たそがれシネマ

最近見た映画など。

3Dは映画の未来じゃない

 

思えば最初に【アバター】を見た時に、私の3D映画鑑賞歴はもうほぼ終わりを告げていた。


現状の3D映画は、画角が狭いスクリーンの中にきっちり閉じ込められてしまうから、画面が小さくちまちましてしまって全く広がりが感じられない。空間の開放感こそは映画館の最大の楽しみの一つなんじゃなかったのか ?

しかしそれ以上に問題なのがこの頭痛。万年デスクワーカーで眼精疲労が持病である私の眼には、3Dの画面に焦点を合わせ続けるというのはとてつもなく難度の高い技みたい。おかげで【アバター】を見た時にも、試しにもう一度だけ【アリス・ イン・ワンダーランド】を見た時も、その後3日くらいは、かつて経験したことのないタイプのしつこい頭痛と吐き気に悩まされた。世の中で無神経に3Dを推進して回っている連中は、揃いも揃ってよっぽどあほみたいに健やかな眼を持っていて、自分ではデスクワークなんぞする必要のない金持ちばかりなんだろう。しかし私は、自分の健康を害してまで新時代の技術とやらにつき合うつもりはさらさらない。時代遅れで結構。もし世の中が3D映画ばかりになってしまったら、その時は今度こそ映画を見るという呪いから解放されることができるに違いない。ラッキー。


そんな私が、最近立て続けに2本も3D映画を見てしまった。1本はヴィム・ヴェンダース監督の【ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち】で、もう1本はヴェルナー・ヘルツォーク監督の【世界最古の洞窟壁画 忘れられた夢の記憶】。どちらも、昔から断続的に作品を拝見させて戴いている監督さんが敢えて3D映画を撮ってみましたという作品なので、どんなもんかいな ? という興味がついつい湧いてしまったのだ。

ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち】は、ヴェンダース監督とピナ・バウシュが進めていたヴッパタール舞踊団のドキュメンタリー化の企画を、ピナ・バウシュの死後に完成させたもの。お恥ずかしながら、かの高名なピナ・バウシュの舞台をほとんどまともに見たことがなかったので、彼女の精神がまだほとんど変わらずに受け継がれているこの時期に、その舞台の一端を見せてもらうことができたというのは大変ありがたいことだと思った。ただ、アップやバストショットはまだいいのだが、ロングショットになるとどうも妙。そのシーンだけ、コロボックルかアリエッティみたいな小さな小人さんたちが、小さな画面の中でぴょこぴょこ踊っているみたい。そのアンバランスさが気になって、最後まで集中できず、どうにも鑑賞といった次元の話に至らなかった。

【世界最古の洞窟壁画 忘れられた夢の記憶】は、1994年に南フランスで発見された人類最古の絵画と言われるショーヴェ洞窟の壁画(私らの年代が昔習ったアルタミラやラスコーより倍以上古い ! )を、特別に許可を受けたヘルツォーク監督がごく少数のクルーと共に撮影したもの。ショーヴェ洞窟は、壁画の保全のためごく少数の研究者以外の立ち入りは禁止されていて、私ら一般ピープルが現物を目にする機会はまず無いので、その疑似体験ができるというのは価値が高いと思われる。特に、壁画の動物達が洞窟の壁の凹凸に沿って描かれている様子を立体的に見ることが出来るのはかなり感動的。おお~ぅ。やっとマトモな3D映像の使い道に出会えた気がするぞ。と一瞬思ったのだが……。


やっぱり頭痛はやってきた。しかも、一生懸命目を凝らして画面に集中しようとしていたせいか、いつもの頭痛よりも更にタチが悪かった……。

やっぱり3D映画なんてろくなもんじゃない。こんな人間の生理を無視したシステムが映画の未来な訳があるか。もしこんな未来が無理矢理押し付けられるというのなら、そこに私の席は無くても構わない、と思った。