2019年の個人的ベスト30映画
2019年の個人的ベスト映画です。
1.【アイリッシュマン】
2.【家族を想うとき】
3.【サタンタンゴ】
4.【ROMA/ローマ】
5.【バジュランギおじさんと、小さな迷子】
6.【ディリリとパリの時間旅行】
7.【運び屋】
8.【ある船頭の話】
9.【凪待ち】
10.【長いお別れ】
11.【蜜蜂と遠雷】
12.【愛がなんだ】
13.【岬の兄妹】
14.【洗骨】
15.【ダンスウィズミー】
16.【海獣の子供】
17.【ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん】
18.【ブラック・クランズマン】
19.【ひとよ】
20.【閉鎖病棟 それぞれの朝】
21.【バーニング】
22.【たちあがる女】
23.【人間失格 太宰治と3人の女たち】
24.【あの日のオルガン】
25.【ヒキタさん!ご懐妊ですよ】
26.【ボーダー 二つの世界】
27.【隣の影】
28.【最初の晩餐】
29.【旅のおわり世界のはじまり】
30.【プロメア】
(特別賞)【この世界の(さらにいくつもの)片隅に】
(ドキュメンタリー大賞)
【アニエスによるヴァルダ】【氷上の王、ジョン・カリー】【主戦場】
(ドキュメンタリー音楽大賞)
【NO SMOKING】
(ドキュメンタリー金賞)
【キューブリックに魅せられた男】【キューブリックに愛された男】【RBG 最強の85才】
よろしければこちらの元データもどうぞ。
最近見た映画 (2019/12/31版)
(2020/1/16加筆)
最近、こんな映画を見ました。
【アニエスによるヴァルダ】
アニエス・ヴァルダ監督の生涯に渡る作品群を監督自ら解説。私はいつの間にかこんなにもアニエスのことを好きになっていた。ラストシーン、監督がこの世に残される私達にはっきりとさよならを告げているのを見て、声を上げて泣いてしまった。歳を取るということは、前を歩いてくれていた人達を一人ずつ失っていくということなのだ。
【アイリッシュマン】
マーティン・スコセッシ監督がNetflixで製作したギャング映画。スコセッシ監督のギャング映画ってよく考えるとそれほど多い訳ではないのだが、イタリア系という出自ゆえか監督のギャング映画には強い印象があり、その中でも本作は特に集大成的な作品であるように感じられる。その道でしか生きられなかった者が己の人生を悔いる映画など、監督も演者もこの歳までキャリアを重ねなければ決して撮れなかった境地に違いない。
【家族を想うとき】
ケン・ローチ監督が描く、苛酷な労働条件下で消耗する個人事業主の悲哀。働けど働けど楽にならざり。私も個人事業主の端くれなのでほんっっと他人事じゃなくて、心中涙せざるを得なかった。普通に働いて食べていけない人達がたくさん存在する一方、その利益の汁を啜って肥え太り続けている人達がほんの一部に存在する、そんな社会はサステナビリティを著しく欠いていると思わないかね?
【この世界の(さらにいくつもの)片隅に】
【この世界の片隅に】の完全増補版。前作の鑑賞直後に原作を読んで勝手に脳内補完していたらしく、むしろ最初からこんな作品だったみたいに思えてならない。
【ひとよ】
かつてDVの父親を殺した母親が、刑期を終えて放浪した後に3兄妹の元に戻ってきた……。白石和彌監督が描く、一風変わった家族ドラマ。母親の田中裕子さん、鈴木亮平さん、佐藤健さん、松岡茉優さんの三兄妹のみならず、音尾琢真さんや韓英恵さんや浅利陽介さんらを始めとする俳優陣が皆本当に素晴らしく、舞台となるタクシー会社自体がまるで大きな家族のように感じられた。
【夕陽のあと】
越川道夫監督が鹿児島長島町を舞台に描く、里子を育てる女性と実母との愛と対立と和解の物語。子供に深い愛情を注ぐ里親の山田真歩さんと、事情があって手放してしまった子供を諦められない実母の貫地谷しほりさんのぶつかり合いはどっしりと見応えがある。ラストはもう少しあっさりしててもよかったんじゃないかと思う。
【マリッジ・ストーリー】
ノア・バームバック監督が手掛けたNetflix映画で、アダム・ドライバーさんとスカーレット・ヨハンソンさんの夫婦が離婚する過程をつぶさに描く。弁護士が大幅に介入し、時には当人同士の気持ちからも大きく乖離してしまうこともあるアメリカ式の離婚をうんざりするほど詳細に描写することで、逆に結婚とはどういう事象なのかをしみじみ考えさせられて見事だと思った。
【ある女優の不在】
イランのジャファル・パナヒ監督が、地方の村でロケーション撮影を行った新作。とある田舎の少女から自殺ビデオを送りつけられてきたスター女優が、監督と共に少女を訪ねるが……。少女の行動はとんでもないけれど、少女を訪ねる女優と監督の道中に、女性にとって苛烈なイラン社会の在り様が滲み出す。日本だって(ここまでじゃないにしろ)全然他人事じゃない。これから先の人生、世のミソジニーとは徹底抗戦していきたいと思う。
【カツベン!】
周防正行監督が活動弁士の時代を背景に描くコメディ。弁士に憧れる主人公を演じる成田凌さんの、弁士としてのあまりの達者ぶりは感動もの。しかし、お話がごちゃごちゃしていて物語としての芯が細いように感じられたのと、綺羅星の如くのキャストを一人一人を充分印象づけられていないように感じられたのが残念だった。
【ヒックとドラゴン 聖地への冒険】
大好きな【ヒックとドラゴン】シリーズの第3作。シリーズものはあまり好きじゃないけど本作は例外。でも何で2を劇場公開しなかったんだ、という恨みがましい気持ちがどうしても。本作の面白さを伝えられないのはどう考えても配給会社の怠慢なんじゃないかと思うんだよね。
