たそがれシネマ

最近見た映画など。

最近見た映画 (2019/07/15版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

海獣の子供
五十嵐大介さんの著名なコミックを原作とするSTUDIO4℃制作のアニメーション作品。“分かったか”どうかと言われると心許ないが、細けぇこたぁいいんだよ!この映画だけは是非映画館で体験するべき。アニメならではの圧倒的な表現の美しさを目撃し、米津玄師先生の神々しいテーマソングに身を委ね、ただどうしようもなく打ちのめされるべき。

 

氷上の王、ジョン・カリー
フィギュアスケートにバレエなどの要素を取り入れ芸術の域に高めたとされるインスブルック・オリンピックの金メダリスト、ジョン・カリーのドキュメンタリー。ジャンプの難易度などは比較にならないものの、スケーティングの美しさや演目の面白さはきっと今でも充分通用するレベル。けれど氷上で常に孤独だったという彼に、氷上での愛を謳った某アニメをどうしても思い出して涙せざるを得なかった。

 

凪待ち
白石和彌監督の最新作。自らの中の嵐に翻弄され、手をつけてはいけないお金まで使い込んでしまうギャンブル中毒者に、のめり込んだら夢中になってしまう危うさをどこかに秘めた香取慎吾さんがピタリと嵌まる。今までも決して嫌いじゃなかったけれど、【黄泉がえり】で草彅剛さん、【十三人の刺客】で稲垣吾郎さんが刺さったように、この映画で初めてここまで香取慎吾さんに感電したような気がする。

 

長いお別れ
【湯を沸かすほどの熱い愛】の中野量太監督の最新作。離れた場所で暮らしながらそれぞれの人生に思い悩む姉妹が、父親の認知症を知らされる。山崎努さん、竹内結子さん、蒼井優さんの演技の説得力が半端なく、父親に自然体で寄り添う母親役の松原智恵子さんの可愛らしさも素晴らしい。中野監督は、観察力さえあれば今の時代でも家族映画は充分可能なのだという可能性を感じさせてくれる。

 

新聞記者
東京新聞の望月衣塑子記者の手記を“原案”に、新大学設立にまつわる陰謀を取材する記者と、ある事実に翻弄される若手官僚を描く。今のこの時によくこの映画が撮れたと思うが(そして松坂桃李さんを始めとする役者の皆さんはよくぞ出演してくれたと思うが)、現政権の独裁体制が進めば、そのうちこんな映画を撮ることも、SNSでつぶやくこともできなくなるんじゃないのかな……。国民生活を根本的に破壊しつつある元凶を漫然と黙認する人達の考えることは私にはよく分からない。

 

泣くな赤鬼
重松清さんの短編を原作にした、高校野球部の監督と、若くして不治の病に冒された元教え子の物語。自分の型に嵌めることしか考えていない体育会系のおっさん(人類の敵)と精神的に少し弱さのあった教え子は残念な化学反応を起こしてしまうが、年月を経て再会しお互いを分かり合うことができた二人に泣かされてしまった。堤真一さんも柳楽優弥さんもあまりにも上手すぎてずるいよ。

 

旅のおわり世界のはじまり
ウズベキスタンを舞台にした黒沢清監督の新作。監督らしからぬ開放的な雰囲気を感じるのはロケ地の力か。ある中堅女性タレントが、異境の地で内心自分のキャリアに悩みながら黙々と仕事に取り組む姿が描かれているが、前田敦子さん一人を中心に据えて映画を成立させることができる、その独特の求心力に改めて驚かされた。

 

町田くんの世界
少女マンガを原作にした石井裕也監督の最新作。どんな人でも分け隔てなく愛せるが故に、ある人を特別に好きになる感情を処理しきれない町田くん。結果、一番大切にするべき人を悲しませているその鈍感さにちょーっとイガイガしちゃったな。でも、ほぼ演技経験がなかったという主演二人の体当たりの演技がそのまま、青春のなりふり構わない一途さに変換されていて、その熱量が何だか心に残ってる。

 

ウィーアーリトルゾンビーズ
両親を亡くした子供達が、バンドを結成して人気を得る中で、それぞれの境遇と心理的な折り合いをつけていく。残酷な世界をドライでポップに描くタッチには、CMディレクター出身の中島哲也監督に通じる表現の強さを感じたが、長久允監督が現役の電通社員で、本作をマーケティング段階から手掛けたと聞いて思案中。監督の真価を見極めるには、これから何作か拝見させて戴きたい。

 

誰もがそれを知っている
久しぶりにスペインに帰郷した女性の娘が誘拐され、その行方を探すうち、長年公然の秘密であった事実が明らかになっていく。イラン出身のアスガー・ファルハディ監督が、ペネロペ・クルスハビエル・バルデム夫妻を迎えて撮った新作。単なるサスペンスの域を超えた細やかな人間描写に監督の真骨頂が感じられる。

 

今日も嫌がらせ弁当
原案は、反抗期の娘のために3年間作り続けたキャラ弁を記録したブログ本。お話はほぼドラマチックな要素で修飾されたフィクションなんだろうけれど、篠原涼子さんが発生させる磁場は全てを包み込み、見終わった後には何か納得させられて満足しているから不思議だ。芳根京子さんのあまりの可愛さにもびっくりしてしまった。

 

きみと、波にのれたら
恋人を亡くしたサーファーの女性を描いた湯浅政明監督の新作アニメ。主人公達のバカップル寸前なラブラブぶりに一瞬気が遠くなりかけたけれど、ヒロインが悲しみから立ち直り自分の道を歩き始めるまでが描かれているので、案外爽やかな印象が残った。千葉の各地がロケハンされているのは(距離感は滅茶苦茶だけど)チバケンミンとして嬉しいな。

 

さよならくちびる
ある女性デュオの成功と終焉 (と更なる何か)の軌跡を描いた塩田明彦監督作品。小松菜奈さんと門脇麦さんの二人にはやはり強烈な存在感があるけれど、若い皆さんが半径5m以内の内輪でわちゃわちゃする世界に興味が全く持てないというか、ほとんどついていけなかった……。もうこれは完全に自分が老化してるだけ。本当にどうもすいません。

 

ザ・ファブル
青年コミックを原作にした岡田准一さん主演のアクション映画。主人公の突拍子もないギャグ的行動が時折インサートされるのは、原作の二次元の世界では成立しても、三次元ではどうも違和感が。後半のアクションは確かに見応えがあったけど、何かこう、岡田准一の無駄遣い感が否めないような気がする。

 

ハウス・ジャック・ビルト
ラース・フォン・トリアー監督が描く連続殺人犯の物語。マット・ディロン様は全キャリアの中でもトップクラスかもしれないような名演を見せ、インパクトは随一だけど、例によって人にお薦めするのは難しい。多くの人が不快に感じるようなストーリーを作りたがるのは、既に監督の習い性というか、一種の病のようなものだから。ともあれ、グレン・グールド先生とデヴィッド・ボウイ先生には謝っておいた方がいいんじゃないだろうか。