たそがれシネマ

最近見た映画など。

最近見た映画 (2019/07/15版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

海獣の子供
五十嵐大介さんの著名なコミックを原作とするSTUDIO4℃制作のアニメーション作品。“分かったか”どうかと言われると心許ないが、細けぇこたぁいいんだよ!この映画だけは是非映画館で体験するべき。アニメならではの圧倒的な表現の美しさを目撃し、米津玄師先生の神々しいテーマソングに身を委ね、ただどうしようもなく打ちのめされるべき。

 

氷上の王、ジョン・カリー
フィギュアスケートにバレエなどの要素を取り入れ芸術の域に高めたとされるインスブルック・オリンピックの金メダリスト、ジョン・カリーのドキュメンタリー。ジャンプの難易度などは比較にならないものの、スケーティングの美しさや演目の面白さはきっと今でも充分通用するレベル。けれど氷上で常に孤独だったという彼に、氷上での愛を謳った某アニメをどうしても思い出して涙せざるを得なかった。

 

凪待ち
白石和彌監督の最新作。自らの中の嵐に翻弄され、手をつけてはいけないお金まで使い込んでしまうギャンブル中毒者に、のめり込んだら夢中になってしまう危うさをどこかに秘めた香取慎吾さんがピタリと嵌まる。今までも決して嫌いじゃなかったけれど、【黄泉がえり】で草彅剛さん、【十三人の刺客】で稲垣吾郎さんが刺さったように、この映画で初めてここまで香取慎吾さんに感電したような気がする。

 

長いお別れ
【湯を沸かすほどの熱い愛】の中野量太監督の最新作。離れた場所で暮らしながらそれぞれの人生に思い悩む姉妹が、父親の認知症を知らされる。山崎努さん、竹内結子さん、蒼井優さんの演技の説得力が半端なく、父親に自然体で寄り添う母親役の松原智恵子さんの可愛らしさも素晴らしい。中野監督は、観察力さえあれば今の時代でも家族映画は充分可能なのだという可能性を感じさせてくれる。

 

新聞記者
東京新聞の望月衣塑子記者の手記を“原案”に、新大学設立にまつわる陰謀を取材する記者と、ある事実に翻弄される若手官僚を描く。今のこの時によくこの映画が撮れたと思うが(そして松坂桃李さんを始めとする役者の皆さんはよくぞ出演してくれたと思うが)、現政権の独裁体制が進めば、そのうちこんな映画を撮ることも、SNSでつぶやくこともできなくなるんじゃないのかな……。国民生活を根本的に破壊しつつある元凶を漫然と黙認する人達の考えることは私にはよく分からない。

 

泣くな赤鬼
重松清さんの短編を原作にした、高校野球部の監督と、若くして不治の病に冒された元教え子の物語。自分の型に嵌めることしか考えていない体育会系のおっさん(人類の敵)と精神的に少し弱さのあった教え子は残念な化学反応を起こしてしまうが、年月を経て再会しお互いを分かり合うことができた二人に泣かされてしまった。堤真一さんも柳楽優弥さんもあまりにも上手すぎてずるいよ。

 

旅のおわり世界のはじまり
ウズベキスタンを舞台にした黒沢清監督の新作。監督らしからぬ開放的な雰囲気を感じるのはロケ地の力か。ある中堅女性タレントが、異境の地で内心自分のキャリアに悩みながら黙々と仕事に取り組む姿が描かれているが、前田敦子さん一人を中心に据えて映画を成立させることができる、その独特の求心力に改めて驚かされた。

 

町田くんの世界
少女マンガを原作にした石井裕也監督の最新作。どんな人でも分け隔てなく愛せるが故に、ある人を特別に好きになる感情を処理しきれない町田くん。結果、一番大切にするべき人を悲しませているその鈍感さにちょーっとイガイガしちゃったな。でも、ほぼ演技経験がなかったという主演二人の体当たりの演技がそのまま、青春のなりふり構わない一途さに変換されていて、その熱量が何だか心に残ってる。

 

ウィーアーリトルゾンビーズ
両親を亡くした子供達が、バンドを結成して人気を得る中で、それぞれの境遇と心理的な折り合いをつけていく。残酷な世界をドライでポップに描くタッチには、CMディレクター出身の中島哲也監督に通じる表現の強さを感じたが、長久允監督が現役の電通社員で、本作をマーケティング段階から手掛けたと聞いて思案中。監督の真価を見極めるには、これから何作か拝見させて戴きたい。

 

誰もがそれを知っている
久しぶりにスペインに帰郷した女性の娘が誘拐され、その行方を探すうち、長年公然の秘密であった事実が明らかになっていく。イラン出身のアスガー・ファルハディ監督が、ペネロペ・クルスハビエル・バルデム夫妻を迎えて撮った新作。単なるサスペンスの域を超えた細やかな人間描写に監督の真骨頂が感じられる。

 

今日も嫌がらせ弁当
原案は、反抗期の娘のために3年間作り続けたキャラ弁を記録したブログ本。お話はほぼドラマチックな要素で修飾されたフィクションなんだろうけれど、篠原涼子さんが発生させる磁場は全てを包み込み、見終わった後には何か納得させられて満足しているから不思議だ。芳根京子さんのあまりの可愛さにもびっくりしてしまった。

 

