たそがれシネマ

最近見た映画など。

最近見た映画 (2018/12/31版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

来る
人間のおぞましい部分をつけ狙う“あれ”に取り憑かれる若夫婦、彼等を手助けしようとするルポライター霊媒師の血を引くキャバクラ嬢、その姉の日本最強の霊媒師……。オカルトホラーと言うより心理的な気持ち悪さがじわじわ迫る中島哲也監督の最新作。これまでのイメージを覆すいずれ劣らぬ難役に挑む俳優陣が素晴らしすぎる。

 

ギャングース
悪い奴等だけを相手にする少年院出身の三人組の窃盗団を主人公にした鈴木大介さん原作の漫画を、入江悠監督が映画化。鈴木さんと入江監督という組み合わせはベストマッチで、今の日本社会の暗部を取り込んだピカレスクをエンターテイメントとして見事に成立させているのが凄い。

 

ピアソラ 永遠のリベルタンゴ
前回の記事参照。アストル・ピアソラの音楽は宇宙一かっこいい!

 

人魚の眠る家
最新技術で生きながらえる脳死した娘の母親が次第に常軌を逸していき、周囲は翻弄される、という東野圭吾さんの原作小説を、堤幸彦監督が映画化。人が死ぬということには、残された人間がそれをどのように受容するかという過程も含まれているのだと改めて思い至る。

 

こんな夜更けにバナナかよ
24時間介助が必要な筋ジストロフィーの男性とボランティアの人々を描いたノンフィクション作品を前田哲監督が映画化。障害者の自立やボランティアの在り方といったテーマ、主演の大泉洋さんやヒロインの高畑充希さんなど見所が多いが、私はひたすら「三浦春馬さんていい役者さんになったな~」とそこぱかりに注目してしまっていた。ごめん洋さん。

 

鈴木家の嘘
引き籠もりの息子が自殺したことを意識不明から目覚めた母に言えなかったことから残された家族の嘘が始まった……。助監督経験が長い野尻克己監督の劇場長編デビュー作。監督自身の経験を基にしたというオリジナル脚本の、悲しいだけではない何とも言えないおかしみが味わい深い。

 

斬、
塚本晋也監督が初めて手掛ける時代劇……と言っても、結局のところ武器が日本刀になった【鉄男】なのではなかろうか。塚本監督は、どんな映画を創ってみても、人間の中に立ち現れる暴力的衝動というテーマに再度立ち帰る。そういうところが面白いと思う。

 

おかえり、ブルゴーニュへ
お久しぶりのセドリック・クラピッシュ監督が描く、ブルゴーニュ地方のワイナリーを引き継いだ3きょうだいの物語。別々の道を行くきょうだいが力を合わせようとそれぞれ心を砕く姿が印象的。そしてフランス映画界には“ワイナリーもの”が結構な本数作られているに違いないといよいよ確信する。

 

ボヘミアン・ラプソディ
クィーンの結成からバンドエイド参加に至るまでの軌跡を、フロントマンのフレディ・マーキュリーを中心に描く。クィーンの音楽の魅力を改めて世に知らしめた功績は大きいと思う、のだが、フレディの孤独を描く上で放埒な生活を送った時代をもっとがっつり描写する必要があったのではないかと考える。アメリカのレーティングの関係で難しかっただろうけど。

 

体操しようよ
定年退職後の男性がラジオ体操の会への参加を通じて人生をリセットする物語を、【ディアーディアー】の菊地健雄監督が描く。仕事一辺倒状態から少しずつ人間力を上げていく草刈正雄さんが何ともキュート。館山辺りの地理関係はほぼフィクションだけど、野島埼灯台がいっぱい映っているのは千葉県民として嬉しい。

 


偶然手に入れた銃に徐々に支配されていく男子大学生を描いた中村文則さんの小説を、【百円の恋】の武正晴監督が映画化。この役柄には村上虹郎さんのナイーブさが必要だった。銃を手にすると自分が強くなったように錯覚するのも、持ってるだけじゃ飽き足らなくなり理由をつけて撃ってみたくなるのも様々な映画で描かれてきたモチーフで、万国共通の現象なんだなーと思う。

 

葡萄畑に帰ろう
ジョージアグルジア)映画界の現役最長老エルダル・シェンゲラヤ監督による政治風刺を盛り込んだ人生賛歌。主人公はあまり誉められないこともする俗的な人間だし、よく考えると結構エグいエピソードも少なくないのに、ほのぼのとした印象が残るのが不思議。

 

宵闇真珠
ウォン・カーウァイ監督の撮影監督として著名なクリストファー・ドイルが共同監督を努める香港合作映画。微細なグレーの画面の芸術的な美しさを堪能するための雰囲気映画、といった趣きだが、「この漁村はもうない」という最後のセリフに、消えゆくかつての香港に対する哀切のようなものを感じてしまった。

 

生きてるだけで、愛。
躁鬱病で仕事もままならない女性と、仕事に行き詰まりを感じるゴシップ記者の男性の愛の形を描いた本谷有希子さんの小説の映画化。傷だらけのメンタルの女性を体当たりで演じる趣里さんの思い切りの良さと、今回は終始受けに回っている菅田将暉さんの演技の堅実さがいい。

 

セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!
宇宙に取り残された崩壊寸前のソ連の宇宙飛行士をアメリカのスペースシャトルが救出した、という実話を基に創作した物語。監督は、キューバの大学教授が無線を通じて宇宙飛行士と親しくなるという筋書きを通して、その時代のキューバに対するノスタルジーを描きたかったのだそうだ。

 

 

シアター・イメージフォーラムで開催中の『アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティブ』と『ジャン・ヴィゴ監督特集』が面白かったです。
アラン・ロブ=グリエ監督は、【去年、マリエンバードで】の脚本家としての業績を遺した以外に、映画監督としてこんなにも前衛を絵に描いたような作品を遺していた方だったのだと知らなくて猛省中です。前衛成分が高い作品としては【エデン、その後】【快楽の漸進的横滑り】などが特にお薦めです。
ジャン・ヴィゴ監督は、【アタラント号】は観たことがあったので、今回は【ニースについて】【競泳選手ジャン・タリス】【新学期操行ゼロ】の短編集を観ました。【アタラント号】もそうですが、モンタージュによる映像のリズム感が、今の時代でもまったく古びておらず、瑞々しく感じられるのが素晴らしい。このたった4作しか遺していない映画監督の名を冠した『ジャン・ヴィゴ賞』なる映画賞がフランスに今でも存在する理由がよく分かるような気がします。もし未見の方がいらっしゃったら、話の種に【アタラント号】だけでもご覧になってみてはいかがでしょうか。

 

それでは皆さん、よいお年を!