たそがれシネマ

最近見た映画など。

最近見た映画 (2020/02/08版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

パラサイト 半地下の家族
韓国の天才、ポン・ジュノ監督のカンヌ映画祭パルム・ドール受賞作。ある金持ち一家に出入りするようになった青年の一家が、金持ち一家に気づかれないようにどんどん寄生し始める。彼等の行状はいつバレるのか?と最初はハラハラしていたが、途中からそんな臨界点も超えたブッ飛んだ展開になり、この先一体どうなるの?と恐いもの見たさの期待感から、最後は“どーん”と打ちのめされ……。しかし、【スノーピアサー】も【オクジャ】も悪くなかったけど、やっぱり地元で撮った作品の方が胸に迫るかもしれないなぁ。映画に血肉が通っているというか。(是枝裕和監督の作品もそう。)

 

AI崩壊
入江悠監督のオリジナル脚本による作品。2030年の日本は衰退していて医療くらいしかまともな産業がないというのも、あるデータベースに様々な情報が集約化されるというのもありそうな話。その設定に乗せたサスペンスの組み立ても申し分なく、力のあるキャストが演じていて見応え充分。あの【サイタマノラッパー】の入江監督がこんな壮大な話を創るようになったんだなぁ、と感慨深かった。ところで作中に出てくるあの法律、まるで自民党が執心している「緊急事態条項」みたいだね。

 

his
【愛がなんだ】の今泉力哉監督の新作。恋人に去られたことで心を閉ざし流れ着いた田舎で暮らす青年のもとに、その元恋人が子供を連れて現れる。この男性二人のそれぞれの気持ちも、彼等がその土地で受容されていく姿も、子供の親権を巡って離婚調停中の元恋人の妻の気持ちも、繊細に描かれていて圧巻。キャストはみんな素晴らしかったけど、宮沢氷魚さんのあまりの透明感にはウッときた。彼等はこれから一体どうなるのか、考えさせてくれるようなラストシーンもとても印象的だった。

 

フォードvsフェラーリ
1966年のル・マン24時間耐久レース。フェラーリ社に勝ちたいフォード社に雇われた元レーサーは、あるドライバーをスカウトする。はみ出し者の二人が、時に商売優先の上層部と衝突しながらもレースへの情熱をたぎらせる姿は胸熱。カーチェイスとガンファイトは眠くなる体質なので最初は鑑賞リストから外していたのだが、マット・デイモン様が出演を引き受けるような作品はさすがに人間ドラマもしっかりしていた。クリスチャン・ベイルさん演じる無骨で不器用なドライバーがあまりにもカッコよく、その結末に涙せずにはいられなかった。

 

プリズン・サークル
対話をベースに自分と向き合うTC(回復共同体とも治療共同体とも訳される)という教育プログラムを日本で唯一採用している刑務所で実際に撮影したドキュメンタリー。坂上香監督は「暴力の後をいかに生きるか」が自作のテーマだとのこと。受刑者の中には子供の頃に過酷な経験をしている人も多く、辛い気持ちを思い出したくなくて感情を停止させているから自分の感情に向き合って整理するのが苦手、という人達が結構いるらしいというのに驚いた。エンドロールの最後に「暴力の連鎖を止めたいと願う全ての人へ」という言葉が掲げられるが、そのために予算や労力を配分することは、長い目で見れば社会全体で無駄なコストを大幅に減らし一人一人の人間が持つ力を有効に使っていくことに繋がるのではないだろうか、と思った。

 

ラストレター
岩井俊二監督の最新作。ある人物のお葬式の様子から始まるのだが、高校卒業までの姿しか映されないその人物に対する追憶がこの映画の影の主役だったのだと、最後に気づかされた。でも彼女が味わったであろう地獄の苦しみを思うと、周りの人々の姿はあまりにも淡々とし過ぎてないか?いや、もうその段階は過ぎ去ったからこそ、彼女の美しい姿を記憶に留めることで彼女の生きた道筋を慈(いつく)み、自分達が生きる糧にしようとしているのか?うぅむこれは、考えれば考えるほど一筋縄ではいかない映画であるような気がしてきた。