【ブレッドウィナー】
父親が不当逮捕され困窮するアフガニスタンのある一家の少女が、外出するために男装して食糧を入手し、父親を牢獄から救おううとする。【ソング・オブ・ザ・シー 海のうた】【ブレンダンとケルズの秘密】などで注目されるアイルランドのアニメスタジオ、カートゥーン・サルーンが、カナダの児童文学を原作に製作したアニメーション。アニメーションはこんな題材を扱うことも可能なのだと、アニメーションの更なる可能性を感じさせてくれる一本。
【i 新聞記者ドキュメント】
東京新聞の望月衣塑子記者の取材や原稿執筆などに追われる日常を、森達也監督が描く。新聞記者の仕事を間近で見る機会はそれほどないので、そういう意味で貴重な映像を見せてもらえたのはありがたかった。しかし、記者としてごくまともに活動しているにすぎない彼女が一人目立ってしまう今の日本のマスコミの在り方は、どれだけ歪んでいるのかと思わざるを得ない。
【グレタ GRETA】
お久しぶりのニール・ジョーダン監督作品。ハンドバッグを電車内に忘れたふりをして親切に届けてくれた女の子を毒牙に掛けるという、寂しさで狂ってしまった主人公が恐ろしくも哀しいが、イザベル・ユペール先生はこういう役をやらせるとあまりにハマりすぎて、逆にキャリアにマイナスになったりしないのか?と実に余計な心配をしてしまったりする。
【読まれなかった小説】
【雪の轍】でカンヌ映画祭のパルムドールを受賞したトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の最新作。若くて過剰な自信に溢れているが故に少しだらしない親に辛辣に相対する息子が、現実の厳しさを知って親を見る目も変わる、といったストーリーは、形は違えど世界のどこにでもある普遍的なものかもしれない。
【私のちいさなお葬式】
死を宣告され自分の葬式の準備を始める女性と、都会に離れて暮らすその息子を描いたロシア映画。息子に迷惑を掛けたくないと過剰に自己完結してしまうのは、逆に母親としての矜恃や意地なのか。そして、母親の話と思っていたけれど、実は母親の姿を見て自分の生き方をいろいろ考えてしまう息子の話だったのではないかと、最後に思い至った。
【MANRIKI】
斎藤工さんがプロデュースと主演を務め、友人の永野さんの脚本を映画化。女の顔を万力で●●する整顔師(?)が放浪のあげく××になるストーリーなどあって無きが如し。(一応人間の美醜に対するこだわりを問うているらしいんだけど、)こういうシュールで訳の分からないヘンテコな映画、今はほぼ絶滅危惧種で成立させること自体難しいに違いなく、何だか妙なノスタルジーを感じてしまった。
【決算!忠臣蔵】
忠臣蔵の討ち入りには一体どれくらいお金が掛かったのかを解説する学術文庫を、中村義洋監督がコメディに書き起こして映画化。お金の価値を分かっておらず湯水のように無駄遣いする武士の面々にイガイガし、その上女好きでもある大石内蔵助に途中まで全然感情移入できなくて困った。もしかして史実には近いのかもしれないけど、一見チャラくて安っぽい赤穂浪士の皆様を見たいという欲求は、自分はあまり持っていなかったみたいだ。
【わたしは光をにぎっている】
詩人でもある中川龍太郎監督が描く、上京した少女の成長物語。主人公の心情の変遷を、時に印象的な心象風景をインサートしながら丁寧に追っていくのには好感が持てる。が、予告編を見て感じた以上のインパクトは正直得られなかったので、もう少し何か手応えのようなものが欲しかったかもしれない。
最近見た映画 (2019/11/27版)
最近、こんな映画を見ました。
【ボーダー 二つの世界】
【ぼくのエリ 200歳の少女】(未見です)の原作者が原作と共同脚本を手掛けた北欧映画。予備知識なしで見に行ったので、全く想像していなかった衝撃的な展開に呆気にとられてしまった!邦題に「二つの世界」というちょっとしたネタバレが入ってるから言っちゃうけど、主人公の二人はかの世界ではきっと絶世の美男美女なんでしょうなぁ。
【真実】
是枝裕和監督がカトリーヌ・ドヌーヴさんやジュリエット・ビノシュさんらを迎えフランス資本で撮った一作。母娘の葛藤のドラマがそこまで深く掘り下げられている脚本だとは思わないが、二人の名女優の演技が何よりの説得力を持ち、映画としては成功しているのでは。今後、日本経済の更なる悪化に伴い国内の映画製作の状況はますます厳しくなるかもしれないので、力のある人は外国に行って撮るという選択肢も視野に入れていくべきだ。そんな中、本作の在り方は一つの試金石になるのではないかと思う。
【閉鎖病棟 それぞれの朝】
平山秀幸監督が描くある精神科の閉鎖病棟の物語。死刑が失敗して収容された死刑囚、幻聴が聞こえるようになったサラリーマン、義父から性的虐待を受けていた少女らの交流と、辛い事件を経た再生の物語は、全然納得できる展開ではないけれど胸を打つ。本作の鶴瓶さんの芝居は、これまでの鶴瓶さんの出演作の中でも最高クラスなのではなかろうか。
【ヒキタさん!ご懐妊ですよ】
マルチクリエイターのヒキタクニオさんが自らの妊活経験を描いたエッセイの実写映画化。妊活が社会に浸透し、今後その経験を描いた映画やドラマも増えるだろうと思うが、本作は男性側からの経験を描いたことと、夫婦の絆そのものを大切に描いているところがいいなぁと思う。愛妻家を演じる松重豊さんに興味あるファンの方は是非ご覧になってみて!