きみと、波にのれたら
恋人を亡くしたサーファーの女性を描いた湯浅政明監督の新作アニメ。主人公達のバカップル寸前なラブラブぶりに一瞬気が遠くなりかけたけれど、ヒロインが悲しみから立ち直り自分の道を歩き始めるまでが描かれているので、案外爽やかな印象が残った。千葉の各地がロケハンされているのは(距離感は滅茶苦茶だけど)チバケンミンとして嬉しいな。

 

さよならくちびる
ある女性デュオの成功と終焉 (と更なる何か)の軌跡を描いた塩田明彦監督作品。小松菜奈さんと門脇麦さんの二人にはやはり強烈な存在感があるけれど、若い皆さんが半径5m以内の内輪でわちゃわちゃする世界に興味が全く持てないというか、ほとんどついていけなかった……。もうこれは完全に自分が老化してるだけ。本当にどうもすいません。

 

ザ・ファブル
青年コミックを原作にした岡田准一さん主演のアクション映画。主人公の突拍子もないギャグ的行動が時折インサートされるのは、原作の二次元の世界では成立しても、三次元ではどうも違和感が。後半のアクションは確かに見応えがあったけど、何かこう、岡田准一の無駄遣い感が否めないような気がする。

 

ハウス・ジャック・ビルト
ラース・フォン・トリアー監督が描く連続殺人犯の物語。マット・ディロン様は全キャリアの中でもトップクラスかもしれないような名演を見せ、インパクトは随一だけど、例によって人にお薦めするのは難しい。多くの人が不快に感じるようなストーリーを作りたがるのは、既に監督の習い性というか、一種の病のようなものだから。ともあれ、グレン・グールド先生とデヴィッド・ボウイ先生には謝っておいた方がいいんじゃないだろうか。

 

 

最近見た映画 (2019/06/10版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

主戦場
第二次世界大戦中の日本軍の従軍慰安婦問題を巡る様々な人々の言説を検証したドキュメンタリー。論点がよく整理されており、自分じゃこうは作れないと、ミキ・デザキ監督の手腕にとても感心した。1点付け加えるなら時間軸の話。昔、大学でレポートを書くために読んだいくつかの資料によると、初期には確かにプロのセックスワーカーが高給で集められ、待遇も良かったが、戦火の拡大によって数が全然足りなくなったため、占領地の素人の女性が詐欺などのかなり強引な手段で掻き集められるようになり、劣悪な環境下で意に反する仕事を強制的にさせられたということだ。

 

プロメア
天元突破グレンラガン』『キルラキル』などの今石洋之監督によるオリジナル劇場版アニメ作品。劇団☆新感線中島かずき氏とはそれらの作品でも組んでいたとのこと。ワクワクと胸躍る濃い味付けのストーリーに、ポップで変幻自在な動線と色使いが素晴らしい!見どころのかたまりで満足感たっぷりだった。

 

パパは奮闘中!
ママがいきなり失踪し、最初は周囲の女性陣に頼っていたパパも、やがてワンオペ育児の苦難に直面せざるを得なくなる……。ロマン・デュリス演じるパパが時々“やらかしてしまう”部分に、こういう男性の“分かってなさ”は世の東西を問わないのだなぁと思ったが、彼が徐々に現実を受け入れて自ら家庭に向き合い始めるところに救いを感じた。

 

バイス
あまり評価が高くはなかったブッシュ・ジュニアの影で副大統領として暗躍したディック・チェイニーを描いた物語。一体誰のための政治なのか。今のアメリカの政治の強引な手法はこの時代に種が撒かれていた、という指摘に目の前が暗くなり、今の日本の政治の現状はおそらくもっと酷いのだなぁと思って、更に気持ちが暗くなる。

 

愛がなんだ
インディーズ作品で実力を磨いてきた今泉力哉監督が、角田光代氏の原作を映画化。自分を都合よく利用するだけのクソ男の関心を繋ぎ止めたいがため、そいつの理不尽な要求を呑みつづけるメンタリティなんて分かりたくもないけれど、そんなどうしようもない執着の在り様を丸ごと描き切っているのが凄まじかった。こんな難役を演じきった岸井ゆきのさんには、どれだけ賛辞を送っても足りる気がしない。

 

RBG 最強の85才
アメリカで現在最高齢の最高裁判所判事、RBGことルース・ベイダー・ギンズバーグ氏の歩みを描いたドキュメンタリー。アメリカで2番目の女性最高裁判事となり、女性が置かれてきた理不尽な立場の是正などのため一歩一歩戦ってきた姿には胸を打たれる。こういう素晴らしいロールモデルが存在するところはちょっとうらやましいような。

 

ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス
フレデリック・ワイズマン監督が、ニューヨーク公共図書館の様々な側面を余すところなく描く。図書館自体が、様々な形の知の受け皿として存在しようとする確固たる意志を持った生き物のよう。ニューヨークが世界有数の文化都市であり続ける秘密がこの図書館にあるのかもしれない。

 

嵐電
鈴木卓爾監督が京都を舞台にして描いた3組の男女の物語。日常の地続きにさりげなく異世界が出現するような感覚が、【ゾンからのメッセージ】などにも通底するようでもあり、京都という独特の妖しい空間をより魅力的に演出しているように思う。

 

