たそがれシネマ

最近見た映画など。

2021年に見て好きだった新作映画

 

2021年に映画館や配信等で見て好きだった新作映画です。

(※映画館や配信サイトで初公開されてから1年以内に見た映画は、個人的な都合上すべて新作としています。)

 

ものすごく好きだった映画(50音順)

浅草キッド
【Summer of 85】
【シン・エヴァンゲリオン劇場版:||】
【すばらしき世界】
【その手に触れるまで】
【騙し絵の牙】
【ドライブ・マイ・カー】
【ドント・ルック・アップ】
ノマドランド】
【羊飼いと風船】
【護られなかった者たちへ】

 

とても好きだった映画(50音順)

【茜色に焼かれる】
【明日の食卓】
【痛くない死に方】
【イン・ザ・ハイツ】
【大阪闇金
鬼滅の刃 無限列車編】
【空白】
孤狼の血 LEVEL2】
【サンドラの小さな家】
【ジェントルメン】
【唐人街探偵 東京MISSION】
【パブリック 図書館の奇跡】
【浜の朝日の嘘つきどもと】
【隔たる世界の2人】
【はちどり】
【ファーザー】
【ミナリ】
燃えよ剣
【ヤクザと家族 The Family】
【由宇子の天秤】
【私はいったい、何と闘っているのか】

 

以下、かなり好きだった映画わりと好きだった映画などはこちらに記載しています。

 

2020年に見て好きだった新作映画

 

2020年に映画館や配信等で見て好きだった新作映画です。

※映画館や配信サイトで公開されてから1年以内に見た映画はすべて新作としています。(その区分けに何の根拠もないのですが……。)

 

ものすごく好きだった映画

【海辺の映画館―キネマの玉手箱】
【パラサイト 半地下の家族】
【朝が来る】
【Mank/マンク】
【ザ・ファイブ・ブラッズ】
【his】
【AI崩壊】
【フォードvsフェラーリ

 

とても好きだった映画(50音順)

【アンダードッグ】
【糸】
【影裏(えいり)】
【おらおらでひとりいぐも】
【風の電話】
【グレース・オブ・ゴッド 告発の時】
【シカゴ7裁判】
ジョジョ・ラビット】
【スパイの妻】
【罪の声】
【TENET テネット】
【名もなき生涯】
【のぼる小寺さん】
【ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから】
【ラストレター】
【リチャード・ジュエル】
【Red】
【ロマンスドール】

 

以下、かなり好きだった映画わりと好きだった映画などはこちらに記載しています。

 

 

2020年は、今までと違い、映画は映画館ではなく自宅で見るのが中心になりました。このため、上のリストにも自宅で見た映画が多く含まれていますが、自宅で見た映画の感想は主にツイッターでつぶやいたりしていたので、このブログには載せていません。

今までの生活パターンが全く変わったので、今後、今の状況が終息したとしても、おそらく今までのような映画館通いはもうしない(というより出来ない)だろうと思います。なので、映画館で見た映画の感想を中心に書いていたこのブログをどうするのか、現在考え中です。

逆にツイッターはもう少しこまめにつぶやいていこうかなと思っているので、もしよろしければ、たまに覗いてみて戴けると幸いです。

 

最近映画館で見た映画 (2021/01/25版)

 

2020年の終盤に映画館で見た映画です。
(今更…という感じもありますが、一応切りのいいところまでまとめておきます。)

 

朝が来る
不妊治療でも子供を授からなかった夫婦と、産んだ子供を手放さざるを得なかった女子中学生。凡百の映画監督が描いたら単なるステレオタイプな事実の羅列で終わってしまいかねないこの物語がこんなにも心に突き刺さるのは、人物の感情の描写で物語を紡ぐ河瀨直美監督の独特の手腕によるもので、それは誰にも真似できない領域に達しているなぁと改めて思った。しかし、日本の性教育や養子縁組制度はもうちょっと何とかならんのか。

 

罪の声
森永・グリコ事件で3人の子供の声が使われていたのは事実らしいのだが、原作者の塩田武士氏はそこから着想を膨らませたのだそうだ。犯人にどんな理由や言い分があろうが越えてはならない一線があるのだということをはっきり描く野木亜紀子氏の脚本は好ましい。そして、着々と増える野木組の面々に小栗旬さんが加わったのが嬉しいな。

 

おらおらでひとりいぐも
女性にとって別に恋愛や家族がすべてじゃないんだぞという当然の概念を、一人暮らしの老境の女性を主人公に描いているのがおそらく原作の面白さなのだろうと予想するが(未読ですみません)、沖田修一監督は、原作のモノローグを3人の男性キャラクターで擬人化したり、監督のお母様のエピソードなども入れたりしてかなりアクティブにアレンジしている様子。人間の内面を表現するのは難しいけれど、監督による映像表現への翻訳は効を奏していると思った。

 

アンダードッグ
またボクシング映画?と正直思ったが、【百円の恋】の武正晴監督と足立紳氏が男性のボクシングをどう描くのかという興味がつい湧いてしまった。チャンピオンになる夢を諦め切れず地を這うようにボクシングにしがみつく年配ボクサーの話は、【あゝ、荒野】などに較べると随分泥臭く、その分刺さるものがあった。主人公を演じた森山未來さんも、彼の対戦相手を演じた勝地涼さんや北村匠海さんもよかったけれど、もうお腹いっぱいなので、関係者の方々は当面ボクシング映画の企画は出さないで戴きたいなと思った。

