たそがれシネマ

最近見た映画など。

最近見た映画 (2019/12/31版)

(2020/1/16加筆)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

アニエスによるヴァルダ
アニエス・ヴァルダ監督の生涯に渡る作品群を監督自ら解説。私はいつの間にかこんなにもアニエスのことを好きになっていた。ラストシーン、監督がこの世に残される私達にはっきりとさよならを告げているのを見て、声を上げて泣いてしまった。歳を取るということは、前を歩いてくれていた人達を一人ずつ失っていくということなのだ。

 

アイリッシュマン
マーティン・スコセッシ監督がNetflixで製作したギャング映画。スコセッシ監督のギャング映画ってよく考えるとそれほど多い訳ではないのだが、イタリア系という出自ゆえか監督のギャング映画には強い印象があり、その中でも本作は特に集大成的な作品であるように感じられる。その道でしか生きられなかった者が己の人生を悔いる映画など、監督も演者もこの歳までキャリアを重ねなければ決して撮れなかった境地に違いない。

 

家族を想うとき
ケン・ローチ監督が描く、苛酷な労働条件下で消耗する個人事業主の悲哀。働けど働けど楽にならざり。私も個人事業主の端くれなのでほんっっと他人事じゃなくて、心中涙せざるを得なかった。普通に働いて食べていけない人達がたくさん存在する一方、その利益の汁を啜って肥え太り続けている人達がほんの一部に存在する、そんな社会はサステナビリティを著しく欠いていると思わないかね?

 

この世界の(さらにいくつもの)片隅に
この世界の片隅に】の完全増補版。前作の鑑賞直後に原作を読んで勝手に脳内補完していたらしく、むしろ最初からこんな作品だったみたいに思えてならない。

 

ひとよ
かつてDVの父親を殺した母親が、刑期を終えて放浪した後に3兄妹の元に戻ってきた……。白石和彌監督が描く、一風変わった家族ドラマ。母親の田中裕子さん、鈴木亮平さん、佐藤健さん、松岡茉優さんの三兄妹のみならず、音尾琢真さんや韓英恵さんや浅利陽介さんらを始めとする俳優陣が皆本当に素晴らしく、舞台となるタクシー会社自体がまるで大きな家族のように感じられた。

 

夕陽のあと
越川道夫監督が鹿児島長島町を舞台に描く、里子を育てる女性と実母との愛と対立と和解の物語。子供に深い愛情を注ぐ里親の山田真歩さんと、事情があって手放してしまった子供を諦められない実母の貫地谷しほりさんのぶつかり合いはどっしりと見応えがある。ラストはもう少しあっさりしててもよかったんじゃないかと思う。

 

マリッジ・ストーリー
ノア・バームバック監督が手掛けたNetflix映画で、アダム・ドライバーさんとスカーレット・ヨハンソンさんの夫婦が離婚する過程をつぶさに描く。弁護士が大幅に介入し、時には当人同士の気持ちからも大きく乖離してしまうこともあるアメリカ式の離婚をうんざりするほど詳細に描写することで、逆に結婚とはどういう事象なのかをしみじみ考えさせられて見事だと思った。

 

ある女優の不在
イランのジャファル・パナヒ監督が、地方の村でロケーション撮影を行った新作。とある田舎の少女から自殺ビデオを送りつけられてきたスター女優が、監督と共に少女を訪ねるが……。少女の行動はとんでもないけれど、少女を訪ねる女優と監督の道中に、女性にとって苛烈なイラン社会の在り様が滲み出す。日本だって(ここまでじゃないにしろ)全然他人事じゃない。これから先の人生、世のミソジニーとは徹底抗戦していきたいと思う。

 

カツベン!
周防正行監督が活動弁士の時代を背景に描くコメディ。弁士に憧れる主人公を演じる成田凌さんの、弁士としてのあまりの達者ぶりは感動もの。しかし、お話がごちゃごちゃしていて物語としての芯が細いように感じられたのと、綺羅星の如くのキャストを一人一人を充分印象づけられていないように感じられたのが残念だった。