バースデー・ワンダーランド
原恵一監督による児童文学のアニメ化作品で、少女(とその変わり者の叔母さん)が異世界の国を旅する物語。しかし、消極的なヒロインの成長物語ではなく、ヒロインと同行した叔母さんにばかり興味が行ってしまった。あのお気楽さは、実は海千山千の人生経験に裏打ちされてそう。経験豊富でメンタルがタフな妙齢の女性がドラマツルギーに取り入れられるのはいい傾向だと思う。

 

僕たちは希望という名の列車に乗った
1956年のハンガリー動乱の際、授業中に犠牲者に黙祷を捧げたため当局からの弾圧を受けることになった東ベルリンの高校生達の実話の映画化。ちなみに、ベルリンの壁が建設されたのはこの5年後のこと。東欧諸国での共産主義の圧政も遠い昔になりつつある今日この頃、そうした時代の過ちを記憶に留める努力も意義あることに違いない。

 

魂のゆくえ
タクシードライバー】の脚本家などとしても名高いポール・シュレイダー監督が描くある牧師の苦悩。もはや集金マシンでしかなくなった宗教システムと、目の前の人間を現実的に救うこととの狭間で、自らの無力さに打ちひしがれる牧師の姿が生々しい。ラストシーンが唐突に映ったが、あれこそが彼に訪れた救済であり、神の恩寵なのではないかと思った。

 

12か月の未来図
ひょんなことから、様々なバックグラウンドを持つ子供達が通う郊外の教育困難校に赴任することになった、元エリート校のベテラン教諭の奮闘ぶりを描く。最近、教育(かワイン)がテーマのフランス映画を多く見ている気がする。日本人バイヤーの好みもあるだろうが、実際フランス社会がそういうテーマに関心が高く、そうした映画が多く作られているのかもしれない。

 

荒野にて
父親を亡くした二人暮らしの父子家庭の息子が、殺処分が決まっていた馬と共に荒野を彷徨う物語。何も荒野を行かなくても、自分を保護してくれる叔母さんに会う方法は何かあったんじゃなかろうか。それでも、思い込んだらそのようにしか行けない頑なさが若いってことであり、いかなる帰結になろうとも、それはとても貴重で大切なものであるように思えた。

 

希望の灯り
旧東ドイツライプツィヒ郊外の巨大スーパーのバックヤードで働く人々の物語。若者の行き場や家庭内暴力や時代の変遷など、人生に降りかかる様々な問題から決して目を背けている訳ではないのに、まるで夢の中のように温かくて美しい世界として映し出されているのが不思議だった。

 

アレッポ 最後の男たち
政府軍の空爆を受けて壊滅したシリアのアレッポで、市民の救助のため最後まで奮闘していた民間救助隊の姿を描いたドキュメンタリー。自国民に銃を向け何十万人もの人を殺し、何千万人もの人を難民にしたアサド大統領は完全に狂っている。人なくして国だけが存在することなど、どうしたって出来はしないのに。

 

柄本家のゴドー
演劇ユニットを組む柄本佑柄本時生兄弟が、2017年に父親の柄本明氏を演出に迎えて行った『ゴドーを待ちながら』の公演の稽古風景。お父さん、何て生き生きと楽しそうなこと!柄本兄弟は映像の仕事の方が主という印象があるけれど、ご両親のルーツである演劇の舞台は二人の根幹に大きく存在しているんだなぁと思った。

 

イメージの本
ジャン=リュック・ゴダール監督が、現代の暴力・戦争・不和などをテーマに描いた映像詩。どぎついまでの極彩色が印象的。この世を悲観するご老体が、心にうつりゆくよしなしごとを徒然なるままに描き出そうとするエッセイみたいなものに思えたが、浮かんだイメージを可視化して他人に提示するというのはやはり選ばれた才能の持ち主にしかできないことだよな、と今更すぎることを改めて思った。

 

ドント・ウォーリー
ロビン・ウィリアムズ氏からガス・ヴァン・サント監督への持ち込み企画だったという、半身不随の風刺漫画家ジョン・キャラハンの物語。あの状況では人生投げやりになるのも無理ないが、アルコールに溺れているだけでは悲しみが永遠に再生産され続けるだけ。自分の人生の主導権を自分が取るって大事。肝に銘じたい。

 

ハイ・ライフ
【ネネットとボニ】【ガーゴイル】の大ベテランのクレール・ドゥニ監督、何故、宇宙船の船内を舞台にしたSFを手掛けたのだろう……。単に密閉空間というセッティングが必要だっただけなんじゃないだろうか。と考えてふと、ドゥニ監督っていつも人間の感情の牢獄について描こうとしているのかもしれない、と思った。

 

 

ご無沙汰していて申し訳ございません。最近、本業の他にセカンドワークを始めてみたのですが、慣れないことが多くバタバタしておりました。どんな仕事でも、やはりその仕事ならではの知識や経験に裏打ちされているものだよなぁと改めて噛み締めつつ、こういう新鮮な感覚は久々で楽しいなぁと、日々思ったりもしています。

 

 

最近見た映画 (2019/04/15版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

ROMA/ローマ
タイトルはメキシコシティのローマ地区のこと。ミシュテカ族のある女性と、彼女がメイドとして働く一家の物語は、アルフォンソ・キュアロン監督自身の幼少期の体験を基に創作されたもので、背景には1970年頃の政情不安定だったメキシコが映り込んでいる。しかし何より印象に残ったのは、女性達の逞しさと友情と共闘、そして男は頭からっぽの愚か者……ってところだったなぁ。

