たそがれシネマ

最近見た映画など。

最近映画館で見た映画 (2021/01/25版)

 

2020年の終盤に映画館で見た映画です。
(今更…という感じもありますが、一応切りのいいところまでまとめておきます。)

 

朝が来る
不妊治療でも子供を授からなかった夫婦と、産んだ子供を手放さざるを得なかった女子中学生。凡百の映画監督が描いたら単なるステレオタイプな事実の羅列で終わってしまいかねないこの物語がこんなにも心に突き刺さるのは、人物の感情の描写で物語を紡ぐ河瀨直美監督の独特の手腕によるもので、それは誰にも真似できない領域に達しているなぁと改めて思った。しかし、日本の性教育や養子縁組制度はもうちょっと何とかならんのか。

 

罪の声
森永・グリコ事件で3人の子供の声が使われていたのは事実らしいのだが、原作者の塩田武士氏はそこから着想を膨らませたのだそうだ。犯人にどんな理由や言い分があろうが越えてはならない一線があるのだということをはっきり描く野木亜紀子氏の脚本は好ましい。そして、着々と増える野木組の面々に小栗旬さんが加わったのが嬉しいな。

 

おらおらでひとりいぐも
女性にとって別に恋愛や家族がすべてじゃないんだぞという当然の概念を、一人暮らしの老境の女性を主人公に描いているのがおそらく原作の面白さなのだろうと予想するが(未読ですみません)、沖田修一監督は、原作のモノローグを3人の男性キャラクターで擬人化したり、監督のお母様のエピソードなども入れたりしてかなりアクティブにアレンジしている様子。人間の内面を表現するのは難しいけれど、監督による映像表現への翻訳は効を奏していると思った。

 

アンダードッグ
またボクシング映画?と正直思ったが、【百円の恋】の武正晴監督と足立紳氏が男性のボクシングをどう描くのかという興味がつい湧いてしまった。チャンピオンになる夢を諦め切れず地を這うようにボクシングにしがみつく年配ボクサーの話は、【あゝ、荒野】などに較べると随分泥臭く、その分刺さるものがあった。主人公を演じた森山未來さんも、彼の対戦相手を演じた勝地涼さんや北村匠海さんもよかったけれど、もうお腹いっぱいなので、関係者の方々は当面ボクシング映画の企画は出さないで戴きたいなと思った。

 

泣く子はいねぇが
父親になる心の準備もないまま子供ができてしまったある秋田の青年の心の逡巡を描いた物語。そう書いていたらダルテンヌ兄弟の【ある子供】という映画を思い出したが、自分の身体の中に起こる生理現象として子供を授かる女性と違って、男性は世の東西を問わず、自分が親になった実感をなかなか持つことができなくて親としての成長が遅れてしまうものらしい。そんな青年に血肉を与えている仲野太賀さんがとてもリアルに映った。

 

私をくいとめて
勝手にふるえてろ】と同じ綿矢りさ原作×大九明子監督作。一人でいることに慣れすぎていて頭の中のアドバイザーと会話している主人公の女性は、壁にぶち当たり何のかんのと迷いながらも、結局自分に折り合いを付けて新しい道に踏み出して行こうとしているので、私なんぞより随分立派だと思う。のんさんはそんな女性を見事に演じていたと思うが、彼女一人のシーンの印象が強烈なのに対し、相手との会話のキャッチボールが必要なシーンが少し平坦じゃないかと気になった。

 

ホテルローヤル
舞台はラブホテルだけど、いわゆる濡れ場的なものはそれほどない(無くはないが、期待して見に行ったらおそらくガッカリする)。波瑠さんは、映画ではもともと少し寂しげな役柄が多い印象があるのだが、うらぶれたラブホテルの跡取り娘という役柄がいい意味でぴったりくる。短編集だという原作を、主人公のある種の成長物語とホテルの有為転変を中心に、様々な人々の群像劇として再構成しているのもいい。けれど終盤はもっとサラッとしていた方が個人的には好みだったかな。

 

Away
ラトビアのギンツ・ジルバロディス監督が一人で制作したというアニメーション。世界のどこかに不時着した少年が、どこまでも追いかけてくる大きな黒い影からバイクで逃げながらある場所を目指すという話。少年が旅するどこか不思議な世界は何となく『ICO』というゲームの雰囲気が思い出されたが、この世界は何かのメタファーなのだろうか。見ていると色々なイメージが喚起される豊かな作品だと思った

 

ばるぼら
手塚眞監督が初めてお父様の作品を映画化するのにこの作品を選んだというのが興味深かった。今の時代の感性から見れば相当古くさいキザ野郎の主人公をどう表現するのだろう?と思っていたが、小説家であるという自意識が行き過ぎてあがく姿が滑稽にすら映るこのキャラクターを稲垣吾郎さんは実に見事に演じていて、そのことにいたく感動した。しかし、もうちょっとブッ飛んだ映像表現があってもよかったかなと、少しガッカリした気持ちも。

 

天外者(てんがらもん)
五代友厚を主役にしたオリジナル脚本の幕末群像劇。史実にどれだけ忠実なのかは分からないが、予め史実をよく分かっている人向けの描写といった印象で、私のような素人にはもう少し詳しい説明が必要なのではないかと思った。けれど、高い志を持つ五代友厚という人物を熱意を持って演じている三浦春馬さんには魅きつけられた。彼はこれからどれほどの境地に到達したことだろう。彼を失ったことが心から残念でならない。