【蜜蜂と遠雷】
あるコンクールに出場する若手ピアニスト達を描いた恩田陸さんの小説の映画化。四者四様の天才がお互いに共鳴し影響を与え合いながら競う姿を、音楽の上でもきちんと“演じ分け”させながら重厚に描いているのが麗しい。石川慶監督はポーランドの国立映画大学で演出を学んだとのこと。監督の前作は正直好きではなかったのだが、本作ではその正統派の資質がプラスに働いていると思う。
【最初の晩餐】
CMやMVなども手掛ける常盤司郎監督のオリジナル脚本による一本。連れ子同士の再婚で、うまく行きそうでうまく行かなかった家族が、父の葬式で再会する。各自のエピソードにもそれが織り成す成り行きにも一つ一つに頷けるいいドラマだった。そして、朝ドラで不完全燃焼だった「染谷将太さんの演技をどっぷり見たい欲」をがっつり満たして戴けて嬉しかった。
【エセルとアーネスト ふたりの物語】
【ゆきだるま】【風が吹くとき】の絵本作家レイモンド・ブリッグズによる彼自身の両親の物語のアニメーション。絵本がそのまま動き出しているような美しい色彩で描かれる、第二次世界大戦を跨いだ時代のロンドンのごく普通の慎ましやかな庶民の暮らし。今まで見てきたロンドンが舞台の幾つもの映画の答え合わせを見ている気持ちにもなった。
【NO SMOKING】
細野晴臣氏のデビュー50周年を記念したドキュメンタリー 。はっぴいえんど、YMO、ソロ活動、サントラ、歌謡曲、テレビ出演、etc.……関わってきた仕事が膨大すぎて、それらを追うだけで結構いっぱいいっぱいな印象もある。それでも、お茶目で洒落っ気があって新しもの好きで、常に面白いことにしか興味の無い細野さんのキャラクターの魅力は端々から伝わってくると思う。
【キューブリックに愛された男】【キューブリックに魅せられた男】
スタンリー・キューブリック監督の下で滅私奉公的に働いていた2人の人物を描いたドキュメンタリー。全く別個の作品で、方や映画のことはあまり分からないけれどキューブリックに愛されていた雑用係兼運転手、方や俳優として出演した【バリー・リンドン】でキューブリックに魅せられやがてキューブリックの映画製作の何もかもを知り尽くした右腕以上の存在になった筆頭スタッフと、描いている人物も対照的。なので両方比較して観ると面白いけれど、どちらか1本であれば【…魅せられた男】をお勧めしたい。レオン・ヴィターリさんは驚くほどに勉強熱心で努力家で優秀で、あのまま俳優を続けていてもきっと大成したはず。それほどの人物を心酔させてしまった生身のキューブリックはどれほど並外れた天才だったのだろう、と思いを馳せずにはいられない。
【惡の華】
押見修造氏のコミックスを、著名なアニメーション脚本家・岡田麿里氏が脚本化し、井口昇監督が実写化。クラスの嫌われ者の女子に弱みを握られた少年が、言いなりになるうちに逆に彼女に執着するようになり、地獄の青春の蓋が開(あ)く。思春期の仄暗い破滅衝動や挫折感をここまで真正面から描き切ろうとした映画が今まであっただろうか。あの総てを浄化するような海岸のシーンは、青春映画史上に残る名シーンになるのでは。
【ブルーアワーにぶっ飛ばす】
CMディレクターの箱田優子氏が自ら脚本を書いた、夏帆さんの主演による初監督作品。過剰なほどに仕事に邁進し自己破壊的な生活を送る女性が、自分の生まれ育った場所に対して抱えているトラウマが痛いほどよく分かる。彼女が生き残るためにどうしても「友達」を必要としたことも。この寂しくも希望があるラストシーンは美しいと思う。
【楽園】
【悪人】の吉田修一氏の原作を瀬々敬久監督が映画化。田舎の閉鎖的で排他的なコミュニティの中で主人公達が追い詰められていく物語は(上記の作品同様)トラウマのど真ん中にぶっ刺さってあまりに欝。そしてその後の更に真っ暗い展開……。この描写力は本当に素晴らしいけれど、あまりに気持ちの置き所がなくて辛すぎた。
【普通は走り出す】
大田原愚豚舎の渡辺紘文監督による、トリプルファイヤーというバンドの曲をモチーフにしたコラボ作品で、監督自ら主演を務める。旧作の【プールサイドマン】を見た時に、監督自身が一番キャラ立ちしてて面白いのでは?と内心思ったのは間違いじゃなかった。作品創りに悩む作家自身を主人公にするという手は何度も使えないけれど、ストーリーが分かりやすい本作は、監督の作品の魅力も伝わりやすいのではないだろうか。
【108 海馬五郎の復讐と冒険】
大人計画主宰の松尾スズキ氏による脚本・監督・主演作で、愛する妻の浮気を疑い離婚を決意した男が、財産分与したくなくて買春で使い切ってやろうとするという壮大にアホな話……。プライドばかり高くて現実に向き合えず、妄想に逃げ込むことを肉欲の言い訳にする男は、何ともちっぽけで浅ましくてみみっちい。こんないじましい男を演じてくれる役者を探すのが大変そうだから自分で演じたの?しかしこれを喜劇と捉えて描き切る松尾氏の表現者としての冷徹さは凄まじいと思った。
【愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1】
【海辺の生と死】【二十六夜待ち】の越川道夫監督が描く3人の男女の愛憎劇。人生に絶望している若い女は、妻を失って誰か側にいて欲しい中年男に請われるままに結婚するが、他の男と出会ってしまう。繊細な心の動きをつぶさに追う越川監督の丁寧な描写はとても好きだ。
【人生、ただいま修行中】
【音のない世界で】【ぼくの好きな先生】のニコラ・フィリベール監督がフランスの看護学校で撮影したドキュメンタリー。映画終盤の授業に関するカウンセリングの部分が特に印象的で、指導者にも相当な人間的成熟や豊富な知識や経験や高度な職業哲学が求められるなぁと思ったけれど、こうした部分の指導は日本ではどうなっているのだろう。自分は日本の教育現場のことはほとんど何も知らないと気づかされた。
【スペシャルアクターズ】
【カメラを止めるな!】の上田慎一郎監督の新作。特殊な仕事を請け負う俳優事務所に成り行きで勤めることになった男性の困った癖とは。ほぼ無名な俳優さんしか出ていないのに最後まで飽きさせず見せきる監督の脚本や演出の手腕はやはり確かなものだと納得。けれど、観客に対するサービスの気持ちが強すぎるからなのか、いろいろ整理しきれないままに詰め込みすぎでは?次回作はそこまでどんでん返しにこだわりすぎなくてもいいんじゃないのかな。
【最高の人生の見つけ方】
