たそがれシネマ

最近見た映画など。

最近見た映画 (2019/11/27版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

ボーダー 二つの世界
ぼくのエリ 200歳の少女】(未見です)の原作者が原作と共同脚本を手掛けた北欧映画。予備知識なしで見に行ったので、全く想像していなかった衝撃的な展開に呆気にとられてしまった!邦題に「二つの世界」というちょっとしたネタバレが入ってるから言っちゃうけど、主人公の二人はかの世界ではきっと絶世の美男美女なんでしょうなぁ。

 

真実
是枝裕和監督がカトリーヌ・ドヌーヴさんやジュリエット・ビノシュさんらを迎えフランス資本で撮った一作。母娘の葛藤のドラマがそこまで深く掘り下げられている脚本だとは思わないが、二人の名女優の演技が何よりの説得力を持ち、映画としては成功しているのでは。今後、日本経済の更なる悪化に伴い国内の映画製作の状況はますます厳しくなるかもしれないので、力のある人は外国に行って撮るという選択肢も視野に入れていくべきだ。そんな中、本作の在り方は一つの試金石になるのではないかと思う。

 

閉鎖病棟 それぞれの朝
平山秀幸監督が描くある精神科の閉鎖病棟の物語。死刑が失敗して収容された死刑囚、幻聴が聞こえるようになったサラリーマン、義父から性的虐待を受けていた少女らの交流と、辛い事件を経た再生の物語は、全然納得できる展開ではないけれど胸を打つ。本作の鶴瓶さんの芝居は、これまでの鶴瓶さんの出演作の中でも最高クラスなのではなかろうか。

 

ヒキタさん!ご懐妊ですよ
マルチクリエイターのヒキタクニオさんが自らの妊活経験を描いたエッセイの実写映画化。妊活が社会に浸透し、今後その経験を描いた映画やドラマも増えるだろうと思うが、本作は男性側からの経験を描いたことと、夫婦の絆そのものを大切に描いているところがいいなぁと思う。愛妻家を演じる松重豊さんに興味あるファンの方は是非ご覧になってみて!

 

蜜蜂と遠雷
あるコンクールに出場する若手ピアニスト達を描いた恩田陸さんの小説の映画化。四者四様の天才がお互いに共鳴し影響を与え合いながら競う姿を、音楽の上でもきちんと“演じ分け”させながら重厚に描いているのが麗しい。石川慶監督はポーランドの国立映画大学で演出を学んだとのこと。監督の前作は正直好きではなかったのだが、本作ではその正統派の資質がプラスに働いていると思う。

 

最初の晩餐
CMやMVなども手掛ける常盤司郎監督のオリジナル脚本による一本。連れ子同士の再婚で、うまく行きそうでうまく行かなかった家族が、父の葬式で再会する。各自のエピソードにもそれが織り成す成り行きにも一つ一つに頷けるいいドラマだった。そして、朝ドラで不完全燃焼だった「染谷将太さんの演技をどっぷり見たい欲」をがっつり満たして戴けて嬉しかった。

 

エセルとアーネスト ふたりの物語
【ゆきだるま】【風が吹くとき】の絵本作家レイモンド・ブリッグズによる彼自身の両親の物語のアニメーション。絵本がそのまま動き出しているような美しい色彩で描かれる、第二次世界大戦を跨いだ時代のロンドンのごく普通の慎ましやかな庶民の暮らし。今まで見てきたロンドンが舞台の幾つもの映画の答え合わせを見ている気持ちにもなった。

 

NO SMOKING
細野晴臣氏のデビュー50周年を記念したドキュメンタリー 。はっぴいえんどYMO、ソロ活動、サントラ、歌謡曲、テレビ出演、etc.……関わってきた仕事が膨大すぎて、それらを追うだけで結構いっぱいいっぱいな印象もある。それでも、お茶目で洒落っ気があって新しもの好きで、常に面白いことにしか興味の無い細野さんのキャラクターの魅力は端々から伝わってくると思う。

 

キューブリックに愛された男】【キューブリックに魅せられた男
スタンリー・キューブリック監督の下で滅私奉公的に働いていた2人の人物を描いたドキュメンタリー。全く別個の作品で、方や映画のことはあまり分からないけれどキューブリックに愛されていた雑用係兼運転手、方や俳優として出演した【バリー・リンドン】でキューブリックに魅せられやがてキューブリックの映画製作の何もかもを知り尽くした右腕以上の存在になった筆頭スタッフと、描いている人物も対照的。なので両方比較して観ると面白いけれど、どちらか1本であれば【…魅せられた男】をお勧めしたい。レオン・ヴィターリさんは驚くほどに勉強熱心で努力家で優秀で、あのまま俳優を続けていてもきっと大成したはず。それほどの人物を心酔させてしまった生身のキューブリックはどれほど並外れた天才だったのだろう、と思いを馳せずにはいられない。

 

惡の華
押見修造氏のコミックスを、著名なアニメーション脚本家・岡田麿里氏が脚本化し、井口昇監督が実写化。クラスの嫌われ者の女子に弱みを握られた少年が、言いなりになるうちに逆に彼女に執着するようになり、地獄の青春の蓋が開(あ)く。思春期の仄暗い破滅衝動や挫折感をここまで真正面から描き切ろうとした映画が今まであっただろうか。あの総てを浄化するような海岸のシーンは、青春映画史上に残る名シーンになるのでは。

 

ブルーアワーにぶっ飛ばす
CMディレクターの箱田優子氏が自ら脚本を書いた、夏帆さんの主演による初監督作品。過剰なほどに仕事に邁進し自己破壊的な生活を送る女性が、自分の生まれ育った場所に対して抱えているトラウマが痛いほどよく分かる。彼女が生き残るためにどうしても「友達」を必要としたことも。この寂しくも希望があるラストシーンは美しいと思う。

