たそがれシネマ

最近見た映画など。

最近見た映画 (2019/08/19版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

天気の子
新海誠監督が描く、晴れ女の少女と家出少年のボーイ・ミーツ・ガール。これまでの新海監督の作品で【言の葉の庭】の雨の表現が最も好きだったので、本作に大好きな表現がたっぷり詰まっていることにまず感激。で、晴れ女はもしかしてあるんじゃないの?という個人的な実感から、本作には親しみを感じたんですよね。歳取ってきて、人類にはおそらくタイム・リープの能力はないという体感が勝るようになり、その手のSFには共感しにくくなってきてまして……。

 

五億円のじんせい
GYAOアミューズによる才能発掘プロジェクトの第1回グランプリ作品の映画化。五億円の募金で心臓手術を受けて生きのびたことを負担に感じている少年が、五億円を返してから自殺するべく様々なバイトに手を染める。少々強引ながらアップテンポなストーリーに、ユーモアと人間観察が行き届いていて抜群に面白い。文晟豪(ムン・ソンホ)監督と脚本の蛭田直美さんの次回作に大いに期待したい。

 

隣の影
些細なきっかけで始まったご近所トラブルが誤解と不寛容の応酬で際限なく悪化していく様子は、半端なホラーよりよっぽど恐い……。これは、現代における狭量さを原因にしたあらゆる関係性の破綻を揶揄しているのではなかろうか。アイスランドの俊英、ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン監督は今後も要注目かもしれない。

 

世界の涯ての鼓動
この邦題には同じヴィム・ヴェンダース監督の【夢の涯てまでも】を思い出すけれど、前作では実際に、本作では知性の翼を広げて、世界を駆け巡っているように見える。違う世界に住む二人が会話の中で関係性を深めて親密になっていく過程は、最近見たラブストーリーの中で最もドキドキしてしまった。

 

あなたの名前を呼べたなら
田舎からムンバイに出てきたハウスメイドの女性と、その雇い主である富裕層の男性が親しくなっていく過程を描いたインド映画。この世には越えるのが難しい経済的な階層が(残念ながら)厳然と存在しているけれど、ハウスメイドは、その分断された世界の垣根を照射する存在として、いくつかの映画(例えばアルフォンソ・キュアロン監督の【ROMA/ローマ】など)に取り上げられている。そして階層間に繊細に張られているバリアが崩れる時にドラマが生まれるのだ。

 

よこがお
甥が関わった犯罪に端を発した不幸な連鎖により、それまで築いてきた生活を全て失う女性の話。物語が先に存在していたのではなく、まず筒井真理子さんありきで物語が描かれたということだが、彼女をどんな不幸な目に遭わせられるか、それで彼女がどうするのかの耐久レースみたい。深田晃司監督が描こうとするのは玉虫色の不条理で、そこに社会性や普遍性が見出されるとすれば、後からついてくるオマケみたいなものなんじゃないかと思う。

 

こはく
幼い頃に父親と別れたトラウマを引き摺りながら生きる中年の兄弟の物語。経済的に自立できない兄も、妻が妊娠したことを内心喜べない弟も、抱える傷は同じ。あることをきっかけに人生の時計の針を進め始める兄弟の姿が印象的だった。弟役の井浦新さんは言うに及ばす、兄役の大橋彰(アキラ100%)さんも抜群にいい。

 

風をつかまえた少年
アフリカのマラウイの少年が、学校の図書館の本にあった風力発電の風車を自作し地下水を汲み上げて地域を干ばつから救ったという実話に基づく物語。ドラマ的な誇張は控えめに、地域の様々な問題にも言及しつつ手堅くまとめられた良作だと思う。キウェテル・イジョフォー監督は【それでも夜は明ける】で米国アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたイギリス出身の俳優さん。イギリス演劇界は奥深い。

 

トム・オブ・フィンランド
トム・オブ・フィンランド第二次世界大戦後に活躍したフィンランドの画家で、マッチョなハードゲイを描いてゲイアートの先駆者になり、その後の世界のゲイカルチャーに多大な影響を与えた人物とのこと。氏のことを知らなかったので勉強になった。同性愛者としてのアイデンティティを表明することは今だって大変だけど、当時は今の比じゃないくらい本当に大変だっただろうなぁ。

 

ゴールデン・リバー
キャストに釣られて見に行って、始まって5分で、しまった!私、西部劇好きじゃなかったと気づいたがもう遅い。何をやっても今一つ達成できない殺し屋の兄弟が体現する不全感は人生の本質を突いているのかもしれない、が、馬や鉄砲を見るとやはり自動的に眠気のスイッチが入ってしまうのよね……。

 

存在のない子供たち
過酷な環境に暮らす子供達を描いたレバノン映画。ナディーン・ラバキー監督がリサーチ中に実際に目にした事柄を盛り込んだフィクションで、主演の少年を始めとする出演者のほとんどは、演じた役柄に似た境遇にいた素人なのだという。レバノンに留まらず、世界中の辛い境遇にある子供達がいつか救われますように、という監督の願いが痛いほど感じられた。

 

パラダイス・ネクスト
アウトロー豊川悦司さんと妻夫木聡さんが台湾で逃避行する話。半野喜弘監督の前作からしてストーリーの面白さよりは雰囲気重視な予感はしていたが、トヨエツと妻夫木くんの演技はそれでも見ていて飽きない魅力があるんだよね。

 

Diner ダイナー
いかにも蜷川実花監督っぽい極彩色のど派手な世界。綺羅星の如くの豪華キャストが個性的なキャラを生き生きと演じていらっしゃるのは素敵だけど、殺し屋だけが集まるダイナーとかいった現実的じゃない設定にもう本当に興味が湧かなくて、いよいよ自分の感性はばぁさん化しているのだなぁとしみじみした。