 

ブラック・クランズマン
白人ばかりの警察署内で実績を上げるためKKKに潜入捜査した黒人刑事のノンフィクションをスパイク・リー監督が映画化。公民権運動も鎮静化しつつあった1970年代半ばの時代の雰囲気や、白人の中でもまた特殊な立場にあるユダヤ人の刑事の描き方など見どころが多いが、KKKの幹部ですらどこかユーモラスに表現されているところに、昔のバリバリに尖っていた頃の監督では考えられなかったよな~と不思議な感慨があった。

 

運び屋
クリント・イーストウッド監督の最新作で、大量のドラックを車で運ぶ仕事を成り行きで請け負ってしまった老齢の男を自ら演じる。(あれ?俳優引退するとか言ってなかった?)偏屈ゆえに家族からも見放された男が、徐々に自分の人生と折り合いを付けていくストーリー展開が見事。しかし、お金って使おうと思えばいくらでも必要になるんだよなーという人生あるあるにしみじみしてしまった。

 

ワイルドツアー
きみの鳥はうたえる】の三宅唱監督が山口情報芸術センターYCAM)と協動して制作した作品。地元の中高生達とのコラボで生み出されたキャラクターの瑞々しさと生々しさと奇をてらわない美しさに、映画が生まれ出るスリリングな瞬間を見た気がした。山口市って随分面白い取り組みをしているんだなぁと感心した。

 

岬の兄妹
ポン・ジュノ監督や山下敦弘監督の助監督経験を持つ片山慎三監督の長編デビュー作。兄が自閉症の妹に売春をさせる話と聞いて見たくなさ度MAXだったが、そこに至る状況や心情が丁寧に描かれていて重厚な説得力があった。妹さんに悲愴さがないのが救いだが、それを救いと感じていいものか……とにかく避妊具の使い方だけは真っ先に教えてあげて欲しい。

 

月夜釜合戦
再開発が進められ無毒化されようとしている大阪の釜ヶ崎。その場所に息づき、これからもそこで生きつづけようとする人々に対する思いが込められた一編。ここを追い出された人達はどこへ行けと言うのだろう。ちなみに釜ヶ崎大阪市西成区北東部の一部の地域のことで、メディアは同地区をあいりん地区と呼ぶのだとのこと。

 

たちあがる女
【馬々と人間たち】のベネディクト・エルリングソン監督の最新作。アイスランドの広大な大地に巨大な鉄塔と送電線は確かに似つかわしくないけれど、だからって環境テロに走っていいものか……。そんな諸々を内包しながら営まれる主人公の女性の人生に、部分的には共感してしまう。時々生バンドが登場してその場でBGMを演奏するのがクセになる面白さ。

 

ぼくの好きな先生
前田哲監督が、教鞭を取っていた山形県東北芸術工科大学で同僚だったアーティスト、瀬島匠氏に取材したドキュメンタリー。この瀬島さんがとにかく愉快な人で、1人のアーティストの密着ドキュメンタリーとしてシンプルに面白いのだが、彼がアーティストを続ける理由を語った時、世にある総てのアート作品がより立体的に見えてくる気がした。

 

新宿タイガー
新宿を歩いていると稀に遭遇する、虎のお面を被ったど派手な色合いのおじさんがタイガーさん。職業は新聞配達員。他人とは違う生き方を選んだ一人の人のドキュメンタリーとしても、新宿という街の歴史や文化の一側面のドキュメンタリーとしても面白い。どうぞこれからも末長く元気に新宿の街を闊歩して下さい!

 

グリーンブック
ファレリー兄弟のお兄さんのピーター・ファレリー監督作。舞台は1960年代で、アメリカ南部を演奏旅行しようとした有名黒人ミュージシャンが白人の用心棒兼ドライバーを雇う。これ単体は心温まる話でも、【ドライビング Miss デイジー】の逆転版という風評は言い得て妙。スパイク・リー監督がホワイトウォッシュだと怒っていたと聞いて、成程と思う。

 

家族のレシピ
日本とシンガポールの外交関係樹立50周年を記念する作品だとのことだが、こんなに地味に公開してていいのかな……。シンガポール人の母のルーツを探すうちにバクテーという料理とラーメンを結びつけることを思いつく、という展開はいささか拙速に感じたけれど、過去の禍根も見据えつつ未来に目を向けるという姿勢はいいんじゃないだろうか。

 

セメントの記憶
ベイルート超高層ビルの劣悪な建設現場で働くシリア難民青年の日常に、過去の記憶が入り混じる。ジアード・クルスーム監督は元シリア政府軍兵士で、自国民に銃を向けるのを拒否してレバノンに亡命し、本作に着手したのだそうだ。爆撃で瓦礫に埋もれた時の“セメントの味”(原題)の苦さの記憶が少しでも薄れる日は、いつかやって来るのだろうか。

 

漂うがごとく
ベトナム映画の特集上映の1本で、満たされない思いを抱えて彷徨う女性を描く。雰囲気先行のきらいはあるけれど、湿度の高さを思わせる画面に映り込む、現在のハノイの市民生活の断片に心魅かれる。今のベトナム映画の勢いが感じられる気がする1本。

 