 

ジョジョ・ラビット
第二次大戦末期のドイツ。ヒトラーを空想上の友達にしていた気弱なジョジョは、家の中にユダヤ人の少女が匿われているのを発見してしまう。以前ドキュメンタリーで見たヒトラー・ユーゲントはもっと規律重視でユーモアに欠けた全然違う雰囲気で、これはあくまでもハリウッドの解釈によるナチス・ドイツの話なのだということに身構えてしまう。ただ、スカーレット・ヨハンソンさん演じるジョジョの母親や、サム・ロックウェルさん演じる大尉などの人物造形が魅力的で、だからこそジョジョが向き合わざるを得なくなる現実の残酷さがより鮮明に心に残る。きちんとした矜恃を持った力強い映画だと思った。

 

リチャード・ジュエル
ある野外コンサートで爆弾の第一発見者となるもメディアに犯人扱いされ糾弾されたアメリカの警備員の実話を基にした話。クリント・イーストウッド監督は多くの作品でアメリカという国と個人との距離感を検証し続けてきているように思うが、いわゆる成功者ではないが故に一層愚直なまでに模範的アメリカ市民として振る舞おうとするリチャード・ジュエル氏の人物描写は非常に興味深かった。反面、彼を告発する実在した女性ジャーナリストの描写があまりにもお粗末すぎて残念。(色仕掛けで情報を取った云々もそうだけど、大して裏取りもしないまま記事にして、ごく初歩的な実証実験で改心して泣いているとか、頭が悪すぎじゃね?)こんなことでせっかくの良作を傷物にしてどうすんのよ。

 

ロマンスドール
タナダユキ監督の最新作で、高橋一生さん演じるラブドールの製作者が、蒼井優さん演じる妻と出会って愛を育む道のりが描かれれる。監督が描きたかったのは、行き違いを乗り越えてやっと分かり合えた二人の愛の交歓か、その果てに行きついた極致なのか、それともあの浜辺のラストシーンか。彼は魂を込めて美しいラブドールを創るけれど、愛する女性とそっくりなドールが人手に渡るって人形師さん的にはどういう気持ちがするものなの?とふと思った。ピエール瀧さんがどこか怪しげな社長の役にぴったりだった。

 

風の電話
東日本大震災後に多くの人が訪れたという岩手県大槌町の「風の電話」をモチーフにした諏訪敦彦監督作品。震災で家族を失った少女の喪失感と、彼女がつらい記憶と向き合いながらそれでも生きていこうと思い始めるまでの過程が繊細に描かれているのが素晴らしく、特にモトーラ世理奈さんが「風の電話」をかけるクライマックスのシーン(何とアドリブなのだそう!)は圧巻だった。ただ、以前「NHKスペシャル」でこの電話のドキュメンタリーを見たことがあって……フィクションにはフィクションの良さや独自の役割があるとしても、現実の迫力はまた次元の違うものだよなぁ、と思わざるを得なかった。

 

テリー・ギリアムのドン・キホーテ
ついに、ついに、ついに出来上がった【ドン・キホーテを殺した男】。テリー・ギリアム監督は、ドン・キホーテの映画化を思いつくも原作を読んで不可能だと悟り、ドン・キホーテ的なエッセンスを加えた話を構想したそうだけど、それは見果てぬ夢を追いかけるこういう男の物語だったのか、と感無量。このバージョンはおそらく最初考えていた形と全く同じではなく、歴代の出演予定者で出来上がっていたらどうなっていただろう、とどうしても頭をよぎるけど、これは最早そうした30年来の歴史ごと受容せざるを得ない希有で特異な作品なのだ。でもこの映画のことを初めて知った若い人には何のこっちゃかもしれないな。