 

泣く子はいねぇが
父親になる心の準備もないまま子供ができてしまったある秋田の青年の心の逡巡を描いた物語。そう書いていたらダルテンヌ兄弟の【ある子供】という映画を思い出したが、自分の身体の中に起こる生理現象として子供を授かる女性と違って、男性は世の東西を問わず、自分が親になった実感をなかなか持つことができなくて親としての成長が遅れてしまうものらしい。そんな青年に血肉を与えている仲野太賀さんがとてもリアルに映った。

 

私をくいとめて
勝手にふるえてろ】と同じ綿矢りさ原作×大九明子監督作。一人でいることに慣れすぎていて頭の中のアドバイザーと会話している主人公の女性は、壁にぶち当たり何のかんのと迷いながらも、結局自分に折り合いを付けて新しい道に踏み出して行こうとしているので、私なんぞより随分立派だと思う。のんさんはそんな女性を見事に演じていたと思うが、彼女一人のシーンの印象が強烈なのに対し、相手との会話のキャッチボールが必要なシーンが少し平坦じゃないかと気になった。

 

ホテルローヤル
舞台はラブホテルだけど、いわゆる濡れ場的なものはそれほどない(無くはないが、期待して見に行ったらおそらくガッカリする)。波瑠さんは、映画ではもともと少し寂しげな役柄が多い印象があるのだが、うらぶれたラブホテルの跡取り娘という役柄がいい意味でぴったりくる。短編集だという原作を、主人公のある種の成長物語とホテルの有為転変を中心に、様々な人々の群像劇として再構成しているのもいい。けれど終盤はもっとサラッとしていた方が個人的には好みだったかな。

 

Away
ラトビアのギンツ・ジルバロディス監督が一人で制作したというアニメーション。世界のどこかに不時着した少年が、どこまでも追いかけてくる大きな黒い影からバイクで逃げながらある場所を目指すという話。少年が旅するどこか不思議な世界は何となく『ICO』というゲームの雰囲気が思い出されたが、この世界は何かのメタファーなのだろうか。見ていると色々なイメージが喚起される豊かな作品だと思った

 

ばるぼら
手塚眞監督が初めてお父様の作品を映画化するのにこの作品を選んだというのが興味深かった。今の時代の感性から見れば相当古くさいキザ野郎の主人公をどう表現するのだろう?と思っていたが、小説家であるという自意識が行き過ぎてあがく姿が滑稽にすら映るこのキャラクターを稲垣吾郎さんは実に見事に演じていて、そのことにいたく感動した。しかし、もうちょっとブッ飛んだ映像表現があってもよかったかなと、少しガッカリした気持ちも。

 

天外者(てんがらもん)
五代友厚を主役にしたオリジナル脚本の幕末群像劇。史実にどれだけ忠実なのかは分からないが、予め史実をよく分かっている人向けの描写といった印象で、私のような素人にはもう少し詳しい説明が必要なのではないかと思った。けれど、高い志を持つ五代友厚という人物を熱意を持って演じている三浦春馬さんには魅きつけられた。彼はこれからどれほどの境地に到達したことだろう。彼を失ったことが心から残念でならない。

 

最近映画館で見た映画 (2020/10/19版)

 

ここのところ映画館で見た映画です。

 

海辺の映画館―キネマの玉手箱
ここ何作かの大林宣彦監督は、一作一作に命を削って、若い人に言いたいことや映画に対する思いを作品に注ぎ込んでいたように思う。本作には特に監督の映画愛がぎゅうぎゅうに詰め込まれて、隅々にまで溢れかえっている。最後の最後まで映画のために命を燃やし続けて、私達に愛を残してくれた監督には感謝しかない。監督がまた会いましょうと言ってくれたから、またどこかで会える気がする。宇宙のどこかの次元できっとまたいつかお会いしましょう。

 

スパイの妻
【ハッピーアワー】【寝ても覚めても】を手掛けた濱口竜介・野原位両氏に、黒沢清監督が脚本執筆を依頼したとか。出来上がったのは、たとえ世界を滅ぼしてでも貫きたいと願う愛の話。いろんな解釈があるんだろうけど、私の考えでは、あれはあそこまでやらなきゃ成功しないくらい危険なことで、彼女はそれを理解したんだろう。蒼井優さんの口調や立ち居振る舞いを見ると、昔の映画もすごく研究してるだろうなと思う。高橋一生さん共々日本映画界の至宝だ。けれど個人的にはこのタイトルがイマイチ。内容的には間違ってないんだけど、「スパイ」という言葉にも「妻」という言葉にも全然ロマンを感じられなくてときめかないんだよね……。

 

TENET テネット
この筋書きが1回で理解できた人は凄い。私は本当に薄ぼんやりとしか分かりませんでした。まぁ何度も見てもらうことを前提にしているのかもしれませんが……。クリストファー・ノーランという人はこんなことばかり考えて生きているのでしょうか。真性の変態だと思います。

 


歌のイメージから何か話をこしらえるといった企画が好きではないので、本作も、瀬々敬久監督じゃなければ絶対スルーしてただろうな……。初恋同士の二人がそれぞれの道を歩み、紆余曲折を経て、十数年の後に結ばれる、といった話だが、エピソードの一つ一つが無理くさくなく、案外すんなりとストーリーに入って行けて、気がつけば登場人物たちの人生に思いを馳せていた。林民夫氏の脚本はさすがに強い。そして、菅田将暉さんや小松菜奈さんの輝かんばかりの存在感は、目が離せなくなるような吸引力があった。