ベトナムを懐う(おもう)
こちらもベトナム映画の特集上映の1本で、故国を離れニューヨークで暮らす3世代のベトナム人の思いが描かれる。少し恣意的なところもあるけれど、ボートピープルだった息子に招かれて渡米した祖父と、アメリカで生まれ育った孫娘の埋められない溝の描写には、実際これに近い状況も存在しているのだろうかと思わされた。

 

 

今回は他にこんな映画も見ました。

 

きばいやんせ!私】は、【百円の恋】の足立紳脚本・武正晴監督コンビ作で、不倫で左遷されたやる気ゼロの女子アナが、昔住んでいた町の祭りを再生させる物語。しかし私は個人的に、男性が終始尊大な態度で飲んだくれ、女性はひたすら料理とお酌だけをさせられる田舎のお祭りの光景にかなりトラウマがありまして……。女性は外部から来た特別枠の人しか参加することができず、男性だけがあーだこーだ言ってるのを見ていると、あの人達に妻や娘や母や孫娘はおらんのか?大変申し訳ないけれどそういう方向性には将来性はないんじゃないの?と思ってしまいました。

まく子】は、西加奈子さん原作の不思議なボーイ・ミーツ・ガールの物語。この年代の子供達だけが持つ輝きはいくら見てても飽きないけれど、温泉街や宇宙人(!)というセッティングとか、初恋や大人の世界への反発や成長とかいったいろいろと魅力的なモチーフがただ並べられているだけで、うまく化学反応を起こしていない様子でもったいないなぁと感じました。女にだらしないけれど主人公のことは気に掛けているお父さんを演じた草彅剛さんは大変良かったです。「新しい地図」の皆様のポテンシャルはやはり素晴らしい。映画関係者の皆さんは今こそ仕事を依頼しない手は無いんじゃないでしょうか。

 

 

最近見た映画 (2019/03/12版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

洗骨
ガレッジセールのゴリさんこと照屋年之監督による、沖縄の離島に残る珍しい埋葬の風習をモチーフにした物語。軽すぎないけど重すぎない人生の機微の描き方と、クスリと笑える合いの手のようなシーンのバランスが絶妙。監督のお笑い芸人としての感覚がいい意味で活きていると思う。

 

ゴッズ・オウン・カントリー
イギリスの寒々しい田舎の閉塞的な農場で暮らす男性が、とある男性と出会って見つけた愛と希望。自分の人生を変えてくれるきっかけが向こうから訪れてくれるなんてそうそうないラッキーなことなんだから、うっかり××なんてしてないで大事にしなさいよー!と思った。

 

バーニング
村上春樹氏の原作を【ペパーミント・キャンディー】【オアシス】のイ・チャンドン監督が映画化。筋立ては確かに村上春樹的なのに、見事に韓国映画に換骨奪胎されている。自分が韓国映画と問われてパッと思い浮かぶのは正にこんな感じだなぁ、と懐かしくなった。

 

あの日のオルガン
第二次大戦中に東京から未就学児を集団疎開させた保母さん達の実話の映画化。平松恵美子監督は近年の山田洋次監督作品には欠かせない右腕的存在。登場人物一人一人の心の動きを丁寧かつ自然に描こうとする作風が好きだなぁと思う。

 

女王陛下のお気に入り
ギリシャ出身の俊英ヨルゴス・ランティモス監督が描くイギリスの宮廷絵巻。名誉革命ウィリアム3世の次に即位したのがアン女王。歴史って割と個人的なネチネチした人間関係で動くけど、イギリス王室は特にその印象が強いような気がする。

 

半世界
阪本順治監督が描くアラフォー男性達の逡巡。稲垣吾郎さんが演じた炭焼き職人の役は、渋川清彦さんがやった方が似合うんじゃないかと一瞬思ったけど、よくよく考えるとそれでは既視感がありすぎ。長谷川博己さんの演じる元自衛隊員も、最初感じた違和感が段々面白くなってくる。そんな新鮮さに不思議な魅力がある。

 

金子文子と朴烈(パクヨル)
関東大震災後、朝鮮人虐殺の言い訳として不穏分子に仕立てられ大逆罪に問われた朝鮮人男性と日本人女性の物語。アナーキストの話と言うよりは、理不尽な状況に真正面から向き合おうとした者達の鮮烈なラブストーリーに映る。金子文子さんは、小さな頃に朝鮮在住の親戚に引き取られて過酷な労働をさせられたそうで、日本在住経験のあるチェ・ヒソさんが演じるのはぴったりかもしれない。

 

ねことじいちゃん
NHK『世界ネコ歩き』で有名な動物写真家・岩合光昭氏のドキュメンタリー……ではなく、ネコ漫画の実写映画化。主演の立川志の輔さんのいい味が出まくりの味わい深い一編だった。あのような離島で若い人が診療所やらカフェやらを運営して採算的にやっていけるのか、という疑問点は置いといて。

 

ナポリの隣人
偏屈なじいさんが、隣家に越してきた一家の女性と心を通わせるも、予期せぬ悲劇が。その時、じいさんとの関係が冷え切っていた娘はどうするか。娘と親との関係を描く映画には今でも心を刺激されてしまうんだなぁ。それはイタリア映画でもどこの国の映画でも変わりなく。

 

