たそがれシネマ

最近見た映画など。

最近見た映画 (2019/04/15版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

ROMA/ローマ
タイトルはメキシコシティのローマ地区のこと。ミシュテカ族のある女性と、彼女がメイドとして働く一家の物語は、アルフォンソ・キュアロン監督自身の幼少期の体験を基に創作されたもので、背景には1970年頃の政情不安定だったメキシコが映り込んでいる。しかし何より印象に残ったのは、女性達の逞しさと友情と共闘、そして男は頭からっぽの愚か者……ってところだったなぁ。

 

ブラック・クランズマン
白人ばかりの警察署内で実績を上げるためKKKに潜入捜査した黒人刑事のノンフィクションをスパイク・リー監督が映画化。公民権運動も鎮静化しつつあった1970年代半ばの時代の雰囲気や、白人の中でもまた特殊な立場にあるユダヤ人の刑事の描き方など見どころが多いが、KKKの幹部ですらどこかユーモラスに表現されているところに、昔のバリバリに尖っていた頃の監督では考えられなかったよな~と不思議な感慨があった。

 

運び屋
クリント・イーストウッド監督の最新作で、大量のドラックを車で運ぶ仕事を成り行きで請け負ってしまった老齢の男を自ら演じる。(あれ?俳優引退するとか言ってなかった?)偏屈ゆえに家族からも見放された男が、徐々に自分の人生と折り合いを付けていくストーリー展開が見事。しかし、お金って使おうと思えばいくらでも必要になるんだよなーという人生あるあるにしみじみしてしまった。

 

ワイルドツアー
きみの鳥はうたえる】の三宅唱監督が山口情報芸術センターYCAM)と協動して制作した作品。地元の中高生達とのコラボで生み出されたキャラクターの瑞々しさと生々しさと奇をてらわない美しさに、映画が生まれ出るスリリングな瞬間を見た気がした。山口市って随分面白い取り組みをしているんだなぁと感心した。

 

岬の兄妹
ポン・ジュノ監督や山下敦弘監督の助監督経験を持つ片山慎三監督の長編デビュー作。兄が自閉症の妹に売春をさせる話と聞いて見たくなさ度MAXだったが、そこに至る状況や心情が丁寧に描かれていて重厚な説得力があった。妹さんに悲愴さがないのが救いだが、それを救いと感じていいものか……とにかく避妊具の使い方だけは真っ先に教えてあげて欲しい。

 

月夜釜合戦
再開発が進められ無毒化されようとしている大阪の釜ヶ崎。その場所に息づき、これからもそこで生きつづけようとする人々に対する思いが込められた一編。ここを追い出された人達はどこへ行けと言うのだろう。ちなみに釜ヶ崎大阪市西成区北東部の一部の地域のことで、メディアは同地区をあいりん地区と呼ぶのだとのこと。

 

たちあがる女
【馬々と人間たち】のベネディクト・エルリングソン監督の最新作。アイスランドの広大な大地に巨大な鉄塔と送電線は確かに似つかわしくないけれど、だからって環境テロに走っていいものか……。そんな諸々を内包しながら営まれる主人公の女性の人生に、部分的には共感してしまう。時々生バンドが登場してその場でBGMを演奏するのがクセになる面白さ。

 

ぼくの好きな先生
前田哲監督が、教鞭を取っていた山形県東北芸術工科大学で同僚だったアーティスト、瀬島匠氏に取材したドキュメンタリー。この瀬島さんがとにかく愉快な人で、1人のアーティストの密着ドキュメンタリーとしてシンプルに面白いのだが、彼がアーティストを続ける理由を語った時、世にある総てのアート作品がより立体的に見えてくる気がした。

 

新宿タイガー
新宿を歩いていると稀に遭遇する、虎のお面を被ったど派手な色合いのおじさんがタイガーさん。職業は新聞配達員。他人とは違う生き方を選んだ一人の人のドキュメンタリーとしても、新宿という街の歴史や文化の一側面のドキュメンタリーとしても面白い。どうぞこれからも末長く元気に新宿の街を闊歩して下さい!

 

グリーンブック
ファレリー兄弟のお兄さんのピーター・ファレリー監督作。舞台は1960年代で、アメリカ南部を演奏旅行しようとした有名黒人ミュージシャンが白人の用心棒兼ドライバーを雇う。これ単体は心温まる話でも、【ドライビング Miss デイジー】の逆転版という風評は言い得て妙。スパイク・リー監督がホワイトウォッシュだと怒っていたと聞いて、成程と思う。

 

家族のレシピ
日本とシンガポールの外交関係樹立50周年を記念する作品だとのことだが、こんなに地味に公開してていいのかな……。シンガポール人の母のルーツを探すうちにバクテーという料理とラーメンを結びつけることを思いつく、という展開はいささか拙速に感じたけれど、過去の禍根も見据えつつ未来に目を向けるという姿勢はいいんじゃないだろうか。

 

セメントの記憶
ベイルート超高層ビルの劣悪な建設現場で働くシリア難民青年の日常に、過去の記憶が入り混じる。ジアード・クルスーム監督は元シリア政府軍兵士で、自国民に銃を向けるのを拒否してレバノンに亡命し、本作に着手したのだそうだ。爆撃で瓦礫に埋もれた時の“セメントの味”(原題)の苦さの記憶が少しでも薄れる日は、いつかやって来るのだろうか。

 

漂うがごとく
ベトナム映画の特集上映の1本で、満たされない思いを抱えて彷徨う女性を描く。雰囲気先行のきらいはあるけれど、湿度の高さを思わせる画面に映り込む、現在のハノイの市民生活の断片に心魅かれる。今のベトナム映画の勢いが感じられる気がする1本。

 

ベトナムを懐う(おもう)
こちらもベトナム映画の特集上映の1本で、故国を離れニューヨークで暮らす3世代のベトナム人の思いが描かれる。少し恣意的なところもあるけれど、ボートピープルだった息子に招かれて渡米した祖父と、アメリカで生まれ育った孫娘の埋められない溝の描写には、実際これに近い状況も存在しているのだろうかと思わされた。

 

 

今回は他にこんな映画も見ました。

 

きばいやんせ!私】は、【百円の恋】の足立紳脚本・武正晴監督コンビ作で、不倫で左遷されたやる気ゼロの女子アナが、昔住んでいた町の祭りを再生させる物語。しかし私は個人的に、男性が終始尊大な態度で飲んだくれ、女性はひたすら料理とお酌だけをさせられる田舎のお祭りの光景にかなりトラウマがありまして……。女性は外部から来た特別枠の人しか参加することができず、男性だけがあーだこーだ言ってるのを見ていると、あの人達に妻や娘や母や孫娘はおらんのか?大変申し訳ないけれどそういう方向性には将来性はないんじゃないの?と思ってしまいました。

まく子】は、西加奈子さん原作の不思議なボーイ・ミーツ・ガールの物語。この年代の子供達だけが持つ輝きはいくら見てても飽きないけれど、温泉街や宇宙人(!)というセッティングとか、初恋や大人の世界への反発や成長とかいったいろいろと魅力的なモチーフがただ並べられているだけで、うまく化学反応を起こしていない様子でもったいないなぁと感じました。女にだらしないけれど主人公のことは気に掛けているお父さんを演じた草彅剛さんは大変良かったです。「新しい地図」の皆様のポテンシャルはやはり素晴らしい。映画関係者の皆さんは今こそ仕事を依頼しない手は無いんじゃないでしょうか。