 

ステップ
密かに好きな飯塚健監督作。妻に先立たれた男性が、男⼿⼀つで娘を育て、やがて再婚もする。育児を妻に任せきりにしていた人がそんなに簡単にいろいろできるようになるのかとか、仕事に制約がつくことにもっと葛藤は無かったのかとか、その辺りにもっと言及して欲しいような気もしたが、敢えてあっさり描いているのかもしれない。長年に渡る彼の心の変遷や家族との関わりが誠実に描かれているのは心地よい。こういう等身大の男性を演じる山田孝之さんをもっともっと見たいなぁと思う。

 

浅田家!
ユーモラスな家族写真を撮る写真家の浅田政志さんの話を中野量太監督が映画化。個人的に二宮さん主演の映画はもう見なくていいかなーと思っていたのに、妻夫木さんを二番手に持ってくるなんて汚い手を使うとは……(←妻夫木さんファン)。周りのキャストも演技力が抜群に高い人ばかりな中、二宮さんの演技もあまり疑問を感じたりすることなく見ることができた。ご結婚などをきっかけに演技にも変化が出てきたのならいいのだが。

 

一度も撃ってません
探偵物語』『あぶない刑事』【野獣死すべし】【いつかギラギラする日】などの丸山昇一氏脚本。主人公は団塊の世代のハードボイルド作家。周りは次々にリタイアしていく年回り。小説のネタのために殺し屋を名乗っているが、本当に依頼を受けたら外注している。そんな彼がトラブルに巻き込まれる……。う~ん、これはコメディなのか?ハードボイルドをこじらせたおじ(い)さんが右往左往する様子を愛でたり、寄る年波には勝てないという言い知れ得ない寂寞感を噛み締めたりすればよいのかな?これは登場人物の皆さんと同年代の人に向けた話という感じだが、さすがに自分はまだその域には行っていないかもしれない。

 

ミッドナイトスワン
内田英治監督の映画はブルドーザーみたいなイメージがある。ものすごくエネルギッシュ。だけど細かい感情の機微をなぎ倒していく感じ。本作も、せっかく草彅剛さんがトランスジェンダーの女性を丁寧に演じているのに、何故、後半ストーリーをああいう方向性に持って行ってしまうかな。母になりたいってそういうことじゃないのでは。旧来のステレオタイプジェンダーの鋳型に当てはめて考えることしかできないなら、こういう主題に安易に手を出したりしない方がいいんじゃないかと思う。

 

 

ご無沙汰しております。下の記事にもある通り、今後、映画館での映画鑑賞から自宅での映画視聴に軸足を切り替えようと考えるようになりました。自宅で見た映画の感想をどうまとめるか(もしくはまとめないか)は検討中です。

 

この半年何を考えていたのかの備忘録

 

やくたいもないことをだらだら書いてしまった。どうもすみません。まぁ誰も読んでいないだろうからいいか。これから何年か経った時に、あの頃何を考えていたのかと少しばかり思い出せるようなものを、自分のためにちょっと書いておきたかったのだ。

 

 

脚本家の野木亜紀子さんがFireTVなる装置を薦めているのをツイッターで見かけ、ゴールデンウィークにどこにも行けない家族に映画でも見て気を紛らわせてもらおうという思惑もあって我が家でも導入した。それが自分の生活をここまで変えることになるとは思いもしなかった。

 

Covid19のパンデミックのため様々なことを控える生活を送らざるを得なかったここ半年。もともと在宅だった仕事も激減する中、日々ツイッターばかり眺めていたと思っていたけれど、FireTVで見た作品のログを見返してみると、映画やアニメシリーズなど、思った以上に大量の作品を見ていて、我ながら驚いた。

 

Amazon PrimeNetflix、U-NEXTなどの動画配信サービスは知っていたし少し利用したこともあったのだが、携帯やタブレットの小さい画面を見続けるのはどうにも疲れるし性に合わない。PCはいつも仕事や他の作業に使っているし、画面のサイズや距離感的に動画を見たりするのには不向きだ。その点テレビは、最初から視聴のためだけに準備されている機材なので、圧倒的に見やすい。勿論これは自分自身がテレビに慣れ親しんできた世代だからであり、若い人の環境や感覚は違うのかもしれないが、とにかく自分にとっては、配信された映画やドラマやアニメをテレビの画面で見ることができるようになるというのは大変ありがたいことだった。

 

近所のレンタルビデオ屋に行っても、目指すDVDやBlu-ray(もうとっくにビデオではない)が無かったりすることがままあって、自然に足が遠のいていた。でも配信サービスなら、わざわざ店に足を運んだり返却日をさほど気に留めたりしなくても、作品が入荷されてさえいればいつでも見ることができる。なんて便利なんだーーーー!!!と初めて文明に触れた人類のような心持ちになる。なるほど、世の中が一挙に配信に流れているというのがよく分かる。レンタルビデオ屋という業態はもうすぐ過去のものになってしまうのかもしれないな。映画館とはある程度棲み分けができる可能性があるかもしれないが(もしかすると、映画視聴という習慣が常態化することによって、逆に少しぐらいは映画館への環流を期待できるかもしれないが)、観客の高齢化と言う問題もあることだし、いずれにしろ厳しい時代がやって来るに違いない。