ジャック・ニコルソン&モーガン・フリーマン主演のハリウッドのヒット作を吉永小百合さん&天海祐希さん主演で和製リメイク。全く違う人生を歩んできた女性同士の話に翻案していて盤石の面白さだったが、偶然手に入れた他人のノートを勝手に読んでいるところとか、家庭のことは全部妻に押し付けていた旦那が大して変化しているようにも思えなかったところなど、幾つか雑に感じる点もあった。
【一粒の麦 荻野吟子の生涯】
日本で初めて医師免許を取得した女性である荻野吟子の生涯を描いた作品。もっと突っ込んで描いて欲しいところも多々あったけど、そもそも荻野さんのことをほとんど知らなかったので、入門編としてはいいんじゃないかと思った。この話は朝ドラにしたら面白いんじゃないですかね?脚本家は森下佳子さんか藤本有紀さんか野木亜紀子さんか中園ミホさん辺りでどうだろう。
【空の青さを知る人よ】
こちらも岡田麿里氏の脚本によるオリジナルのアニメーション。両親がおらず市役所勤めの姉と暮らす女子高生のもとに、姉の高校時代の元カレがタイムスリップしてきた。ここに現在の元カレもやって来て、それぞれが自分の過去や未来に向き合うといういい話……なんだけど、やはりタイムリープものって話半分で見てしまっていて、どこか本気で面白がれていないんだよね。
【“樹木希林”を生きる】
生前の樹木希林さんに密着したNHKのドキュメンタリーの再編集版。最晩年の希林さんの貴重なお姿を拝見できたのはありがたかったが、後半、ディレクター氏の自分語りになっているのは何だかな。申し訳ないけれど、私はディレクター氏がうだうだと語るパーソナルな問題には全く興味が無いし、そういうことをしたいなら別のフォーマットに切り分けて自費でやるべきではないだろうか。
話題になっていた【ジョーカー】を観てみたのですが、正直、全然分かりませんでした……。そもそも彼はあまりピエロという職業に向いていなんじゃないか、という点はともかく、いくら他者から虐げられていたとしても、それを他者への暴力衝動に転換していいというのは何か根本的に違うんじゃないかと感じてしまいます。でも自分もかつてはジャック・ニコルソンのジョーカーをファンタジーとして受容していたはずで……う~ん。この辺りはもう少しいろいろ考えてみようかなと思います。
感想は次回に回しますが、スコセッシ監督の【アイリッシュマン】は超傑作でした!もし機会があれば是非とも映画館で観てみて戴きたいです。
最近見た映画 (2019/10/21版)
最近、こんな映画を見ました。
【サタンタンゴ】
先日引退を表明したタル・ベーラ監督が1994年に製作した7時間18分の映像叙事詩。ストーリーを語るだけならおそらく、2時間前後という現在の劇映画のフォーマット(それもかつて人間の生理に合わせて発明されたものなんだろう)でも充分語れるんだろうけど、そうした中で切り落とされてしまう人間の生の存在感とか息遣いとか手触りとか空気感とかを掬い取ろうとするとこういう形になったのだろう。閉じられた時空に現出する黄昏の世界を追体験することは、確かに忘れがたい強烈な映像体験になる。
【ディリリとパリの時間旅行】
ミッシェル・オスロ監督が描き出すベル・エポックのパリ。フランスとニューカレドニアの混血の少女ディリリは、高い教育を受けた勇敢でエレガントなレディで、パリを隅々まで知る配達人の少年と共にある事件の解決に乗り出す。ベル・エポックを美化しすぎでは?というきらいはあるものの、芸術や知性の力で暴力や差別やミソジニーに立ち向かうという監督のメッセージにはシンプルに心を動かされた。
【ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん】
19世紀のサンクトペテルブルグ。ロシア貴族のお姫様が、北極航路の探検から戻らない祖父の名誉のために独り北へ旅立つ。予想を上回る展開のスケールのでかさに手に汗を握り、少女の力強さと健気さに肩入れしたくなる。これを実写でやったらおそらく鼻白んでしまう。アニメーションのフィクション性とアート性が見事に結実している秀作だと思う。
【ダンスウィズミー】
矢口史靖監督がミュージカル映画に初挑戦!すっかり働く女性の役が似合う年齢になっていた三吉彩花さん&驚愕するほどの歌や踊りの才能を見せるやしろ優さんによるロードムービー仕立てで、全く噛み合わない二人が友情を育むという筋書きが面白い。宝田明さん演じる催眠術師の完璧な胡散臭さもいいスパイス。監督と同年代なせいか、ポップでダンサブルな楽曲の数々がどれもこれも懐かしすぎる。
【ある船頭の話】
オダギリジョーさんが自ら脚本を執筆した長編初監督作品。やがて時代に取り残される運命にある船頭の男を柄本明さんが演じる(柄本さんの主演作というのは珍しいのでは)。正直、男の内面や少女の存在の意味など、幾つかの理屈っぽい部分がうまく映像化しきれていない印象も受けた。が、自然と共生するように生きる男とその舟で川を行き交う人々の描写だけでも圧倒的に美しく、小さな欠点を凌駕して余りある魅力があった。
【台風家族】
【箱入り息子の恋】の市井昌秀監督が描く、父親の葬式に集まったあるきょうだいの肖像。駄目男の兄の草彅剛さん、その大人しい妻の尾野真千子さん、一癖ある妹のMEGUMIさんなど、意外な配役がぴたりと嵌まっているのが面白い中で、エリートサラリーマンの弟役の新井浩文さんはつくづくいい役者だと、どうしても、どうしても思わずにはいられなかった。
【人間失格 太宰治と3人の女たち】
蜷川実花監督が描く太宰治の物語。小栗旬さんに女たらしの役なんてできるのか、なんて懸念は馬鹿馬鹿しいほどに杞憂で、三者三様のやり方で太宰の才能を愛した宮沢りえさん・沢尻エリカさん・二階堂ふみさんのそれぞれの説得力も強烈だった。蜷川実花監督作でどれがいいかと問われたら今後は本作を推したい。
【引っ越し大名!】
【超高速!参勤交代】の土橋章宏さんの脚本を、犬童一心監督が映画化。松平直矩(なおのり)という大名が5回も国替をさせられた(父親の代からだと通算7回)のは史実のようで、「引っ越し大名」というあだ名も本当につけられていたらしい。“引っ越し奉行”的な役職があったかどうかは不明だそうだが、史実を元に膨らませた脚本は見事。キャストも演出も盤石で、安心して楽しめるエンターテイメントに仕上がっていて素晴らしい。
【ドッグマン】