赤い雪 RED SNOW
本作が長編デビューになる甲斐さやか監督作。静かに降り続ける雪が心に残るが、外側から観察を続けるようなクールな描き方ゆえ、誰の視点にも寄り添えない気がする。それは欠点ではないだろうが、その分、訴求力が落ちることは確かだ。

 

ナディアの誓い
ノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドさんの活動を描いたドキュメンタリー。彼女は、家族や同じような立場の人々に救いの手が届くことを祈りながら、ISから受けた死ぬより辛いかもしれない過酷な体験を人前で話し続けた。そうして自ら証言者になることで実際にたくさんのことを動かしたのは本当に凄い。その勇気に涙が出そうになる。

 

あなたはまだ帰ってこない
ナチス占領下のパリで夫が強制収容所から帰るのを待ち続けた体験を綴ったマルグリット・デュラスの『苦悩』の映画化。マルグリット・デュラス関連の作品を見れば見るほど、彼女がどういう人なのか、フランス人の言う愛って何なのか、どんどん分からなくなってくるような……。

 

アリータ:バトル・エンジェル
木城ゆきと氏のコミックス『銃夢』の映画化というジェームズ・キャメロン監督念願の企画を、ロバート・ロドリゲス監督が実現。CGと実写の見事な融合で、ストーリーも普通に面白かったけど、この話のどの辺りがジェームズ・キャメロン監督の琴線に触れたのか、監督ご自身に聞いてみたいところ。

 

山(モンテ)
イラン出身のアミール・ナデリ監督による寓話的な物語。一家は虐げられた環境を変えるため山を穿ち続ける。ラストシーンの鮮やかな色彩が総てを物語っている。

 

 

【洗骨】の照屋年之監督ことガレッジセールのゴリさんは、祖父が照屋林助さん、いとこが照屋林賢さんという、知ってる人にとっては超メジャーな芸能一家のご出身。照屋林賢さんはかの『りんけんバンド』のリーダーで、その父の照屋林助さんは三線(さんしん)を使った漫談で第二次世界大戦後の沖縄のエンターテイメント界を牽引した人物。1990年前後の沖縄ブームの頃に【ウンタマギルー】や【パイナップル・ツアーズ】などの映画で軽妙な弾き語りを披露していた姿が思い出されます。「銭雨(じんあみ)ど~い、銭雨どい、銭の雨降る暮らさりる、はい!」と今でもたまに口ずさんでしまうことがありますもんね。芸能の力って凄いです。

 

 

ところで、アルフォンソ・キュアロン監督の【ROMA/ローマ】が急遽劇場公開になりましたね。興行の方法はさておき、とりあえず映画館で見ることができてよかった!感想は来月に回しますが、この映画はいろんな意味で後々の試金石になりそうですね。

 

 

2019/03/19追記:

この記事を投稿した12日の夜はまだ比較的平和だった……。

ピエール瀧さんの件は衝撃的すぎて一言で言い表せません。垂れ流し状態になってしまう地上波では放送中止や撮り流し等の措置はやむを得ないでしょうが、各自が選べる音源や過去の出演作などの配信停止や回収などはやり過ぎだと思います。そして、氏に最も必要なのは、マスコミのバッシングではなく依存症の治療だと思われます。

【翔んで埼玉】の記事は当面削除します。場合によっては更なるボイコットも考えています。

 

 

最近見た映画 (2019/02/11版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

バジュランギおじさんと、小さな迷子
口がきけなくなったパキスタンの山村の少女がインドのイスラム寺院に願掛けに行き、親とはぐれて迷子になるも、インド人青年に助けられて何とか帰郷を果たす、という物語。とにかく女の子がめっさ可愛い!そして青年はバカがつくほど馬鹿正直……でもだからこそ、その愚直な無私の優しさに心打たれる。ところで、本作が大ヒットするくらいだから、政府間の思惑とは裏腹に、インドの多くの市井の人々はパキスタンと仲良くやっていきたいと願ってるんじゃないすかね。

 

ホイットニー オールウェイズ・ラヴ・ユー
2012年に亡くなったホイットニー・ヒューストンのドキュメンタリー。大ファンという訳ではなかったけれど世代的にはドンピシャで。全盛期の彼女の美貌と才能は本当に輝くばかりだったのだなぁと改めて思い出し、それだけに、麻薬に蝕まれた彼女の声がガッサガサになっていくのが本当に辛かった。彼女がどこで道を間違えてしまったのかと言っても詮ない。今はただ彼女の魂が安らかであるように祈りたい。

 

この道
北原白秋山田耕筰と出会って名曲の数々を世に遺すまで。北原白秋という人は、歌のイメージとは裏腹の無茶苦茶な人だったんだなぁ。でも、ただ品行方正な人よりも、自らの人格のほころびに苦悩しているような人の方が、人間の真実をより照らし出すことができるのかもしれない。ところで、「赤とんぼ」の作詞は三木露風でしたね……勘違いしてましたすいません!

