たそがれシネマ

最近見た映画など。

最近見た映画 (2019/06/10版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

主戦場
第二次世界大戦中の日本軍の従軍慰安婦問題を巡る様々な人々の言説を検証したドキュメンタリー。論点がよく整理されており、自分じゃこうは作れないと、ミキ・デザキ監督の手腕にとても感心した。1点付け加えるなら時間軸の話。昔、大学でレポートを書くために読んだいくつかの資料によると、初期には確かにプロのセックスワーカーが高給で集められ、待遇も良かったが、戦火の拡大によって数が全然足りなくなったため、占領地の素人の女性が詐欺などのかなり強引な手段で掻き集められるようになり、劣悪な環境下で意に反する仕事を強制的にさせられたということだ。

 

プロメア
天元突破グレンラガン』『キルラキル』などの今石洋之監督によるオリジナル劇場版アニメ作品。劇団☆新感線中島かずき氏とはそれらの作品でも組んでいたとのこと。ワクワクと胸躍る濃い味付けのストーリーに、ポップで変幻自在な動線と色使いが素晴らしい!見どころのかたまりで満足感たっぷりだった。

 

パパは奮闘中!
ママがいきなり失踪し、最初は周囲の女性陣に頼っていたパパも、やがてワンオペ育児の苦難に直面せざるを得なくなる……。ロマン・デュリス演じるパパが時々“やらかしてしまう”部分に、こういう男性の“分かってなさ”は世の東西を問わないのだなぁと思ったが、彼が徐々に現実を受け入れて自ら家庭に向き合い始めるところに救いを感じた。

 

バイス
あまり評価が高くはなかったブッシュ・ジュニアの影で副大統領として暗躍したディック・チェイニーを描いた物語。一体誰のための政治なのか。今のアメリカの政治の強引な手法はこの時代に種が撒かれていた、という指摘に目の前が暗くなり、今の日本の政治の現状はおそらくもっと酷いのだなぁと思って、更に気持ちが暗くなる。

 

愛がなんだ
インディーズ作品で実力を磨いてきた今泉力哉監督が、角田光代氏の原作を映画化。自分を都合よく利用するだけのクソ男の関心を繋ぎ止めたいがため、そいつの理不尽な要求を呑みつづけるメンタリティなんて分かりたくもないけれど、そんなどうしようもない執着の在り様を丸ごと描き切っているのが凄まじかった。こんな難役を演じきった岸井ゆきのさんには、どれだけ賛辞を送っても足りる気がしない。

 

RBG 最強の85才
アメリカで現在最高齢の最高裁判所判事、RBGことルース・ベイダー・ギンズバーグ氏の歩みを描いたドキュメンタリー。アメリカで2番目の女性最高裁判事となり、女性が置かれてきた理不尽な立場の是正などのため一歩一歩戦ってきた姿には胸を打たれる。こういう素晴らしいロールモデルが存在するところはちょっとうらやましいような。

 

ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス
フレデリック・ワイズマン監督が、ニューヨーク公共図書館の様々な側面を余すところなく描く。図書館自体が、様々な形の知の受け皿として存在しようとする確固たる意志を持った生き物のよう。ニューヨークが世界有数の文化都市であり続ける秘密がこの図書館にあるのかもしれない。

 

嵐電
鈴木卓爾監督が京都を舞台にして描いた3組の男女の物語。日常の地続きにさりげなく異世界が出現するような感覚が、【ゾンからのメッセージ】などにも通底するようでもあり、京都という独特の妖しい空間をより魅力的に演出しているように思う。

 

バースデー・ワンダーランド
原恵一監督による児童文学のアニメ化作品で、少女(とその変わり者の叔母さん)が異世界の国を旅する物語。しかし、消極的なヒロインの成長物語ではなく、ヒロインと同行した叔母さんにばかり興味が行ってしまった。あのお気楽さは、実は海千山千の人生経験に裏打ちされてそう。経験豊富でメンタルがタフな妙齢の女性がドラマツルギーに取り入れられるのはいい傾向だと思う。

 

僕たちは希望という名の列車に乗った
1956年のハンガリー動乱の際、授業中に犠牲者に黙祷を捧げたため当局からの弾圧を受けることになった東ベルリンの高校生達の実話の映画化。ちなみに、ベルリンの壁が建設されたのはこの5年後のこと。東欧諸国での共産主義の圧政も遠い昔になりつつある今日この頃、そうした時代の過ちを記憶に留める努力も意義あることに違いない。