【ゴモラ】のマッテオ・ガローネ監督の新作で、暴力的な幼なじみに逆らえず仕事や信頼など様々なものを失うトリマーの男の物語。どうして口約束など守ってくれる筈がない幼なじみの口車に乗って犯罪の片棒を担いでしまうのか?分かりきっている展開に易々と巻き込まれてしまういじましい主人公にイガイガする。それだけに、この結末にはある種のカタルシスがある?いや、やっぱり無理かなぁ……。
【火口のふたり】
直木賞作家・白石一文氏の原作小説を、脚本家の荒井晴彦御大が自ら監督も担当して映画化。肉体的にどうしても魅きつけられてしまう男女の宿命的な関係の描写が凄まじく、余計な枝葉が少ない分エロティシズムの純度も高い。しかし、こんな冗談めかした終わり方にしない方が文学的に薫り高い作品になったんじゃないだろうか。
【ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド】
タランティーノ監督×ディカプー×プラピで描く、こうであって欲しかったシャロン・テート事件。起こるべきではなかった悲劇的な暴力を、フィクション(あるいは“映画の嘘”)の力で否定し乗り越えようとするとは、なんて斬新なことを考えるんだ。作風的にも昔好きだった頃のタラちゃんがちょっと戻ってきたみたいに感じられて嬉しかった。
【アイネクライネナハトムジーク】
伊坂幸太郎さんと斉藤和義さんのコラボから生まれた短編集を、【愛がなんだ】の今泉力哉監督が映画化。偶然生まれた繋がりが連鎖してそれぞれの人々の人生が変化していくような物語だから、【愛がなんだ】みたいな一点突破的な熱量はあまり感じられなかったが、バランスの取れた話法に監督の確かな実力が見て取れたように思った。
【タロウのバカ】
大森立嗣監督が描く、ネグレクトされ続けてきた少年達の世界。反社会的組織のようなものに加わるほどの力もない言わばヘタレな少年達は、自分達より更に弱いものに対して暴力を浴びせることしかできない。その姿には心を抉られるけれど、あまりにも救いもカタルシスもがないのがちょっと辛い。
【帰れない二人】
ジャ・ジャンクー監督が描く、あるヤクザな男とその元情婦の積年の腐れ縁。自分のことを見てくれない人を思い続ける度量など自分にはないので、この女性の気持ちが分からなくて、大地を吹く風が運ぶ砂埃みたいにざらざらとした感触だけが胸に残った。
【命みじかし、恋せよ乙女】
ドイツの監督が描く日本を一部舞台にした幽霊譚。幽霊と妖怪は「怪奇もの」の中でもちょっとベクトルが違うので惜しい!でも監督は、樹木希林さんとどうしても仕事をしたくてこんな話を書いたんじゃないかなぁ。樹木さんの最後の演技は、まるでこの世に別れを告げているみたいに見えて涙が出そうになった。樹木さんさようなら。今まで長い間本当にありがとう。
【ピータールー マンチェスターの悲劇】
マイク・リー監督の新作。19世紀初頭のナポレオン戦争後、経済の悪化で疲弊した英国の労働者階級が選挙権を求めて行っていた抗議活動に、軍隊が直接刃を向けた……。こうして書いているとどうしても香港のことが頭をよぎる。パンピーなど俺らアッパークラスの言うことを大人しく聞いてりゃいいという態度を政治家や既得権益層が隠そうともしないどこぞの落日の国でも、潜在的には同じことが起こってるんじゃないかと思う。
【アートのお値段】
現在のアート市場の実像を売り手・買い手・アーティスト本人・批評家・学芸員など様々な立場の人々を通して描き出そうとしたドキュメンタリー。現在のアート市場って単なる投資の対象と化しており、芸術とは本来どのようなものだったのかということからはやはり遠く遠く隔たっているんじゃないだろうか。という思いがますます強くなった。
【ヒンディー・ミディアム】
インドのお受験がテーマで、我が子を「ヒンディー・ミディアム」(ヒンディー語で授業を行う公立学校)ではなく「イングリッシュ・ミディアム」(英語で授業を行う私立名門校)に入学させようと様々な手を尽くすミドルクラスの夫婦の物語。学歴によって全く違う未来が開ける可能性が高いインドの受験戦争は大変苛烈だと伝え聞くが、その一側面を見せてもらえたように思う。しかし、どれがタイトルだか分からないこのポスターのメインビジュアルは確かにひどいかもしれない。
他にこのような映画も見ました。
【記憶にございません!】は三谷幸喜氏の脚本・監督作。しかし、今の現実の政治状況を考えると、ダメ首相が記憶喪失になったくらいで真っ当な善人になるなんて筋書きはあまりにお花畑が過ぎて、話が進めば進むほどしらけるばかりでした。これ、三谷さんのネームバリューである程度の観客動員は見込めると思うのですが、見た人達はみんな本当に面白いと思っているのかなぁ……?
【葬式の名人】は映画評論家の樋口尚史氏の監督作。川端康成の小説をベースにしているらしいのですが、学のない自分には、数人で棺桶を担いで街を練り歩くとか、学校でお通夜をするとかいった現実離れした光景が奇矯にしか映りません。そこに付いていける人なら別次元の面白さを見出すことができるのかもしれませんが、私にはその能力は無かったようです。
去年の映画のログを何とか書き上げようと四苦八苦しているうちに、いろいろあって前回の更新からすっかり間があいてしまいました。毎度毎度、話題が若干古くなってしまい申し訳ありません。次回はもう少し早く更新ができるようにしたいです。
最近見た映画 (2019/08/19版)
最近、こんな映画を見ました。
【天気の子】
新海誠監督が描く、晴れ女の少女と家出少年のボーイ・ミーツ・ガール。これまでの新海監督の作品で【言の葉の庭】の雨の表現が最も好きだったので、本作に大好きな表現がたっぷり詰まっていることにまず感激。で、晴れ女はもしかしてあるんじゃないの?という個人的な実感から、本作には親しみを感じたんですよね。歳取ってきて、人類にはおそらくタイム・リープの能力はないという体感が勝るようになり、その手のSFには共感しにくくなってきてまして……。
【五億円のじんせい】
GYAOとアミューズによる才能発掘プロジェクトの第1回グランプリ作品の映画化。五億円の募金で心臓手術を受けて生きのびたことを負担に感じている少年が、五億円を返してから自殺するべく様々なバイトに手を染める。少々強引ながらアップテンポなストーリーに、ユーモアと人間観察が行き届いていて抜群に面白い。文晟豪(ムン・ソンホ)監督と脚本の蛭田直美さんの次回作に大いに期待したい。
【隣の影】