 

夜明け
是枝裕和監督と西川美和監督が立ち上げた制作者集団「分福」の新人・広瀬奈々子監督のオリジナル脚本作。過去に取り返しのつかない過ちを犯した青年と初老の男性の心情……には個人的には寄り添いきれなかったかもしれないけれど、彼等を演じる柳楽優弥さんと小林薫さんの存在感は圧巻だった。

 

ヒューマン・フロー 大地漂流
中国にいられなくなり現在ではベルリンで教鞭を取っているというアイ・ウェイウェイ氏(基本アーティストなんだけど肩書きが多すぎて分からん)が世界中の難民キャンプを訪れるドキュメンタリー。1つ1つは聞いたことがあっても、これだけの数の難民キャンプを実際に巡ったことがある人は少ないのでは。本作の製作時点で世界中の難民の人口は約6500万人。難民問題には人類の病理が凝縮されている、と改めて思う。

 

マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!
60年代ロンドンのユース・カルチャーの勃興と衰退を、自らも渦中にいたマイケル・ケインがプロデューサーとして案内する。ケイン氏の言う通り、イギリスの歴史の中では特に、労働者階級の若者達が中心となって文化を創造するというのは画期的な出来事だったのかもしれない。

 

ヴィクトリア女王 最期の秘密
イギリスのヴィクトリア女王の最晩年にインド人青年の侍従がいたという、最近明らかになった実話を元にしたスティーヴン・フリアーズ監督作。デイム・ジュディ・デンチの圧倒的な女王様感は揺るぎない。しかし、コメディ・タッチと言うけれど、次期国王のエドワード7世らがこの事実を闇に葬ったという展開は割と笑えないぞ。

 

愛と銃弾
ナポリを舞台にしたノワール・アクション?ラブ・ストーリー?いやいや……ミュージカル !? ごった煮の摩訶不思議なテイストのイタリア映画。終わってみて残った怒濤のようなB級テイストもこの映画の愛すべき個性、なんだろうなきっと。

 

 

新井浩文さんの件で、頭の中がぐしゃぐしゃになったままです。芸能マスコミの言うことは何を信用していいのかさっぱり分からないので、当面、今後の捜査の成り行きを見守りたいと思います。

 

2018年の個人的ベスト30映画

 

2018年の個人的ベスト映画です。

 

1.【万引き家族
2.【ラブレス】
3.【女は二度決断する
4.【日日是好日(にちにちこれこうじつ)】
5.【パンク侍、斬られて候
6.【菊とギロチン
7.【来る】
8.【ギャングース
9.【Vision
10.【犬ヶ島
11.【レディ・プレイヤー1
12.【シェイプ・オブ・ウォーター
13.【空飛ぶタイヤ
14.【孤狼の血
15.【カメラを止めるな!
16.【止められるか、俺たちを
17.【スリー・ビルボード
18.【判決、ふたつの希望
19.【こんな夜更けにバナナかよ】
20.【モリのいる場所
21.【人魚の眠る家
22.【ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男】
23.【ぼくの名前はズッキーニ
24.【いぬやしき
25.【鈴木家の嘘】
26.【犬猿
27.【ライオンは今夜死ぬ
28.【星くず兄弟の新たな伝説
29.【村田朋泰特集 夢の記憶装置】
30.【あみこ】

 

(ドキュメンタリー大賞)
【ニッポン国VS泉南石綿村】【ジェイン・ジェイコブス ニューヨーク都市計画革命】【愛と法

(ドキュメンタリー音楽大賞)
ピアソラ 永遠のリベルタンゴ

(ドキュメンタリー次点)
【ザ・ビッグハウス】【北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ】【顔たち、ところどころ

 

よろしければこちらの元データもどうぞ。

 

思うところあって、ブログのタイトルを変更致しました。人生がとっくに折り返し地点を通過して黄昏に向かいつつある今日この頃、映画の見え方も若い人と同じではないだろう、という思いは何年か前からあったのですが、その思いで前のタイトルを付けた時にはいくら何でもちょっと自虐モードが過ぎていたかもしれないな、ということでこのようなタイトルにしてみました。いやまぁ、書いてるのがおばさんだから“おばさん”で間違ってないし、いいんだけどね(笑)。

ついでに、今年からはツイッターとも連動させてみようということで、少し前から始めていた映画アカを若干改装してリンクさせてみました。(アカウントはこちら。)まぁ、しゃかりきになることもなく、マイペースにぼちぼち呟いていこうかなと思います。今年もどうぞよろしくお願い致します。

 

最近見た映画 (2018/12/31版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

来る
人間のおぞましい部分をつけ狙う“あれ”に取り憑かれる若夫婦、彼等を手助けしようとするルポライター霊媒師の血を引くキャバクラ嬢、その姉の日本最強の霊媒師……。オカルトホラーと言うより心理的な気持ち悪さがじわじわ迫る中島哲也監督の最新作。これまでのイメージを覆すいずれ劣らぬ難役に挑む俳優陣が素晴らしすぎる。

 

ギャングース
悪い奴等だけを相手にする少年院出身の三人組の窃盗団を主人公にした鈴木大介さん原作の漫画を、入江悠監督が映画化。鈴木さんと入江監督という組み合わせはベストマッチで、今の日本社会の暗部を取り込んだピカレスクをエンターテイメントとして見事に成立させているのが凄い。

 

ピアソラ 永遠のリベルタンゴ
前回の記事参照。アストル・ピアソラの音楽は宇宙一かっこいい!