 

魂のゆくえ
タクシードライバー】の脚本家などとしても名高いポール・シュレイダー監督が描くある牧師の苦悩。もはや集金マシンでしかなくなった宗教システムと、目の前の人間を現実的に救うこととの狭間で、自らの無力さに打ちひしがれる牧師の姿が生々しい。ラストシーンが唐突に映ったが、あれこそが彼に訪れた救済であり、神の恩寵なのではないかと思った。

 

12か月の未来図
ひょんなことから、様々なバックグラウンドを持つ子供達が通う郊外の教育困難校に赴任することになった、元エリート校のベテラン教諭の奮闘ぶりを描く。最近、教育(かワイン)がテーマのフランス映画を多く見ている気がする。日本人バイヤーの好みもあるだろうが、実際フランス社会がそういうテーマに関心が高く、そうした映画が多く作られているのかもしれない。

 

荒野にて
父親を亡くした二人暮らしの父子家庭の息子が、殺処分が決まっていた馬と共に荒野を彷徨う物語。何も荒野を行かなくても、自分を保護してくれる叔母さんに会う方法は何かあったんじゃなかろうか。それでも、思い込んだらそのようにしか行けない頑なさが若いってことであり、いかなる帰結になろうとも、それはとても貴重で大切なものであるように思えた。

 

希望の灯り
旧東ドイツライプツィヒ郊外の巨大スーパーのバックヤードで働く人々の物語。若者の行き場や家庭内暴力や時代の変遷など、人生に降りかかる様々な問題から決して目を背けている訳ではないのに、まるで夢の中のように温かくて美しい世界として映し出されているのが不思議だった。

 

アレッポ 最後の男たち
政府軍の空爆を受けて壊滅したシリアのアレッポで、市民の救助のため最後まで奮闘していた民間救助隊の姿を描いたドキュメンタリー。自国民に銃を向け何十万人もの人を殺し、何千万人もの人を難民にしたアサド大統領は完全に狂っている。人なくして国だけが存在することなど、どうしたって出来はしないのに。

 

柄本家のゴドー
演劇ユニットを組む柄本佑柄本時生兄弟が、2017年に父親の柄本明氏を演出に迎えて行った『ゴドーを待ちながら』の公演の稽古風景。お父さん、何て生き生きと楽しそうなこと!柄本兄弟は映像の仕事の方が主という印象があるけれど、ご両親のルーツである演劇の舞台は二人の根幹に大きく存在しているんだなぁと思った。

 

イメージの本
ジャン=リュック・ゴダール監督が、現代の暴力・戦争・不和などをテーマに描いた映像詩。どぎついまでの極彩色が印象的。この世を悲観するご老体が、心にうつりゆくよしなしごとを徒然なるままに描き出そうとするエッセイみたいなものに思えたが、浮かんだイメージを可視化して他人に提示するというのはやはり選ばれた才能の持ち主にしかできないことだよな、と今更すぎることを改めて思った。

 

ドント・ウォーリー
ロビン・ウィリアムズ氏からガス・ヴァン・サント監督への持ち込み企画だったという、半身不随の風刺漫画家ジョン・キャラハンの物語。あの状況では人生投げやりになるのも無理ないが、アルコールに溺れているだけでは悲しみが永遠に再生産され続けるだけ。自分の人生の主導権を自分が取るって大事。肝に銘じたい。

 

ハイ・ライフ
【ネネットとボニ】【ガーゴイル】の大ベテランのクレール・ドゥニ監督、何故、宇宙船の船内を舞台にしたSFを手掛けたのだろう……。単に密閉空間というセッティングが必要だっただけなんじゃないだろうか。と考えてふと、ドゥニ監督っていつも人間の感情の牢獄について描こうとしているのかもしれない、と思った。

 

 

ご無沙汰していて申し訳ございません。最近、本業の他にセカンドワークを始めてみたのですが、慣れないことが多くバタバタしておりました。どんな仕事でも、やはりその仕事ならではの知識や経験に裏打ちされているものだよなぁと改めて噛み締めつつ、こういう新鮮な感覚は久々で楽しいなぁと、日々思ったりもしています。