 

閑話休題。こういう社会情勢で映画公開から配信への移行のタイミングがどんどん早まっているので、それなら無理に映画館で見なくても、配信を待っていればいいのかもしれない。むしろ今後は、見るかどうか決めかねていたような作品でも、気軽に見ることができるようになるのではないか。多少マニアックな作品を見る機会はもしかしたら減るかもしれないが、そうした作品と出会えるかどうかはタイミングと運の問題だと、先日考えを改めたばかりだし、むしろ、配信でしか見ることができない作品の中にこそ素晴らしい作品を見つけることができるかもしれない。それならば、是が非でも映画館で見なくては!と心を動かされる作品以外は、配信サービスの海の中で出会える可能性に賭ければ、それで事足りるんじゃないだろうか。

 

……などという戯れ言を頭の中で繰り返し考えるようになっていたのだが、毎週複数の映画を映画館で見るという長年続けていた習慣を変えなければいけないのかもしれないのは、何もコロナ禍だけが原因ではなかった。

 

今年の初めにこんな所信表明を書いていたことにふと気がついた。
「資金的な問題を含めた様々な条件から、今後も映画を見続けることができるのかどうかよく分かりません。ある時期以降の自分にとって映画は世界と繋がる手段でしたが、そういうことも含めて、自分の中の様々なルーティンをもう一度洗い直してみなければならない時期なのかもしれないなぁ、と思ったりもします。」……Oh my goodness !!!
有り体に言って金がない!アベノミクスでサラリーマンの年収が100万円くらい下がったという話をどこかで聞いたが、私はサラリーマンではないけれど、本当に年収が100万円くらい下がっている……。しかも、もともと500万円くらいもらっていて100万円下がったなどというような悠長な話ではなく、もともとカツカツだった年収がもっとカツカツになっているのだ。そんな中、いろいろ胡麻化しながら無理矢理以前の習慣を続けていたのが、限界に達しつつあったのだ。
確かにコロナで収入が劇的に減った。でもそれは、コロナ以前からとっくに始まっていたのだ。

 

そもそも、是が非でも見たいと思うような新作映画の数が減っていたということもある。そもそも日本の映画界はどちらかと言えば若い人向けに市場が構成されている上、長年いろんな映画を見てきたので、かなりの数の映画は見なくても大体手の内が分かるようになってしまった。そんな中、気がつけば、日本では若手俳優の売り込みを目的とした低予算で中身の薄い映画ばかりが量産されるようになっており(←現場で作る人や出る人ではなく企画する人の問題である)、海外からの買い付けも予算重視になっていて(←賞を獲ったりするような評価の高い映画は値段が相対的に高くなる)、自分好みの中規模・小規模な力作にお目に掛かる機会自体が、おそらく以前よりかなり少なくなっている。

 

きっとコロナというのは単なるきっかけで、私にとっては、主に映画館で映画を見る生活から、主に配信で映画を見る生活にシフトチェンジするべきタイミングがやって来ていたのだろう。

 

しかしまぁ、こんなことは誰でもやってることなのだ。それを自分も始めるというだけのことなのだ。

 

 

そんなふうに考え始める中、映画館で映画を見るということを部分的に再開したのは、大林宣彦監督の遺作【海辺の映画館―キネマの玉手箱】だけはどうしても映画館で見たい、という思いからだった。

 

映画館での映画鑑賞を部分的に再開するにあたって、自分なりのルールを設定した。すぐ行き来できる距離で半同居している親が後期高齢者なので、余計な感染のリスクは負いたくないし、過度の心配も掛けたくない。(どうやらこの辺りの感覚は、高齢者や子供と同居しているかどうかで人によりかなり違っているらしい。)なので、なるべく我が千葉県から越境せず、最大限行くとしても銀座までで、新宿や渋谷には足を踏み入れない。なるべく混んでいない映画館や時間帯を狙い、あまりに混んでいるようならその日は断念する。こうなると都内のみで上映される単館系の映画は難しくなるが、致し方ない。さっきも書いたが、映画とは出会いのものだ。もしご縁があればきっとまたどこかで出会うことができるだろう。
そうだ、もう一つルールがあった。配信を待てそうな映画(そしてそのまま出会えなかったとしても後悔が薄いであろう映画)は極力待つということ。

 

でもやっぱり映画館はいいよね。家だとどうしても「ながら見」になってしまいがちだが、映画館の暗闇の中では、映画だけに向き合って身を委ねることができる。私はあの空間にいる時間が好きなのだ。

 

しかしこうした映画館詣(もうで)も、館内で1席ずつ空けて隣りの人との距離を確保するという座席の販売方法が順守されていたから、ある程度自分を納得させて再開することができたのだ。が、最近になって、これでは利益を出しにくいからと、多くの映画館で週末だけは全席の販売を再開するという謎の方策が取られるようになってしまった……。安全のために取られているはずの処置が土日だけは必要無くなるなんて、一体どういう理屈なの !? 誰が音頭を取ったのか知らないが、欺瞞もいいところでは。映画業界も苦しいのだということは理解したいとは思うけど、映画業界が観客の命や健康と、自分達の利益を天秤にかけて、前者を軽んじるという結論を出したということは、今後一生忘れない。