 

オルジャスの白い馬
竹葉リサ監督がカザフスタンのエルラン・ヌルムハンベトフ監督と共同で監督した合作映画。大地の雄大な印象とは裏腹に、結構ハードだったり生々しかったりする出来事が起こる。草原に暮らす主人公の少年を演じるマディ・メナイダロフくんの存在感に大変説得力があって素晴らしい。一家の下にやってくる謎の男を演じる森山未來さん、ナチュラルにカザフスタン語を話しながらナチュラルに馬に乗る才能の塊(知ってた)。もしかして海外の人が見たら彼がカザフスタン人じゃないって分からないんじゃないかなー。

 

mellow
こちらも今泉力哉監督作品。優しい雰囲気で概ね心地よく見ることができるけれど、いくら良い花束を作るためでもプライベートなことをいろいろ聞いてくる花屋とか、私ゃ絶っっっ対無理。田中圭さんだからギリギリ成立……しているのかなぁ?あと、花屋さんはアレンジメントの仕事だけじゃなく、水切り仕事など結構な肉体労働だとも聞くのだが。相手役の女性が家業として営むラーメン屋さんもそう。二人の関係にはお互いの仕事に対するリスペクトが基本にあると思うので、そういうところももう少しだけ描いて欲しかったかも。

 

前田建設ファンタジー営業部
マンガやアニメの世界の建造物を実際に造ろうとしたらどうなるのか、ということを真面目に追求した前田建設のウェブ連載を、劇団ヨーロッパ企画が舞台化し、これを更に映画化した作品。そうか、マジンガーZの格納庫って本当に造れるんだ……。ドラマとしての脚色部分は良し悪しかもしれないが(紅一点の女子の扱いがステレオタイプなのがどうも)、こんな活動をしている企業があるなんて世間は広いなぁ、と知ることができてよかったと思う。

 

マザーレス・ブルックリン
エドワード・ノートンが監督・脚本・主演を務める私立探偵もの。主人公には言うべきでないことを口走ってしまうトゥレット症候群という病気があるのだが、そういう特異さもしばらくすると見慣れてきてしまう。全体的にもう少しコンパクトにまとめることもできた気もするが、テンポ感よりも、1950年代のニューヨーク裏社会の雰囲気描写に重きを置いた結果なのかもしれず、これはこれで悪くないのかもしれない。

 

淪落の人
半身不随となった男性と、彼を世話する住み込みのフィリピン人メイドを描いた香港映画。男性とメイドの女性は、最初は隔たった立場にいるけれど、お互いの苦しみや夢を知り、次第に人間同士としていたわり合うようになる。二人の関係性の細やかな描写がしみじみ胸を打った。お目当てだったアンソニー・ウォンさんも凄くよかった。

 

エクストリーム・ジョブ
韓国で大ヒットしたという警察もののドタバタコメディ。脱サラを考える人がフライドチキン屋を始めるというルートは韓国で一時流行ったらしいけど(テレ東の経済番組調べ)、軌道に乗せるのはなかなか難しいらしく、捜査のため偽装で始めたフライドチキン屋を大繁盛させてしまうなんてどんだけ才能があったのか(笑)。しかし、クライマックスで大立ち回りを見せるこのチームがどうしてあんなにポンコツ扱いされていたのだろう。いろいろ謎だけど、面白いからまぁいいや。

 

イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり
19世紀イギリスの気象学者ジェームズ・グレーシャーが気球で高度11277mまで到達したという史実を基にした一編。酸素もほとんど無くマイナス何十度にも達する世界……これがどんなに無謀なことかこの時に分かったから、この高度の記録は未だに破られていないのだろう。相方の操縦士が女性というのは創作らしいし(モデルになった人はいるらしいが)、ほとんどが気球の上の二人のやり取りだけなので若干の単調さは否めないけれど、気球には個人的にどうしてもロマンを感じてしまうので少しおまけ。