 

楽園
【悪人】の吉田修一氏の原作を瀬々敬久監督が映画化。田舎の閉鎖的で排他的なコミュニティの中で主人公達が追い詰められていく物語は(上記の作品同様)トラウマのど真ん中にぶっ刺さってあまりに欝。そしてその後の更に真っ暗い展開……。この描写力は本当に素晴らしいけれど、あまりに気持ちの置き所がなくて辛すぎた。

 

普通は走り出す
大田原愚豚舎の渡辺紘文監督による、トリプルファイヤーというバンドの曲をモチーフにしたコラボ作品で、監督自ら主演を務める。旧作の【プールサイドマン】を見た時に、監督自身が一番キャラ立ちしてて面白いのでは?と内心思ったのは間違いじゃなかった。作品創りに悩む作家自身を主人公にするという手は何度も使えないけれど、ストーリーが分かりやすい本作は、監督の作品の魅力も伝わりやすいのではないだろうか。

 

108 海馬五郎の復讐と冒険
大人計画主宰の松尾スズキ氏による脚本・監督・主演作で、愛する妻の浮気を疑い離婚を決意した男が、財産分与したくなくて買春で使い切ってやろうとするという壮大にアホな話……。プライドばかり高くて現実に向き合えず、妄想に逃げ込むことを肉欲の言い訳にする男は、何ともちっぽけで浅ましくてみみっちい。こんないじましい男を演じてくれる役者を探すのが大変そうだから自分で演じたの?しかしこれを喜劇と捉えて描き切る松尾氏の表現者としての冷徹さは凄まじいと思った。

 

愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1
【海辺の生と死】【二十六夜待ち】の越川道夫監督が描く3人の男女の愛憎劇。人生に絶望している若い女は、妻を失って誰か側にいて欲しい中年男に請われるままに結婚するが、他の男と出会ってしまう。繊細な心の動きをつぶさに追う越川監督の丁寧な描写はとても好きだ。

 

人生、ただいま修行中
【音のない世界で】【ぼくの好きな先生】のニコラ・フィリベール監督がフランスの看護学校で撮影したドキュメンタリー。映画終盤の授業に関するカウンセリングの部分が特に印象的で、指導者にも相当な人間的成熟や豊富な知識や経験や高度な職業哲学が求められるなぁと思ったけれど、こうした部分の指導は日本ではどうなっているのだろう。自分は日本の教育現場のことはほとんど何も知らないと気づかされた。

 

スペシャルアクターズ
カメラを止めるな!】の上田慎一郎監督の新作。特殊な仕事を請け負う俳優事務所に成り行きで勤めることになった男性の困った癖とは。ほぼ無名な俳優さんしか出ていないのに最後まで飽きさせず見せきる監督の脚本や演出の手腕はやはり確かなものだと納得。けれど、観客に対するサービスの気持ちが強すぎるからなのか、いろいろ整理しきれないままに詰め込みすぎでは?次回作はそこまでどんでん返しにこだわりすぎなくてもいいんじゃないのかな。

 

最高の人生の見つけ方
ジャック・ニコルソンモーガン・フリーマン主演のハリウッドのヒット作を吉永小百合さん&天海祐希さん主演で和製リメイク。全く違う人生を歩んできた女性同士の話に翻案していて盤石の面白さだったが、偶然手に入れた他人のノートを勝手に読んでいるところとか、家庭のことは全部妻に押し付けていた旦那が大して変化しているようにも思えなかったところなど、幾つか雑に感じる点もあった。

 

一粒の麦 荻野吟子の生涯
日本で初めて医師免許を取得した女性である荻野吟子の生涯を描いた作品。もっと突っ込んで描いて欲しいところも多々あったけど、そもそも荻野さんのことをほとんど知らなかったので、入門編としてはいいんじゃないかと思った。この話は朝ドラにしたら面白いんじゃないですかね?脚本家は森下佳子さんか藤本有紀さんか野木亜紀子さんか中園ミホさん辺りでどうだろう。

 

空の青さを知る人よ
こちらも岡田麿里氏の脚本によるオリジナルのアニメーション。両親がおらず市役所勤めの姉と暮らす女子高生のもとに、姉の高校時代の元カレがタイムスリップしてきた。ここに現在の元カレもやって来て、それぞれが自分の過去や未来に向き合うといういい話……なんだけど、やはりタイムリープものって話半分で見てしまっていて、どこか本気で面白がれていないんだよね。

 

“樹木希林”を生きる
生前の樹木希林さんに密着したNHKのドキュメンタリーの再編集版。最晩年の希林さんの貴重なお姿を拝見できたのはありがたかったが、後半、ディレクター氏の自分語りになっているのは何だかな。申し訳ないけれど、私はディレクター氏がうだうだと語るパーソナルな問題には全く興味が無いし、そういうことをしたいなら別のフォーマットに切り分けて自費でやるべきではないだろうか。

 

 

話題になっていた【ジョーカー】を観てみたのですが、正直、全然分かりませんでした……。そもそも彼はあまりピエロという職業に向いていなんじゃないか、という点はともかく、いくら他者から虐げられていたとしても、それを他者への暴力衝動に転換していいというのは何か根本的に違うんじゃないかと感じてしまいます。でも自分もかつてはジャック・ニコルソンのジョーカーをファンタジーとして受容していたはずで……う~ん。この辺りはもう少しいろいろ考えてみようかなと思います。

 

感想は次回に回しますが、スコセッシ監督の【アイリッシュマン】は超傑作でした!もし機会があれば是非とも映画館で観てみて戴きたいです。