 

映画業界にはもう一つ不満に感じていることがあった。映画館が営業を再開した際、大作映画と呼ばれる映画が軒並み公開延期になる煽りを受けてか、中規模・小規模な作品群が、大した宣伝も行われないままに、まるで投げ売りされるみたいに矢継ぎ早に公開されていたことだ。
もしかすると製作会社の側でも、一刻も早く公開しないことには資金繰りが苦しい等の状況があったのかもしれない。が、それにしてもあの状態は、傍目にはあまりにも愛が感じられなかった。
映画業界としては、大作映画がなければやっていけないというのは偽らざる本音だろう。しかし、中規模・小規模の映画を大切にすることなく、いきなり大作映画だけを世に出すことができると思っているのだろうか。日本の学術の世界と一緒だよ。裾野を無くしていきなり高い頂(いただき)だけを作りたいと思っても無理なんだということが分からない人が、映画業界にも一定数存在しているような気がする。

 

あーもう一つあった。いくら映画館に来い来いと言われても、金がないから前みたいに行けないんだよ……。映画業界の中の人は、日本人の実質の平均年収が昔よりずっと減ってみんなカツカツの中で生活していて、昔より映画に割くことができる金額も減っているのだという事実と、もっと真正面から真剣に向き合うべきなんじゃないだろうか。アレだな、映画業界を動かす中心にいるような人達はみんな金持ちのじーさんばっかなんだろうな。だから、私みたいなパンピーの気持ちを逆撫でして反感すら覚えさせていることに気づかないんだろうな……。

 

 

ということで、個人的に、これまでの映画館通いの生活を、配信視聴を中心にした生活に鞍替えさせることになったのだが、長年の習慣を根本的に変えるのは結構大変かもしれない。まず、複数ある配信会社にどんな映画が入っているのかという情報を集めるのがなかなか難しい。各会社でフォーマットはばらばらだし、あまり分かりやすい形になってない。それでも新入荷作品はまだ何とかなるかもしれないが、旧作となるとお手上げで、思いついた作品を片っ端から検索に掛けてみることくらいしかできない。もっと体系立った合理的な情報取得の方法はないものか?まぁ現在は過渡期なので、こうした環境もそのうち整えられていくのかもしれないが。それから、自分の映画サイトも手直ししなくちゃならないだろう。まぁそれは追々やっていけばいいか。

 

そう、所詮私の考えていることは、映画とどう向き合っていくかということばかりだったのだ。

 

 

最近見た映画 (2020/03/23版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

Red
かつて不倫をしていた男性との関係が再燃する女性を描いた小説を三島有紀子監督が映画化。いくら物分かりがいい可愛い妻を演じることに疲れたからって、こんな独占欲丸出しのカッコつけ自己中男のどこがいいんだ?と思ったが、そんな彼の弱さや狡さもひっくるめて魅かれてしまったのならもう仕方ないんだろう……。そんな良し悪しだけでは量れない人間の在りようが驚くほど精密に描写されているのが圧巻。夏帆さんと妻夫木聡さんの深淵をえぐり出すような演技や、脇を固める柄本佑さんや片岡礼子さんの佇まいが素晴らしかった。

 

名もなき生涯
ナチス政権下のオーストリア良心的兵役拒否により投獄された男性とその妻を描くテレンス・マリック監督作。どんな目に遭っても信念を曲げない夫と、狭い共同体の中でエグい村八分に遭いながらも夫を信じ愛し続ける妻の姿が、ヨーロッパの農村の美しい風景と相まって荘厳な印象を残す。監督のこれまでの作品の中で最も好きな1本になったかもしれない。

 

影裏(えいり)
転勤先の岩手県盛岡市に住む男性が、友人となった人物の知らない側面に翻弄される大友啓史監督作。ゴーアヤノが松龍に片想いしてその二面性に思い悩む話だと考えれば凄くシンプルなんじゃなかろうか。最近は大友監督の作品からすっかり遠ざかっていたが、やはり見るべき作品を創るポテンシャルを持っている方なのだなぁと再認識した。

 

娘は戦場で生まれた
壊滅に追い込まれていくシリアのアレッポの人々をジャーナリスト志望の女性が撮影したドキュメンタリー。他のシリア関連のドキュメンタリーと大きく違っているのは、監督がアレッポ最後の病院の医師と結婚して子供を産むこと。こんな絶望的な状況の中でも人間は人間としての営みを続けようとするのか、という不思議な感慨があった。

 

静かな雨
【わたしは光をにぎっている】の中川龍太郎監督作。記憶障害系のストーリーには大概「もうええわ」と思ってしまうが、両思いで後は告白するだけというタイミングで彼女に記憶障害が起こり、毎朝イチから説明し直さなければならなくなってしまった彼氏が苦悩する、という筋立ては技ありだと思った。仲野太賀さん演じるこの彼氏みたいな男性、凄く好きだなぁ。中川監督のような作風は商業ベースには乗りにくいと思うけど、今後の作品も期待しています!