 

人魚の眠る家
最新技術で生きながらえる脳死した娘の母親が次第に常軌を逸していき、周囲は翻弄される、という東野圭吾さんの原作小説を、堤幸彦監督が映画化。人が死ぬということには、残された人間がそれをどのように受容するかという過程も含まれているのだと改めて思い至る。

 

こんな夜更けにバナナかよ
24時間介助が必要な筋ジストロフィーの男性とボランティアの人々を描いたノンフィクション作品を前田哲監督が映画化。障害者の自立やボランティアの在り方といったテーマ、主演の大泉洋さんやヒロインの高畑充希さんなど見所が多いが、私はひたすら「三浦春馬さんていい役者さんになったな~」とそこぱかりに注目してしまっていた。ごめん洋さん。

 

鈴木家の嘘
引き籠もりの息子が自殺したことを意識不明から目覚めた母に言えなかったことから残された家族の嘘が始まった……。助監督経験が長い野尻克己監督の劇場長編デビュー作。監督自身の経験を基にしたというオリジナル脚本の、悲しいだけではない何とも言えないおかしみが味わい深い。

 

斬、
塚本晋也監督が初めて手掛ける時代劇……と言っても、結局のところ武器が日本刀になった【鉄男】なのではなかろうか。塚本監督は、どんな映画を創ってみても、人間の中に立ち現れる暴力的衝動というテーマに再度立ち帰る。そういうところが面白いと思う。

 

おかえり、ブルゴーニュへ
お久しぶりのセドリック・クラピッシュ監督が描く、ブルゴーニュ地方のワイナリーを引き継いだ3きょうだいの物語。別々の道を行くきょうだいが力を合わせようとそれぞれ心を砕く姿が印象的。そしてフランス映画界には“ワイナリーもの”が結構な本数作られているに違いないといよいよ確信する。

 

ボヘミアン・ラプソディ
クィーンの結成からバンドエイド参加に至るまでの軌跡を、フロントマンのフレディ・マーキュリーを中心に描く。クィーンの音楽の魅力を改めて世に知らしめた功績は大きいと思う、のだが、フレディの孤独を描く上で放埒な生活を送った時代をもっとがっつり描写する必要があったのではないかと考える。アメリカのレーティングの関係で難しかっただろうけど。

 

体操しようよ
定年退職後の男性がラジオ体操の会への参加を通じて人生をリセットする物語を、【ディアーディアー】の菊地健雄監督が描く。仕事一辺倒状態から少しずつ人間力を上げていく草刈正雄さんが何ともキュート。館山辺りの地理関係はほぼフィクションだけど、野島埼灯台がいっぱい映っているのは千葉県民として嬉しい。

 


偶然手に入れた銃に徐々に支配されていく男子大学生を描いた中村文則さんの小説を、【百円の恋】の武正晴監督が映画化。この役柄には村上虹郎さんのナイーブさが必要だった。銃を手にすると自分が強くなったように錯覚するのも、持ってるだけじゃ飽き足らなくなり理由をつけて撃ってみたくなるのも様々な映画で描かれてきたモチーフで、万国共通の現象なんだなーと思う。

 

葡萄畑に帰ろう
ジョージアグルジア)映画界の現役最長老エルダル・シェンゲラヤ監督による政治風刺を盛り込んだ人生賛歌。主人公はあまり誉められないこともする俗的な人間だし、よく考えると結構エグいエピソードも少なくないのに、ほのぼのとした印象が残るのが不思議。

 

宵闇真珠
ウォン・カーウァイ監督の撮影監督として著名なクリストファー・ドイルが共同監督を努める香港合作映画。微細なグレーの画面の芸術的な美しさを堪能するための雰囲気映画、といった趣きだが、「この漁村はもうない」という最後のセリフに、消えゆくかつての香港に対する哀切のようなものを感じてしまった。

 

生きてるだけで、愛。
躁鬱病で仕事もままならない女性と、仕事に行き詰まりを感じるゴシップ記者の男性の愛の形を描いた本谷有希子さんの小説の映画化。傷だらけのメンタルの女性を体当たりで演じる趣里さんの思い切りの良さと、今回は終始受けに回っている菅田将暉さんの演技の堅実さがいい。

 

セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!
宇宙に取り残された崩壊寸前のソ連の宇宙飛行士をアメリカのスペースシャトルが救出した、という実話を基に創作した物語。監督は、キューバの大学教授が無線を通じて宇宙飛行士と親しくなるという筋書きを通して、その時代のキューバに対するノスタルジーを描きたかったのだそうだ。

 

 

シアター・イメージフォーラムで開催中の『アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティブ』と『ジャン・ヴィゴ監督特集』が面白かったです。
アラン・ロブ=グリエ監督は、【去年、マリエンバードで】の脚本家としての業績を遺した以外に、映画監督としてこんなにも前衛を絵に描いたような作品を遺していた方だったのだと知らなくて猛省中です。前衛成分が高い作品としては【エデン、その後】【快楽の漸進的横滑り】などが特にお薦めです。
ジャン・ヴィゴ監督は、【アタラント号】は観たことがあったので、今回は【ニースについて】【競泳選手ジャン・タリス】【新学期操行ゼロ】の短編集を観ました。【アタラント号】もそうですが、モンタージュによる映像のリズム感が、今の時代でもまったく古びておらず、瑞々しく感じられるのが素晴らしい。このたった4作しか遺していない映画監督の名を冠した『ジャン・ヴィゴ賞』なる映画賞がフランスに今でも存在する理由がよく分かるような気がします。もし未見の方がいらっしゃったら、話の種に【アタラント号】だけでもご覧になってみてはいかがでしょうか。

 

それでは皆さん、よいお年を!