些細なきっかけで始まったご近所トラブルが誤解と不寛容の応酬で際限なく悪化していく様子は、半端なホラーよりよっぽど恐い……。これは、現代における狭量さを原因にしたあらゆる関係性の破綻を揶揄しているのではなかろうか。アイスランドの俊英、ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン監督は今後も要注目かもしれない。
【世界の涯ての鼓動】
この邦題には同じヴィム・ヴェンダース監督の【夢の涯てまでも】を思い出すけれど、前作では実際に、本作では知性の翼を広げて、世界を駆け巡っているように見える。違う世界に住む二人が会話の中で関係性を深めて親密になっていく過程は、最近見たラブストーリーの中で最もドキドキしてしまった。
【あなたの名前を呼べたなら】
田舎からムンバイに出てきたハウスメイドの女性と、その雇い主である富裕層の男性が親しくなっていく過程を描いたインド映画。この世には越えるのが難しい経済的な階層が(残念ながら)厳然と存在しているけれど、ハウスメイドは、その分断された世界の垣根を照射する存在として、いくつかの映画(例えばアルフォンソ・キュアロン監督の【ROMA/ローマ】など)に取り上げられている。そして階層間に繊細に張られているバリアが崩れる時にドラマが生まれるのだ。
【よこがお】
甥が関わった犯罪に端を発した不幸な連鎖により、それまで築いてきた生活を全て失う女性の話。物語が先に存在していたのではなく、まず筒井真理子さんありきで物語が描かれたということだが、彼女をどんな不幸な目に遭わせられるか、それで彼女がどうするのかの耐久レースみたい。深田晃司監督が描こうとするのは玉虫色の不条理で、そこに社会性や普遍性が見出されるとすれば、後からついてくるオマケみたいなものなんじゃないかと思う。
【こはく】
幼い頃に父親と別れたトラウマを引き摺りながら生きる中年の兄弟の物語。経済的に自立できない兄も、妻が妊娠したことを内心喜べない弟も、抱える傷は同じ。あることをきっかけに人生の時計の針を進め始める兄弟の姿が印象的だった。弟役の井浦新さんは言うに及ばす、兄役の大橋彰(アキラ100%)さんも抜群にいい。
【風をつかまえた少年】
アフリカのマラウイの少年が、学校の図書館の本にあった風力発電の風車を自作し地下水を汲み上げて地域を干ばつから救ったという実話に基づく物語。ドラマ的な誇張は控えめに、地域の様々な問題にも言及しつつ手堅くまとめられた良作だと思う。キウェテル・イジョフォー監督は【それでも夜は明ける】で米国アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたイギリス出身の俳優さん。イギリス演劇界は奥深い。
【トム・オブ・フィンランド】
トム・オブ・フィンランドは第二次世界大戦後に活躍したフィンランドの画家で、マッチョなハードゲイを描いてゲイアートの先駆者になり、その後の世界のゲイカルチャーに多大な影響を与えた人物とのこと。氏のことを知らなかったので勉強になった。同性愛者としてのアイデンティティを表明することは今だって大変だけど、当時は今の比じゃないくらい本当に大変だっただろうなぁ。
【ゴールデン・リバー】
キャストに釣られて見に行って、始まって5分で、しまった!私、西部劇好きじゃなかったと気づいたがもう遅い。何をやっても今一つ達成できない殺し屋の兄弟が体現する不全感は人生の本質を突いているのかもしれない、が、馬や鉄砲を見るとやはり自動的に眠気のスイッチが入ってしまうのよね……。
【存在のない子供たち】
過酷な環境に暮らす子供達を描いたレバノン映画。ナディーン・ラバキー監督がリサーチ中に実際に目にした事柄を盛り込んだフィクションで、主演の少年を始めとする出演者のほとんどは、演じた役柄に似た境遇にいた素人なのだという。レバノンに留まらず、世界中の辛い境遇にある子供達がいつか救われますように、という監督の願いが痛いほど感じられた。
【パラダイス・ネクスト】
アウトローな豊川悦司さんと妻夫木聡さんが台湾で逃避行する話。半野喜弘監督の前作からしてストーリーの面白さよりは雰囲気重視な予感はしていたが、トヨエツと妻夫木くんの演技はそれでも見ていて飽きない魅力があるんだよね。
【Diner ダイナー】
いかにも蜷川実花監督っぽい極彩色のど派手な世界。綺羅星の如くの豪華キャストが個性的なキャラを生き生きと演じていらっしゃるのは素敵だけど、殺し屋だけが集まるダイナーとかいった現実的じゃない設定にもう本当に興味が湧かなくて、いよいよ自分の感性はばぁさん化しているのだなぁとしみじみした。
最近見た映画 (2019/07/15版)
最近、こんな映画を見ました。
【海獣の子供】
五十嵐大介さんの著名なコミックを原作とするSTUDIO4℃制作のアニメーション作品。“分かったか”どうかと言われると心許ないが、細けぇこたぁいいんだよ!この映画だけは是非映画館で体験するべき。アニメならではの圧倒的な表現の美しさを目撃し、米津玄師先生の神々しいテーマソングに身を委ね、ただどうしようもなく打ちのめされるべき。
【氷上の王、ジョン・カリー】
フィギュアスケートにバレエなどの要素を取り入れ芸術の域に高めたとされるインスブルック・オリンピックの金メダリスト、ジョン・カリーのドキュメンタリー。ジャンプの難易度などは比較にならないものの、スケーティングの美しさや演目の面白さはきっと今でも充分通用するレベル。けれど氷上で常に孤独だったという彼に、氷上での愛を謳った某アニメをどうしても思い出して涙せざるを得なかった。
【凪待ち】
白石和彌監督の最新作。自らの中の嵐に翻弄され、手をつけてはいけないお金まで使い込んでしまうギャンブル中毒者に、のめり込んだら夢中になってしまう危うさをどこかに秘めた香取慎吾さんがピタリと嵌まる。今までも決して嫌いじゃなかったけれど、【黄泉がえり】で草彅剛さん、【十三人の刺客】で稲垣吾郎さんが刺さったように、この映画で初めてここまで香取慎吾さんに感電したような気がする。
【長いお別れ】
【湯を沸かすほどの熱い愛】の中野量太監督の最新作。離れた場所で暮らしながらそれぞれの人生に思い悩む姉妹が、父親の認知症を知らされる。山崎努さん、竹内結子さん、蒼井優さんの演技の説得力が半端なく、父親に自然体で寄り添う母親役の松原智恵子さんの可愛らしさも素晴らしい。中野監督は、観察力さえあれば今の時代でも家族映画は充分可能なのだという可能性を感じさせてくれる。
【新聞記者】