 

スキャンダル
2016年にFOXニュースの最高経営責任者ロジャー・エイルズがセクハラ問題で辞任した事件の映画化。欧米でも未だに度々セクハラ問題が話題になるのは、社会の中にまだそういうものが存在すればこそだ、と改めて思った。そうした国々より遥かに後塵を拝するジェンダーギャップ指数世界121位の日本では、道のりは更に遠そうである。

 

ジュディ 虹の彼方に
オズの魔法使】で大スターとなったジュディ・ガーランドの後半生にスポットを当てた映画。レネー・ゼルウィガーさんの熱演が凄くて、彼女が演じていることを途中で忘れてしまうほど。ただ、これほど波乱に満ちた生涯ならもっともっとドラマチックかつダイナミックなストーリーを構築できたのではないか、という不満も。脚本が良ければ【エディット・ピアフ 愛の讃歌】に比肩されるような名作になっていたかもしれないのに……。

 

グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇
太宰治の遺作を元にしたケラリーノ・サンドロヴィッチ氏の舞台を、成島出監督が映画化。女性達に対して優柔不断かつ無責任が過ぎる大泉洋さん演じる主人公に、太宰治もこんな野郎だったのかなとウゲーっとなる。これに対し、主人公の偽婚約者という役柄の小池栄子さんの破天荒なパワフルさは痛快。しかし彼女はクセのある役柄ばかりが当たり役になってしまうよなぁ……少し勿体ないような。

 

初恋
窪田正孝さんがヤクザとチャイニーズマフィアと悪徳刑事の争いに巻き込まれるボクサーを演じた三池崇史監督作。三池監督の描くヤーさんにはある種クラシックな型が出来ており、懐かしさに近いものを抱く反面、古めかしさも感じてしまう。最近のヤクザってもうこんなじゃないんじゃないかなぁ……よう知らんけど。酷い目に遭わされるがままのヒロインの女の子もどうも魅力が感じられなかったのに対し、愛のためにブチ切れ自ら行動を起こすベッキーさんは無茶苦茶よかった。

 

星屑の町
売れないムード歌謡グループを描いた25年続く舞台シリーズを、のんさんをヒロインに迎えて映画化。チームの息はピッタリだけど、時々オジさん達のノリについていけないし、のんさんのキャラ設定にもところどころブレがあるような。それでも銀幕ののんさんはやはり輝いていて、彼女を起用した製作陣には感謝するばかり。お話を彩る昭和歌謡の数々も楽しい。

 

 

今回は他にこんな映画も見ました。

 

屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ】は、ファティ・アキン監督が故郷のハンブルクの街に実在した殺人鬼の話を映画化した一編。彼に感情移入する必要は無い、と主人公の内面描写をバッサリ切っているのですが、その結果、奇怪な人物が起こした残虐な事件、というエッセンスだけを煮しめたような作品になっており、これが果たしてよかったのかどうか。
ジョン・F・ドノヴァンの死と生】は、グザヴィエ・ドラン監督が初めて英語で撮った作品。(今までフランス語で撮っていたので監督はてっきりフランス人なのだと思っていたらカナダ人でした……しまった。)子供の頃にレオナルド・ディカプリオにファンレターを書いたという経験を基に、少年とスターの文通という物語を発想したのはいいと思うのですが、最初に思いついた幾つかのシーンのイメージを整合性のある物語に構築できなかったのではないか、という印象を受けました。

ミッドサマー】は、事前に話を聞く限り多分好きではないだろうなぁと思うので未見です。そもそもホラー嫌いというのもあるけれど、気持ちの悪い何事かが起こる場所のイメージを勝手に他の国に押し付けんなよ、とか思ってしまうんですよね。

 

 

映画館にはデフォルトで換気の設備が義務付けられている、●そもそも上映中は声を出さない、●そもそも多くの劇場では収容人数が多くない上に、一部の劇場では座席を1席ずつ空けて販売している、などの要件により、多くの映画館は「密閉空間/近距離での会話や発声がある/手の届く距離に多くの人がいる」というクラスター発生リスクの三条件を何とか回避して上映を続けています。しかしこれもいつまで続くことか。

未だにオリンピックを開くとか馬鹿を言っている政府自民党の無能ぶりと出鱈目ぶりと腐敗ぶりのため、日本は落ちるところまで落ちることでしょう。これまで政府と馴れ合って来たマスコミも同罪と考えます。言いたいことはありすぎるけれど、ここは政治アカウントじゃないのでこの辺で。

3月・4月はそもそも見たい映画が少なかったのに加え、我が家にも後期高齢者がいるので映画館に行くのも最低限にしたいため、これからしばらくは低浮上になります。皆様、どうぞくれぐれもご自愛下さい。地獄を生き延びた先できっとお会いできますように。

 

最近見た映画 (2020/02/08版)

 

最近、こんな映画を見ました。

 

パラサイト 半地下の家族
韓国の天才、ポン・ジュノ監督のカンヌ映画祭パルム・ドール受賞作。ある金持ち一家に出入りするようになった青年の一家が、金持ち一家に気づかれないようにどんどん寄生し始める。彼等の行状はいつバレるのか?と最初はハラハラしていたが、途中からそんな臨界点も超えたブッ飛んだ展開になり、この先一体どうなるの?と恐いもの見たさの期待感から、最後は“どーん”と打ちのめされ……。しかし、【スノーピアサー】も【オクジャ】も悪くなかったけど、やっぱり地元で撮った作品の方が胸に迫るかもしれないなぁ。映画に血肉が通っているというか。(是枝裕和監督の作品もそう。)

 