 

ヒックとドラゴン 聖地への冒険
大好きな【ヒックとドラゴン】シリーズの第3作。シリーズものはあまり好きじゃないけど本作は例外。でも何で2を劇場公開しなかったんだ、という恨みがましい気持ちがどうしても。本作の面白さを伝えられないのはどう考えても配給会社の怠慢なんじゃないかと思うんだよね。

 

ブレッドウィナー
父親が不当逮捕され困窮するアフガニスタンのある一家の少女が、外出するために男装して食糧を入手し、父親を牢獄から救おううとする。【ソング・オブ・ザ・シー 海のうた】【ブレンダンとケルズの秘密】などで注目されるアイルランドのアニメスタジオ、カートゥーンサルーンが、カナダの児童文学を原作に製作したアニメーション。アニメーションはこんな題材を扱うことも可能なのだと、アニメーションの更なる可能性を感じさせてくれる一本。

 

i 新聞記者ドキュメント
東京新聞の望月衣塑子記者の取材や原稿執筆などに追われる日常を、森達也監督が描く。新聞記者の仕事を間近で見る機会はそれほどないので、そういう意味で貴重な映像を見せてもらえたのはありがたかった。しかし、記者としてごくまともに活動しているにすぎない彼女が一人目立ってしまう今の日本のマスコミの在り方は、どれだけ歪んでいるのかと思わざるを得ない。

 

グレタ GRETA
お久しぶりのニール・ジョーダン監督作品。ハンドバッグを電車内に忘れたふりをして親切に届けてくれた女の子を毒牙に掛けるという、寂しさで狂ってしまった主人公が恐ろしくも哀しいが、イザベル・ユペール先生はこういう役をやらせるとあまりにハマりすぎて、逆にキャリアにマイナスになったりしないのか?と実に余計な心配をしてしまったりする。

 

読まれなかった小説
【雪の轍】でカンヌ映画祭パルムドールを受賞したトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の最新作。若くて過剰な自信に溢れているが故に少しだらしない親に辛辣に相対する息子が、現実の厳しさを知って親を見る目も変わる、といったストーリーは、形は違えど世界のどこにでもある普遍的なものかもしれない。

 

私のちいさなお葬式
死を宣告され自分の葬式の準備を始める女性と、都会に離れて暮らすその息子を描いたロシア映画。息子に迷惑を掛けたくないと過剰に自己完結してしまうのは、逆に母親としての矜恃や意地なのか。そして、母親の話と思っていたけれど、実は母親の姿を見て自分の生き方をいろいろ考えてしまう息子の話だったのではないかと、最後に思い至った。

 

MANRIKI
斎藤工さんがプロデュースと主演を務め、友人の永野さんの脚本を映画化。女の顔を万力で●●する整顔師(?)が放浪のあげく××になるストーリーなどあって無きが如し。(一応人間の美醜に対するこだわりを問うているらしいんだけど、)こういうシュールで訳の分からないヘンテコな映画、今はほぼ絶滅危惧種で成立させること自体難しいに違いなく、何だか妙なノスタルジーを感じてしまった。

 

決算!忠臣蔵
忠臣蔵の討ち入りには一体どれくらいお金が掛かったのかを解説する学術文庫を、中村義洋監督がコメディに書き起こして映画化。お金の価値を分かっておらず湯水のように無駄遣いする武士の面々にイガイガし、その上女好きでもある大石内蔵助に途中まで全然感情移入できなくて困った。もしかして史実には近いのかもしれないけど、一見チャラくて安っぽい赤穂浪士の皆様を見たいという欲求は、自分はあまり持っていなかったみたいだ。

 

わたしは光をにぎっている
詩人でもある中川龍太郎監督が描く、上京した少女の成長物語。主人公の心情の変遷を、時に印象的な心象風景をインサートしながら丁寧に追っていくのには好感が持てる。が、予告編を見て感じた以上のインパクトは正直得られなかったので、もう少し何か手応えのようなものが欲しかったかもしれない。