東京新聞の望月衣塑子記者の手記を“原案”に、新大学設立にまつわる陰謀を取材する記者と、ある事実に翻弄される若手官僚を描く。今のこの時によくこの映画が撮れたと思うが(そして松坂桃李さんを始めとする役者の皆さんはよくぞ出演してくれたと思うが)、現政権の独裁体制が進めば、そのうちこんな映画を撮ることも、SNSでつぶやくこともできなくなるんじゃないのかな……。国民生活を根本的に破壊しつつある元凶を漫然と黙認する人達の考えることは私にはよく分からない。
【泣くな赤鬼】
重松清さんの短編を原作にした、高校野球部の監督と、若くして不治の病に冒された元教え子の物語。自分の型に嵌めることしか考えていない体育会系のおっさん(人類の敵)と精神的に少し弱さのあった教え子は残念な化学反応を起こしてしまうが、年月を経て再会しお互いを分かり合うことができた二人に泣かされてしまった。堤真一さんも柳楽優弥さんもあまりにも上手すぎてずるいよ。
【旅のおわり世界のはじまり】
ウズベキスタンを舞台にした黒沢清監督の新作。監督らしからぬ開放的な雰囲気を感じるのはロケ地の力か。ある中堅女性タレントが、異境の地で内心自分のキャリアに悩みながら黙々と仕事に取り組む姿が描かれているが、前田敦子さん一人を中心に据えて映画を成立させることができる、その独特の求心力に改めて驚かされた。
【町田くんの世界】
少女マンガを原作にした石井裕也監督の最新作。どんな人でも分け隔てなく愛せるが故に、ある人を特別に好きになる感情を処理しきれない町田くん。結果、一番大切にするべき人を悲しませているその鈍感さにちょーっとイガイガしちゃったな。でも、ほぼ演技経験がなかったという主演二人の体当たりの演技がそのまま、青春のなりふり構わない一途さに変換されていて、その熱量が何だか心に残ってる。
【ウィーアーリトルゾンビーズ】
両親を亡くした子供達が、バンドを結成して人気を得る中で、それぞれの境遇と心理的な折り合いをつけていく。残酷な世界をドライでポップに描くタッチには、CMディレクター出身の中島哲也監督に通じる表現の強さを感じたが、長久允監督が現役の電通社員で、本作をマーケティング段階から手掛けたと聞いて思案中。監督の真価を見極めるには、これから何作か拝見させて戴きたい。
【誰もがそれを知っている】
久しぶりにスペインに帰郷した女性の娘が誘拐され、その行方を探すうち、長年公然の秘密であった事実が明らかになっていく。イラン出身のアスガー・ファルハディ監督が、ペネロペ・クルス&ハビエル・バルデム夫妻を迎えて撮った新作。単なるサスペンスの域を超えた細やかな人間描写に監督の真骨頂が感じられる。
【今日も嫌がらせ弁当】
原案は、反抗期の娘のために3年間作り続けたキャラ弁を記録したブログ本。お話はほぼドラマチックな要素で修飾されたフィクションなんだろうけれど、篠原涼子さんが発生させる磁場は全てを包み込み、見終わった後には何か納得させられて満足しているから不思議だ。芳根京子さんのあまりの可愛さにもびっくりしてしまった。
【きみと、波にのれたら】
恋人を亡くしたサーファーの女性を描いた湯浅政明監督の新作アニメ。主人公達のバカップル寸前なラブラブぶりに一瞬気が遠くなりかけたけれど、ヒロインが悲しみから立ち直り自分の道を歩き始めるまでが描かれているので、案外爽やかな印象が残った。千葉の各地がロケハンされているのは(距離感は滅茶苦茶だけど)チバケンミンとして嬉しいな。
【さよならくちびる】
ある女性デュオの成功と終焉 (と更なる何か)の軌跡を描いた塩田明彦監督作品。小松菜奈さんと門脇麦さんの二人にはやはり強烈な存在感があるけれど、若い皆さんが半径5m以内の内輪でわちゃわちゃする世界に興味が全く持てないというか、ほとんどついていけなかった……。もうこれは完全に自分が老化してるだけ。本当にどうもすいません。
【ザ・ファブル】
青年コミックを原作にした岡田准一さん主演のアクション映画。主人公の突拍子もないギャグ的行動が時折インサートされるのは、原作の二次元の世界では成立しても、三次元ではどうも違和感が。後半のアクションは確かに見応えがあったけど、何かこう、岡田准一の無駄遣い感が否めないような気がする。
【ハウス・ジャック・ビルト】
ラース・フォン・トリアー監督が描く連続殺人犯の物語。マット・ディロン様は全キャリアの中でもトップクラスかもしれないような名演を見せ、インパクトは随一だけど、例によって人にお薦めするのは難しい。多くの人が不快に感じるようなストーリーを作りたがるのは、既に監督の習い性というか、一種の病のようなものだから。ともあれ、グレン・グールド先生とデヴィッド・ボウイ先生には謝っておいた方がいいんじゃないだろうか。
最近見た映画 (2019/06/10版)
最近、こんな映画を見ました。
【主戦場】
第二次世界大戦中の日本軍の従軍慰安婦問題を巡る様々な人々の言説を検証したドキュメンタリー。論点がよく整理されており、自分じゃこうは作れないと、ミキ・デザキ監督の手腕にとても感心した。1点付け加えるなら時間軸の話。昔、大学でレポートを書くために読んだいくつかの資料によると、初期には確かにプロのセックスワーカーが高給で集められ、待遇も良かったが、戦火の拡大によって数が全然足りなくなったため、占領地の素人の女性が詐欺などのかなり強引な手段で掻き集められるようになり、劣悪な環境下で意に反する仕事を強制的にさせられたということだ。
【プロメア】
『天元突破グレンラガン』『キルラキル』などの今石洋之監督によるオリジナル劇場版アニメ作品。劇団☆新感線の中島かずき氏とはそれらの作品でも組んでいたとのこと。ワクワクと胸躍る濃い味付けのストーリーに、ポップで変幻自在な動線と色使いが素晴らしい!見どころのかたまりで満足感たっぷりだった。
【パパは奮闘中!】
ママがいきなり失踪し、最初は周囲の女性陣に頼っていたパパも、やがてワンオペ育児の苦難に直面せざるを得なくなる……。ロマン・デュリス演じるパパが時々“やらかしてしまう”部分に、こういう男性の“分かってなさ”は世の東西を問わないのだなぁと思ったが、彼が徐々に現実を受け入れて自ら家庭に向き合い始めるところに救いを感じた。
【バイス】
あまり評価が高くはなかったブッシュ・ジュニアの影で副大統領として暗躍したディック・チェイニーを描いた物語。一体誰のための政治なのか。今のアメリカの政治の強引な手法はこの時代に種が撒かれていた、という指摘に目の前が暗くなり、今の日本の政治の現状はおそらくもっと酷いのだなぁと思って、更に気持ちが暗くなる。
