあまり興味が持てなかった、というのはこちらの不勉強だと思いますが、“ブラックコメディ”という触れ込みなのに全然笑いどころが分からなくて、心寒くなるばかりなのは辛かったです……。

 

カメラを止めるな!】は全国での拡大公開になってからやっと見ることができ、【判決、ふたつの希望】も危うく見逃すところでした。昔から自分にとって面白そうな映画を嗅ぎ分ける力にはかなり自信があったのに、最近は映画のサーチ力がめっきり落ちているようで、我ながら残念です。

 

いろいろな方々の樹木希林さんへの追悼コメントを聞く度に、樹木さんは、女優として、人間として、本当にたくさんの人に愛されていたのだなぁと感じます。私も樹木さんが本当に逝ってしまったのだと思うと寂しい限りです。長い間お疲れ様でした。心よりご冥福をお祈り申し上げます。