AI崩壊
入江悠監督のオリジナル脚本による作品。2030年の日本は衰退していて医療くらいしかまともな産業がないというのも、あるデータベースに様々な情報が集約化されるというのもありそうな話。その設定に乗せたサスペンスの組み立ても申し分なく、力のあるキャストが演じていて見応え充分。あの【サイタマノラッパー】の入江監督がこんな壮大な話を創るようになったんだなぁ、と感慨深かった。ところで作中に出てくるあの法律、まるで自民党が執心している「緊急事態条項」みたいだね。

 

his
【愛がなんだ】の今泉力哉監督の新作。恋人に去られたことで心を閉ざし流れ着いた田舎で暮らす青年のもとに、その元恋人が子供を連れて現れる。この男性二人のそれぞれの気持ちも、彼等がその土地で受容されていく姿も、子供の親権を巡って離婚調停中の元恋人の妻の気持ちも、繊細に描かれていて圧巻。キャストはみんな素晴らしかったけど、宮沢氷魚さんのあまりの透明感にはウッときた。彼等はこれから一体どうなるのか、考えさせてくれるようなラストシーンもとても印象的だった。

 

フォードvsフェラーリ
1966年のル・マン24時間耐久レース。フェラーリ社に勝ちたいフォード社に雇われた元レーサーは、あるドライバーをスカウトする。はみ出し者の二人が、時に商売優先の上層部と衝突しながらもレースへの情熱をたぎらせる姿は胸熱。カーチェイスとガンファイトは眠くなる体質なので最初は鑑賞リストから外していたのだが、マット・デイモン様が出演を引き受けるような作品はさすがに人間ドラマもしっかりしていた。クリスチャン・ベイルさん演じる無骨で不器用なドライバーがあまりにもカッコよく、その結末に涙せずにはいられなかった。

 

プリズン・サークル
対話をベースに自分と向き合うTC(回復共同体とも治療共同体とも訳される)という教育プログラムを日本で唯一採用している刑務所で実際に撮影したドキュメンタリー。坂上香監督は「暴力の後をいかに生きるか」が自作のテーマだとのこと。受刑者の中には子供の頃に過酷な経験をしている人も多く、辛い気持ちを思い出したくなくて感情を停止させているから自分の感情に向き合って整理するのが苦手、という人達が結構いるらしいというのに驚いた。エンドロールの最後に「暴力の連鎖を止めたいと願う全ての人へ」という言葉が掲げられるが、そのために予算や労力を配分することは、長い目で見れば社会全体で無駄なコストを大幅に減らし一人一人の人間が持つ力を有効に使っていくことに繋がるのではないだろうか、と思った。

 

ラストレター
岩井俊二監督の最新作。ある人物のお葬式の様子から始まるのだが、高校卒業までの姿しか映されないその人物に対する追憶がこの映画の影の主役だったのだと、最後に気づかされた。でも彼女が味わったであろう地獄の苦しみを思うと、周りの人々の姿はあまりにも淡々とし過ぎてないか?いや、もうその段階は過ぎ去ったからこそ、彼女の美しい姿を記憶に留めることで彼女の生きた道筋を慈(いつく)み、自分達が生きる糧にしようとしているのか?うぅむこれは、考えれば考えるほど一筋縄ではいかない映画であるような気がしてきた。

 

ジョジョ・ラビット
第二次大戦末期のドイツ。ヒトラーを空想上の友達にしていた気弱なジョジョは、家の中にユダヤ人の少女が匿われているのを発見してしまう。以前ドキュメンタリーで見たヒトラー・ユーゲントはもっと規律重視でユーモアに欠けた全然違う雰囲気で、これはあくまでもハリウッドの解釈によるナチス・ドイツの話なのだということに身構えてしまう。ただ、スカーレット・ヨハンソンさん演じるジョジョの母親や、サム・ロックウェルさん演じる大尉などの人物造形が魅力的で、だからこそジョジョが向き合わざるを得なくなる現実の残酷さがより鮮明に心に残る。きちんとした矜恃を持った力強い映画だと思った。

 

リチャード・ジュエル
ある野外コンサートで爆弾の第一発見者となるもメディアに犯人扱いされ糾弾されたアメリカの警備員の実話を基にした話。クリント・イーストウッド監督は多くの作品でアメリカという国と個人との距離感を検証し続けてきているように思うが、いわゆる成功者ではないが故に一層愚直なまでに模範的アメリカ市民として振る舞おうとするリチャード・ジュエル氏の人物描写は非常に興味深かった。反面、彼を告発する実在した女性ジャーナリストの描写があまりにもお粗末すぎて残念。(色仕掛けで情報を取った云々もそうだけど、大して裏取りもしないまま記事にして、ごく初歩的な実証実験で改心して泣いているとか、頭が悪すぎじゃね?)こんなことでせっかくの良作を傷物にしてどうすんのよ。

 

ロマンスドール
タナダユキ監督の最新作で、高橋一生さん演じるラブドールの製作者が、蒼井優さん演じる妻と出会って愛を育む道のりが描かれれる。監督が描きたかったのは、行き違いを乗り越えてやっと分かり合えた二人の愛の交歓か、その果てに行きついた極致なのか、それともあの浜辺のラストシーンか。彼は魂を込めて美しいラブドールを創るけれど、愛する女性とそっくりなドールが人手に渡るって人形師さん的にはどういう気持ちがするものなの?とふと思った。ピエール瀧さんがどこか怪しげな社長の役にぴったりだった。