【愛がなんだ】
インディーズ作品で実力を磨いてきた今泉力哉監督が、角田光代氏の原作を映画化。自分を都合よく利用するだけのクソ男の関心を繋ぎ止めたいがため、そいつの理不尽な要求を呑みつづけるメンタリティなんて分かりたくもないけれど、そんなどうしようもない執着の在り様を丸ごと描き切っているのが凄まじかった。こんな難役を演じきった岸井ゆきのさんには、どれだけ賛辞を送っても足りる気がしない。
【RBG 最強の85才】
アメリカで現在最高齢の最高裁判所判事、RBGことルース・ベイダー・ギンズバーグ氏の歩みを描いたドキュメンタリー。アメリカで2番目の女性最高裁判事となり、女性が置かれてきた理不尽な立場の是正などのため一歩一歩戦ってきた姿には胸を打たれる。こういう素晴らしいロールモデルが存在するところはちょっとうらやましいような。
【ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス】
フレデリック・ワイズマン監督が、ニューヨーク公共図書館の様々な側面を余すところなく描く。図書館自体が、様々な形の知の受け皿として存在しようとする確固たる意志を持った生き物のよう。ニューヨークが世界有数の文化都市であり続ける秘密がこの図書館にあるのかもしれない。
【嵐電】
鈴木卓爾監督が京都を舞台にして描いた3組の男女の物語。日常の地続きにさりげなく異世界が出現するような感覚が、【ゾンからのメッセージ】などにも通底するようでもあり、京都という独特の妖しい空間をより魅力的に演出しているように思う。
【バースデー・ワンダーランド】
原恵一監督による児童文学のアニメ化作品で、少女(とその変わり者の叔母さん)が異世界の国を旅する物語。しかし、消極的なヒロインの成長物語ではなく、ヒロインと同行した叔母さんにばかり興味が行ってしまった。あのお気楽さは、実は海千山千の人生経験に裏打ちされてそう。経験豊富でメンタルがタフな妙齢の女性がドラマツルギーに取り入れられるのはいい傾向だと思う。
【僕たちは希望という名の列車に乗った】
1956年のハンガリー動乱の際、授業中に犠牲者に黙祷を捧げたため当局からの弾圧を受けることになった東ベルリンの高校生達の実話の映画化。ちなみに、ベルリンの壁が建設されたのはこの5年後のこと。東欧諸国での共産主義の圧政も遠い昔になりつつある今日この頃、そうした時代の過ちを記憶に留める努力も意義あることに違いない。
【魂のゆくえ】
【タクシードライバー】の脚本家などとしても名高いポール・シュレイダー監督が描くある牧師の苦悩。もはや集金マシンでしかなくなった宗教システムと、目の前の人間を現実的に救うこととの狭間で、自らの無力さに打ちひしがれる牧師の姿が生々しい。ラストシーンが唐突に映ったが、あれこそが彼に訪れた救済であり、神の恩寵なのではないかと思った。
【12か月の未来図】
ひょんなことから、様々なバックグラウンドを持つ子供達が通う郊外の教育困難校に赴任することになった、元エリート校のベテラン教諭の奮闘ぶりを描く。最近、教育(かワイン)がテーマのフランス映画を多く見ている気がする。日本人バイヤーの好みもあるだろうが、実際フランス社会がそういうテーマに関心が高く、そうした映画が多く作られているのかもしれない。
【荒野にて】
父親を亡くした二人暮らしの父子家庭の息子が、殺処分が決まっていた馬と共に荒野を彷徨う物語。何も荒野を行かなくても、自分を保護してくれる叔母さんに会う方法は何かあったんじゃなかろうか。それでも、思い込んだらそのようにしか行けない頑なさが若いってことであり、いかなる帰結になろうとも、それはとても貴重で大切なものであるように思えた。
【希望の灯り】
旧東ドイツ・ライプツィヒ郊外の巨大スーパーのバックヤードで働く人々の物語。若者の行き場や家庭内暴力や時代の変遷など、人生に降りかかる様々な問題から決して目を背けている訳ではないのに、まるで夢の中のように温かくて美しい世界として映し出されているのが不思議だった。
【アレッポ 最後の男たち】
政府軍の空爆を受けて壊滅したシリアのアレッポで、市民の救助のため最後まで奮闘していた民間救助隊の姿を描いたドキュメンタリー。自国民に銃を向け何十万人もの人を殺し、何千万人もの人を難民にしたアサド大統領は完全に狂っている。人なくして国だけが存在することなど、どうしたって出来はしないのに。
【柄本家のゴドー】
演劇ユニットを組む柄本佑・柄本時生兄弟が、2017年に父親の柄本明氏を演出に迎えて行った『ゴドーを待ちながら』の公演の稽古風景。お父さん、何て生き生きと楽しそうなこと!柄本兄弟は映像の仕事の方が主という印象があるけれど、ご両親のルーツである演劇の舞台は二人の根幹に大きく存在しているんだなぁと思った。
【イメージの本】
ジャン=リュック・ゴダール監督が、現代の暴力・戦争・不和などをテーマに描いた映像詩。どぎついまでの極彩色が印象的。この世を悲観するご老体が、心にうつりゆくよしなしごとを徒然なるままに描き出そうとするエッセイみたいなものに思えたが、浮かんだイメージを可視化して他人に提示するというのはやはり選ばれた才能の持ち主にしかできないことだよな、と今更すぎることを改めて思った。
【ドント・ウォーリー】
故ロビン・ウィリアムズ氏からガス・ヴァン・サント監督への持ち込み企画だったという、半身不随の風刺漫画家ジョン・キャラハンの物語。あの状況では人生投げやりになるのも無理ないが、アルコールに溺れているだけでは悲しみが永遠に再生産され続けるだけ。自分の人生の主導権を自分が取るって大事。肝に銘じたい。
【ハイ・ライフ】
【ネネットとボニ】【ガーゴイル】の大ベテランのクレール・ドゥニ監督、何故、宇宙船の船内を舞台にしたSFを手掛けたのだろう……。単に密閉空間というセッティングが必要だっただけなんじゃないだろうか。と考えてふと、ドゥニ監督っていつも人間の感情の牢獄について描こうとしているのかもしれない、と思った。
ご無沙汰していて申し訳ございません。最近、本業の他にセカンドワークを始めてみたのですが、慣れないことが多くバタバタしておりました。どんな仕事でも、やはりその仕事ならではの知識や経験に裏打ちされているものだよなぁと改めて噛み締めつつ、こういう新鮮な感覚は久々で楽しいなぁと、日々思ったりもしています。