 

風の電話
東日本大震災後に多くの人が訪れたという岩手県大槌町の「風の電話」をモチーフにした諏訪敦彦監督作品。震災で家族を失った少女の喪失感と、彼女がつらい記憶と向き合いながらそれでも生きていこうと思い始めるまでの過程が繊細に描かれているのが素晴らしく、特にモトーラ世理奈さんが「風の電話」をかけるクライマックスのシーン(何とアドリブなのだそう!)は圧巻だった。ただ、以前「NHKスペシャル」でこの電話のドキュメンタリーを見たことがあって……フィクションにはフィクションの良さや独自の役割があるとしても、現実の迫力はまた次元の違うものだよなぁ、と思わざるを得なかった。

 

テリー・ギリアムのドン・キホーテ
ついに、ついに、ついに出来上がった【ドン・キホーテを殺した男】。テリー・ギリアム監督は、ドン・キホーテの映画化を思いつくも原作を読んで不可能だと悟り、ドン・キホーテ的なエッセンスを加えた話を構想したそうだけど、それは見果てぬ夢を追いかけるこういう男の物語だったのか、と感無量。このバージョンはおそらく最初考えていた形と全く同じではなく、歴代の出演予定者で出来上がっていたらどうなっていただろう、とどうしても頭をよぎるけど、これは最早そうした30年来の歴史ごと受容せざるを得ない希有で特異な作品なのだ。でもこの映画のことを初めて知った若い人には何のこっちゃかもしれないな。

 

オルジャスの白い馬
竹葉リサ監督がカザフスタンのエルラン・ヌルムハンベトフ監督と共同で監督した合作映画。大地の雄大な印象とは裏腹に、結構ハードだったり生々しかったりする出来事が起こる。草原に暮らす主人公の少年を演じるマディ・メナイダロフくんの存在感に大変説得力があって素晴らしい。一家の下にやってくる謎の男を演じる森山未來さん、ナチュラルにカザフスタン語を話しながらナチュラルに馬に乗る才能の塊(知ってた)。もしかして海外の人が見たら彼がカザフスタン人じゃないって分からないんじゃないかなー。

 

mellow
こちらも今泉力哉監督作品。優しい雰囲気で概ね心地よく見ることができるけれど、いくら良い花束を作るためでもプライベートなことをいろいろ聞いてくる花屋とか、私ゃ絶っっっ対無理。田中圭さんだからギリギリ成立……しているのかなぁ?あと、花屋さんはアレンジメントの仕事だけじゃなく、水切り仕事など結構な肉体労働だとも聞くのだが。相手役の女性が家業として営むラーメン屋さんもそう。二人の関係にはお互いの仕事に対するリスペクトが基本にあると思うので、そういうところももう少しだけ描いて欲しかったかも。

 

前田建設ファンタジー営業部
マンガやアニメの世界の建造物を実際に造ろうとしたらどうなるのか、ということを真面目に追求した前田建設のウェブ連載を、劇団ヨーロッパ企画が舞台化し、これを更に映画化した作品。そうか、マジンガーZの格納庫って本当に造れるんだ……。ドラマとしての脚色部分は良し悪しかもしれないが(紅一点の女子の扱いがステレオタイプなのがどうも)、こんな活動をしている企業があるなんて世間は広いなぁ、と知ることができてよかったと思う。

 

マザーレス・ブルックリン
エドワード・ノートンが監督・脚本・主演を務める私立探偵もの。主人公には言うべきでないことを口走ってしまうトゥレット症候群という病気があるのだが、そういう特異さもしばらくすると見慣れてきてしまう。全体的にもう少しコンパクトにまとめることもできた気もするが、テンポ感よりも、1950年代のニューヨーク裏社会の雰囲気描写に重きを置いた結果なのかもしれず、これはこれで悪くないのかもしれない。

 

淪落の人
半身不随となった男性と、彼を世話する住み込みのフィリピン人メイドを描いた香港映画。男性とメイドの女性は、最初は隔たった立場にいるけれど、お互いの苦しみや夢を知り、次第に人間同士としていたわり合うようになる。二人の関係性の細やかな描写がしみじみ胸を打った。お目当てだったアンソニー・ウォンさんも凄くよかった。

 

エクストリーム・ジョブ
韓国で大ヒットしたという警察もののドタバタコメディ。脱サラを考える人がフライドチキン屋を始めるというルートは韓国で一時流行ったらしいけど(テレ東の経済番組調べ)、軌道に乗せるのはなかなか難しいらしく、捜査のため偽装で始めたフライドチキン屋を大繁盛させてしまうなんてどんだけ才能があったのか(笑)。しかし、クライマックスで大立ち回りを見せるこのチームがどうしてあんなにポンコツ扱いされていたのだろう。いろいろ謎だけど、面白いからまぁいいや。

 

イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり
19世紀イギリスの気象学者ジェームズ・グレーシャーが気球で高度11277mまで到達したという史実を基にした一編。酸素もほとんど無くマイナス何十度にも達する世界……これがどんなに無謀なことかこの時に分かったから、この高度の記録は未だに破られていないのだろう。相方の操縦士が女性というのは創作らしいし(モデルになった人はいるらしいが)、ほとんどが気球の上の二人のやり取りだけなので若干の単調さは否めないけれど、気球には個人的にどうしてもロマンを感じてしまうので少しおまけ。